「PERFECT DAYS」観た。

原題:PERFECT DAYS
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:役所広司、中野有紗、柄本時生 ほか
上映時間:124分

公衆トイレ清掃員の平山(役所広司)を通して描き出す日常の輝き。


早朝。
外から聞こえる箒掃除の音を合図に起床。
身支度を整えて、缶コーヒーを喉に通して、車のエンジンをかけ仕事場へ。
仕事終わりに行きつけの飲み屋で一杯。時々、小料理屋。
開店直後の銭湯にも通う。
帰宅。
就寝前に本を少しだけ読み、横になる。

寝入りばなのまどろみにその日に起きた印象が脳裏に映るシーンが印象的。

平山は寡黙。
多くを語らずとも、立ち居振る舞いや余暇の過ごし方、仕事への向き合い方などから生真面目な性格がうかがえる。

困っている人は放っておかない。
優しい。

自転車を離れる時にそっとタッチするところが良い。

木漏れ日や刻々と変化する自然を慈しみ、心に余裕がある。
そのうえ、遊び心もある。

ちょっと何このおじさん、かっこよすぎなんですが!

平山を演じる役所広司が絶品。
心の機微を表情筋の緩急で巧みに伝えていた。

朝陽を浴びながら歌を沁みこませてゆく表情の凛々しさよ!


ちゃんときっちり仕事をこなす姿も清々しい。


「次に使う人のために」
これは清掃に限らず、日々に通用するのではないか。


ホームレスのおじさん、ベンチで休憩する女性など平山と束の間、接点を持つ人物たちもそれぞれ背景に人生を垣間見せるから、たしかな印象を残す。

小料理屋で始まるディナーショーが面白い。

本に詳しい古本屋の店主が良い味。

タカシを慕う幼馴染は、かぞかぞ「家族だから愛したんじゃなくて愛したのが家族だった」で草太役の俳優!

次は平山を慕うようになるといいな。

ニコは定期的に家出して入り浸りそう。


他者を思い、自分を見つめ、今を楽しもうと影を追いかける影踏みのシーンが素敵で胸を打つ。


本作は、渋谷区の公共トイレをリニューアルするプロジェクト「THE TOKYO TOILET」から生まれた映画。

それゆえに登場するトイレがどれも最新で、よくある公衆トイレのイメージとは違う。
それでもたんなるプロモーションビデオにせず監督の味を存分に加味した作品に仕上げたところは、さすがのヴィム・ヴェンダース。

展開するショットすべてに、選曲も含めて監督の美学が宿っていた。


労働現場の人手不足も露わにしながら、実直な平山の姿を通して日々の唯一無二を伝えるヒューマンドラマ。

同じように見える毎日でも変化は瞬間ごとに生じている。
それを示す現像写真のコレクションはまるで宝箱。


誰しも自分だけの世界に生きているが、社会とは常に身近で干渉しあっている。

新芽が育つように、それは希望かもしれない。

映画館からの帰り道、沈む太陽の眩しさに新鮮味を感じた。





この記事が参加している募集

映画感想文

サポートしていただけたら嬉しいです。(小声)