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ゆめみで実践するサービスデザイン:文献レビュー編

akiramotomura

「サービスデザイン」という言葉を最近よく耳にするという方は、多いのではないでしょうか?サービスデザイナーが実際にどのような仕事をしているのかと気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

私は、株式会社ゆめみでサービスデザイナーとして、社内とクライアントの両方に対して、その哲学や方法論を活用して日々業務に取り組んでいます。今回は、ゆめみで実践しているサービスデザインについて、自分の振り返りも織り交ぜながら書いていきたいと思っています。

この記事では、まずサービスやサービスデザインという言葉に関するいくつかの解釈について見ていきます。そして、後日公開する別の記事で、ゆめみでのサービスデザインの実践について、この記事で取り扱っている解釈のフレームワークに当てはめながら紹介していきます。サービスデザインそのものに興味がある方は、この記事から順を追って読み進めていただいても構わないですし、実践部分にのみ興味があるという方は、次の記事を読み進めていただいても大丈夫です。

それでは早速、「サービス」という言葉についての解釈から見ていきましょう。

サービス

まずは、「サービス」という言葉の一般的な解釈についてみていきたいと思います。Wikipediaによると「サービス」とは、以下のように定義されています [1]。

サービス(英: service)あるいは用役(ようえき)、役務(えきむ)とは、経済用語において、売買した後にモノが残らず、効用や満足などを提供する、形のない財のことである。第三次産業が取り扱う商品である。

こちらの定義は、マクロの視点から見た経済学的視点における「サービス」の定義となっています。効用や満足はサービスの受け取り手によって体感されますが、形としては残らないという特徴があることがこの定義から分かります。また、産業レベルみたときに「サービス」は、第三次産業に分類されます。この第三次産業とは、第一次産業、第二次産業以外全ての業種・業態を指し、以下のような業種・業態が含まれています [2, 総務省, 2007]。

電気・ガス・熱供給・水道業
情報通信業
運輸業、郵便業
卸売業、小売業
金融業、保険業
不動産業、物品賃貸業
学術研究、専門・技術サービス業
宿泊業、飲食サービス業
生活関連サービス業、娯楽業
教育、学習支援業
医療、福祉
複合サービス事業
サービス業(他に分類されないもの)
公務(他に分類されるものを除く)
分類不能の産業

ゆめみの業務もこちらの第三次産業に当てはまります。具体的に対象となりそうな分類としては、「情報通信業」「学術研究、専門・技術サービス業」あたりが該当すると思われます。産業レベルで考えたとき、ゆめみが提供するものは大きく括って「サービス」であるということです。

しかし、このようなマクロ視点でのサービスの定義からは、一般的な特徴や産業的な分類といった側面の理解しか得ることができません。そこでもう一つ、別の視点からこの「サービス」という概念に対する定義を紹介してみたいと思います。

「サービスデザインの教科書:競争するビジネスのつくりかた(2017)」の著者である武山政直氏は、同書の中で「サービス」いう言葉を以下のように定義しています[3]。

個人や組織が、その能力(知識や技能)を他の個人や組織の(または自らの)便益(つまり使用価値の創造)のために用いること

この定義は先程のWikipediaによる定義と同様にとても概念的ではありますが、その視点は1人の人間の単位にまで落とし込まれており、「サービス」という概念を、私たちの普段の生活で感じる次元の存在にしてくれています。例えば、私(個人)が書いているこの「note」というプラットフォーム(組織)は、記事編集・公開やコンテンツマネジメントの機能(知識や技能)を提供しており、私自身はこのプラットフォームを活用することで、自ら文章を作成し、より多くに人に届けることを可能する(使用価値の創造)という具合の関係性をイメージすることができるようになるわけです。

ところで、ここで出てくる「使用価値」とは何でしょうか?武山氏は、以下のように説明しています [3, 2017]。

ユーザーが財を使用することで知覚、認知、判断される主観的な便益(好ましい体験)を意味する。

先ほどの例で言えば、私は「note」という財を使用することで、「自らの文章を作成し、より多くの人に届けることを可能にする」という主観的な便益を見出したことになります。私は、「note」のプラットフォームを2018年頃から使用しているので、約2年間という長期的な使用経験の中で、先ほどの使用価値を主観的に知覚、認知、判断した考えることができます。この使用価値は私にとっての非常に個人的なものであり、このプラットフォームを最近使い始めた人にとっては違う使用価値があるかもしれませんし、1年前の私は、全く異なる使用価値を感じていたかもしれません。つまり、使用価値には、時間軸が存在し、その価値の本質は、ユーザによって主観的かつ流動的に定義されると言えるのです。ちなみに、この「便益(使用価値の創造)」という概念は、UXと呼ばれる概念と非常に近しいニュアンスを内包していると考えています。しかし、その関連性についてはこの記事のスコープ外なので省略します。

