5-❼ 静謐

　今や静謐だけが辺りを支配していた。しんしんと雪が降りしきるが、やはり無音である。

　彼はただひたすらに座禅を組んでいた
。多くの仏像が、彼の瞑想を見守っている。朝、昼、晩、暑い時も寒い時も、例え季節が移ろうとも、水が流れるように
、無心になれ•••と。

　彼も、当初は座禅が苦手だった。
それでも、慣れていくに従って足の痛みから解放され、すべての感覚に捉われる事なく、座禅が座禅らしくなり、今や金剛峯寺で修行をする僧としての体裁を整えていた。

　どれほどの時間が経過したのだろうか•••。
「バシッ！」
僧が彼の肩口を叩き、座禅を解くように促した。彼は立ち上がり、僧正に付き従い庫裡へと向かった。

　僧正と卓を共にするのは初めてであった。柱時計は、午後18時を示していた。
　他の僧侶は皆、僧堂にて夕食を摂っている。
〝なぜ自分はここに•••〟彼の心配をよそに僧正は口を開いた。

「今年もあと少しだねえ•••」
しんみりとした口調に温かみを感じる。
「はい」彼は僧正の目を見て答えた。

「今日は君にとって、とても大切な日となる。除夜の鐘は分かるね？」
「はい」
「人の煩悩の数だけ鐘を突く」
「はい」
僧正は彼の真摯な目を見つめて言った。
「今日は君も鐘を突きなさい」

　彼は非常に驚いた。
全く想像もしていなかったから。ましてや、その資格があるとは思えない。僧正は彼の心の内を見透かすかのように言った。

「君だからこそその資格があるのだよ」
彼はしかと僧正を見つめる。
「突く鐘に心を、想いを込めなさい。分かりましたね」有無を言わせぬ口調であった。

「はい」
僧正の、彼を見つめる眼差しは、いつもと変わらぬ温かみに溢れていた。

　僧正との夕食を終え、彼はあてがわれている自室へと戻った。畳の藺草の匂いが彼を迎える。
　彼は深呼吸をして、再び畳の上で座禅を組み始めた。

〝今年1年振り返ってみなさい〟　

　午後20時からの勤行まで1時間と少し•••彼は僧正の言葉に従い、この1年、これまでの日々を思い返していた。

　希望を求めて歩き始めた遍路••• 1度目の旅は、不安と希望の狭間に揺られながら、ひたすら歩き続けた。
　2つのお守り、3枚の写真を忍ばせ、大切なG-SHOCKを左手首に巻いて、道標を頼りに。自身の足跡を振り返る余裕は全くなかった。

　体調と天候との戦い。
夜を徹して歩いた事も、雨の中、橋の下で野宿をした事もあった。
　それでも、数え切れない程の善根を、お接待を受けて、無事に円を結ぶことが出来たのだった。

　それは正に、奇蹟のような旅であった
。

　痛む右足裏を回復に導いてくれた霊水とおばあさんのお接待、お接待所でボランティアの方々から頂いた冷たい麦茶とおはぎで疲れ切った身体がみるみると元気を取り戻していったあの感覚、冷たい
雨に打たれ、震えながら歩く中、身体を芯から温めてくれた温かなコーヒーと心配をしてくれた男性、何十キロ先の目的地までの途方もない距離を目指す彼に、貴重な栄養源をお接待してくれた老夫婦の笑顔と励まし、夜明け前の室戸岬の絶景は、今もなお忘れ難い光景であった。

　宿が無く、今日は野宿と覚悟を決め、その場所を探す為に歩いていた彼に、声を掛けてくれた老夫婦のおもてなし、同郷の夫婦が営むゲストハウスでの美味しいお接待と手作りのお弁当、その夫婦のおばあさんの内緒のお接待と笑顔。
　青い空、白い砂浜、坂本龍馬像、初めての船での遍路旅に誘ってくれた老男性の笑顔、そして•••仲間と擦れ違い、溢れ出した思い•••。
　次々と甦る景色、匂い、笑顔、そして涙•••。

　2度目の旅は、満開の桜の花が勇気を与えてくれた。

　疲労困憊の彼の前に停車し、貴重な補水液とゼリーをお接待してくれたカップル、民宿での心づくしのおもてなし、手を振り続けてくれた75歳のお母さん。
　沈みゆく太陽を飲み込まんとする海の美しい景色、步けども步けども、桜の花が行く手に現れ、抱えていた心の痛みが少しずつ解きほぐされていくのを感じていた。

　PS•••いつもお目に留めていただき、心より感謝致します😊次回配信は4月6日土曜日午前8時です。
　出会い、別れ、笑顔、涙•••翔馬が心の修行の旅を振り返っていきます。涙を笑顔に、強くなる為に！
　それではまたお会いしましょう🐴🙏

　　　　　　　　　AKIRARIKA

さて、今年もクラシックの季節が到来🐴😊
まずは牝馬1冠目の桜花賞🌸🌸
ステレンボッシュとチェルヴィニアが狙い目かなあ🤤🤤

ルメさん🥹😢お大事に🙏🙏
1日でも早い復帰を願っております🙏🙏

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