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晩秋の日。

北の秋は短い。

秋が早足に行進する中、世界でいちばん好きな場所に行ってきた。

暑寒別天売焼尻国定公園にある暑寒別岳。
もうかれこれ数十回は来ている。

たおやかな容姿と裾野に雨竜沼湿原を抱く彼女を
おれは某登山SNSでママと呼称していた。

毎回暑寒別岳ママ暑寒別岳ママと連呼していたらとある山で知らない人に
「ママの人ですよね?」
と言われたことがある。

シングルトラックは落ち葉でふかふかだった
好天に恵まれ
怪しいブランマッシュルーム
北の紅葉は真紅には染まらない
錦秋の
西暑寒別岳
彼女のスカートの裾はあざやか
あの稜線にトレイルはない
藪を漕ぐか積雪期に行くしかない
振り返れば、海
奥の台地が暑寒別岳ママである
雲は流れる
あの斜面を滑り降りるライダーもいる
おれはライダーではないのでそういうことはやらない
暑寒別岳の稜線に乗り上げるとガスが谷底から上がってきた
草紅葉,ガス,幽玄
思い出と黄金の園は遠く

ここにたどり着くまで様々な風景を見てきた。

密林に沈んだ寺院、白い石畳の街並み、砂の海、波濤押し寄せる南冥の島々、カリブに沈んだ太陽。

それらよりも愛おしき場所。

この地に初めて足を踏みいれた時の感覚を忘れることができない。

5年前に見た青空

5年前、この稜線を歩きながら体も心も全てが緩やかにさらさらと流れ消失する感覚に囚われた。

生まれ変わったら雨竜沼湿原のウリュウコウホネになって暑寒別岳を眺めながら揺れていたい。

あるいはてんとう虫に生まれかわってお花の周りを飛び回ってチョウチョやトンボと遊んで暮らしたい。

その思いは今でも変わらないし機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナが目の前に現れたらそれを願うだろう。

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