武山氏による「サービス」の定義は、Stephen L. VargoとRobert F. Luschらによる「Service-Dominant (S-D)Logic」という概念に基づいて定義されています。このS-D Logicは、10の基本前提(Foundational Premises)から構成されており、現代のマーケティングやサービスデザインの分野において最も重要なパラダイムの1つであるとされています [4, 2008]。

1. Service is the fundamental basis of exchange.
2. Indirect exchange masks the fundamental basis of exchange
3. Goods are a distribution mechanism for service provision
4. Operant resources are the fundamental source of competitive advantage
5. All economies are service economies 
6. The customer is always a co-creator of value
7. The enterprise cannot deliver value, but only offer value propositions.
8. A service-centered view is inherently customer oriented and relational 
9. All social and economic actors are resource integrators
10. Value is always uniquely and phenomenologically determined by the beneficiary

1. サービスは、交換の根本的基盤である。
2. 間接的交換は、交換の根本的基盤を覆い隠す。
3. 商品は、サービス供給の分配メカニズムである。
4. オペラント資源は、競合優位性の根本的な源である。
5. 全ての経済はサービス経済である。
6. 顧客は常に価値の共同創造者である。
7. 企業は価値を提供できないが、価値提案のみ提供できる。
8. サービス主軸の観点は本質的に顧客中心であり、関係的である。
9. 全ての社会的かつ経済的なアクターは、資源の統合者である。
10. 価値は常に独自的かつ現象学的に受益者によって定義される。

ひとつひとつの基本前提をここで詳細に考察していくことは避けますが、ここで特に重要なのは、6、7、10の基本前提だと思います。これらの基本前提が一貫して説明しているのは、サービスにおける価値の最終的な定義者は常にそのサービスを使用する側であるということです。つまり、企業は、自らが提供するサービスが顧客にとって価値があるものであると説得するのではなく、価値の共同創造者である「顧客」の既存、または、未来の、活動、文脈、体験に着目して価値提案をすべきであるとされているのです [5, Segelström, 2013]。

ところで、このS-D Logicは、その基本前提の表現における価値のやりとりが一方通行であることについて批判を受けています。具体的には、S-D Logicの基本前提では、企業が常にサービスを提供する側であり、顧客がそれを使用する側に固定されすぎているという点です [5, Segelström, 2013]。平たくいうと、その関係性の逆もあり得るでしょうというということです。

このことを鑑みると、武山氏による「サービス」の定義は、「個人や組織が・・・」という二つの主語を並列に設置することでS-D Logicが内包するサービスという概念における重要な観点を引用しつつ、サービスを提供する側と享受する側の流動性についても言及したものとなっていることがわかります。従って、この記事においては、また、現時点での私が理解しているサービスデザインの実践を説明していく上では、このサービスに対する解釈を基礎としておきたいということをここで明言しておきます。

ちなみに「サービス」の特徴を説明したその他の概念としては、Valarie A. Zeithaml、A. Parasuraman、Leonard L. Berryらによる「IHIP」というフレームワークが有名です。IHIPとは、サービスにおける4つの大きな特徴を説明する英単語の頭文字を合わせた造語であり、それぞれ「Intangibility(無形であること)」「Heterogeneity(不均等であること)」「Inseparability(不可分であること)」「Perishability(消滅的であること)」と表現されます[6, 1985]。ただし、こちらのフレームワークは、S-D Logic以前のサービスに対する解釈で古い概念となっているため、ここでは紹介だけに留めておきます。

サービスの構成要素とその関係性

武山氏の「サービス」の定義は、サービスに対する概念的な解釈を提供する一方で、その構成的な要素についても言及しています。具体的には、以下の4つの要素を抽出することができます。

1. 個人や組織
2. 他の個人や組織
3. 能力(知識や技能)
4. 便益(使用価値の創造)

1〜3つ目のそれぞれは、「サービス」が成立するための構成要素を表しています。4つ目の「便益(使用価値の創造)」は、それらの構成要素が調和的な関係性を実現した際に発生する現象であり、最初の3要素よりも上位の概念となります。

これまで文字とリストでサービスの構成要素について説明してきましたが、もう少しわかりやすくダイアグラムとして描いたものを紹介したいと思います。Hugh DubberlyとShelley Evensonは、Jean Gadreyが提唱する「Service Triangle(1996)」を参考に加筆して「A service as design triangle」のモデルを作成しました [7,  2010]。

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このモデルにおける「Service Provider(SP)」と「Customer/User(C/U)」は、先ほどの武山氏の「サービス」の定義における「個人や組織」と「他の個人や組織」の部分に相当し、「Service Medium(SM)」が「能力(知識や技能)」の部分に相当すると解釈することができます。また、「便益(使用価値の創造)」に関しては、この三角形のそれぞれの頂点によって形作られる調和によって支えられる概念・状態に該当すると捉えることができるでしょう。

また、SPとC/Uはお互いに関係性を形成し、一般的にはそれはブランド経験(Brand Experience)として長期的スパンで蓄積されています。サービスを提供する側であるSPは、SMに対してデザインをデザインするという「Meta Design」の関係性にあります。一方で、サービスを使用する側であるC/Uは、自らが価値を創造するためデザインの資源としてSMを活用したり、SMそのものの在り方について変化をもたらす関係性にあります。

SMに関しては、有形(Tangible )である場合と、無形(Intangible)である場合の両方の可能性が考えられます。ただし、この分類はそこまで重要ではありません。何故ならば、有形、または、無形のSMの両方が「便益(使用価値の創造)」のための役割を担うという点に違いはないからです。この視点は、人間中心設計(Human-Centered Design)から派生したものであり、サービスという人と人工物とシステムを含む存在を、より包括的に見つめるというサービスデザイン、または、サーヒスのためデザイン(Designing for Service)の実践に深く関わっています [8, Kimbell, 2010]。

サービスデザイン

ここまで、サービスという概念のそのものと、その構成要素について紹介してきました。ここからは、「そのサービスをデザインするとはどういうことなのか?」についてみていきたいと思います。

サービスデザインという分野自体は、1990年代前半にイタリアのPolitecnico di Milanoとドイツの Köln International School of Designという高等教育機関を中心にサービスマーケティングの分野の理論体系を基礎として始まったとされています [5, Segelström, 2013]。アカデミックな分野の外で一番初めにサービスデザインの事業を展開し始めたのはイギリスの 「live|work」という2001年創業のコンサルタンシーから始まったとされています [9, Moggridge, 2007]。比較的最近になって急に認知度が上がってきているサービスデザインですが、実は2000年以前から発達してきた分野であることが、この端的な歴史から理解することができます。

ここからはサービスデザインのそのものについて紹介してみたいと思います(私が理解している範囲で)。

サービスデザインという言葉には、「デザイン」という言葉がついています。そして、このデザインという言葉は、非常に厄介で時代や語り手の説得立証の目的に応じてその意味が大きく異なることが多くあります。従って、この言葉がついているサービスデザインに関する解釈に関しても目的に応じてその意味の幅が変化し、固定の定義というものは存在しません [10, Stickdorn & Schneider, 2011]。

しかし、いくつかの参考文献からその特性を列挙することはできます [5, Segelström, 2013; 10, Stickdorn & Schneider, 2011; 11, Kimbell, 2009]。

1. User-Centered (Human-Centered, People)
2. Co-Creative (Stakeholder Engagement)
3. Sequencing (Multiple Transactions, Interactions over Time)
4. Evidencing (Visualization, Making intangible tangible)
5. Holistic (Systems Thinking)

1. ユーザー中心(人間中心、ヒト)
2. 共創型(ステークホルダーエンゲージメント)
3. 連続性(複数のトランザクション、時間経過の伴うインタラクション)
4. 物的証拠(可視化、無形を有形にする)
5. 包括的(システス思考)

1つ目の「ユーザ中心(人間中心、ヒト)とは、

人工物の利用者に人間らしい生活を提供するために適切な人工物を作ろうとする考え方

のことを指します [12, 黒須, 2020]。ここで言う「人工物」には、製品、サービスなどを含みます。「This is Service Design Thinking(2017)」の中でも、サービスデザインのプロセスに、顧客を中心に据えることが重要であるとされています [10, Stickdorn & Schneider]。平たく言ってしまえば、その人工物を使う人のことをしっかりと考えて、時には一緒に、構想・設計・製造しましょうということです。

2つ目の「共創型(ステークホルダーエンゲージメント)」とは、提供するサービスに関係する多くの人をサービスデザインのプロセスに巻き込むことが重要だということです。「UX原論 ユーザビリティからUXへ(2020)」の著者である黒須正明氏は、ISO/ IEC 25010:2010の考え方を用いて、「直接ユーザ」と「間接ユーザ」とを区別しています。「直接ユーザ」は、一般的にエンドユーザなどと呼ばれ、彼らの目的達成のために人工物(製品やサービス)を利用します。「間接ユーザ」は、人工物を直接操作をすることはありませんが、その導入を決定したり、その結果を利用したり、その対象になったりする人々のことを指し、彼らのことを「ステークホルダー」と呼んでいます [12]。もう少し、包括的にサービスを取り囲む全てのアクター(人間以外の要素も含む)を「ステークホルダー」だとする解釈もあります [5, Segelström, 2013]。つまるところ、サービスデザインにおいては、エンドユーザが直接操作する部分だけではなく、サービスの表側も裏側も全て見ていく必要があると言えるのです。

3つ目の「連続性(複数のトランザクション、時間経過の伴うインタラクション)」とは、サービスが時間という軸を通じて使用、体験(または経験)されるものであるということを説明しています。公共交通機関である電車というサービスにおいては、チケットを購入し、改札を通過し、ホームで電車に乗り、目的地で降りてからまた改札を通るという連続性が存在します。先ほども例に挙げた「note」というこのプラットフォームを一度描き始めた記事は自動保存され、一定時間が経過した後、再び記事を開くと描きかけの状態で保存された記事を私は再び編集することができます。サービスデザインは、サービスという知識や技能が可能にする連続性に着目してデザインの活動を行います。

4つ目の「物的証拠(可視化、無形を有形にする)」には、2つの側面があります。1つ目は、サービスを体験した顧客やユーザに対して、その「サービスを体験した」という事実を記憶に残すための物理的な要素を提供することです。例として、旅行先のお土産、お気に入りのカフェのスタンプカードなどをあげることができます。このような物的証拠が存在することで、通常は形のないサービスを「可視化」することができるというわけです [10, Stickdorn & Schneider, 2011]。もう1つの側面は、サービスデザインのプロセスにおいて、その体験をカスタマージャーニーマップやサービスブループリントのようなツールを利用して可視化することを指しています。2009年にLucy Kimbellが実施した探求型のサービスデザインの実践に関するリサーチでは、IDEO、live|work、Radarstationでサービスデザインを実践するデザイナー達へのインタビューから得られた発見として、システムとして普通は無形で知覚することのできないサービスを様々なツールを活用することで可視化し、複数のアイデアを反復的に生成していたことが報告されています [11]。サービスデザインの「可視化」の特性に着目して、サービスデザイナー達の視覚的なコミュニケーション(Visual Communication)スキルの重要性が述べられています [5, Segelström, 2013; 11, Kimbell, 2009]。

5つ目の「包括的(システム思考)」とは、サービスには、多くの要素、人、プロセスが存在するシステムであると認識し、その全体性と個別の要素に意識を張り巡らせることを意味しています。実際的な意味で、人間が全ての要素を考慮した上で最適な設計をすることは不可能 [13, サイモン, 1996]ですが、少なくとも次の3つのサービスを構成する要素について検討する必要があります [10, Stickdorn & Schneider, 2011]。

1. ひとつひとつのタッチポイント(接着点)
2. サービスの連続性
3. サービス提供者(SP)の業務

1のタッチポイント(接着点)とは、電車の例で言えば、切符売り場であり、改札であり、駅のホームであり、電車の中を指します。noteの例で言えば、カフェでスマホから記事を読んでいる時、自宅でパソコンから記事を編集している時、ツイッターで共有された記事を発見した時などを挙げることができます。これらひとつひとつが有機的につながることでサービスの連続性を形成することができます。

2のサービスの連続性は、サービスデザインの特性のひとつである「連続性(複数のトランザクション、時間経過を伴うインタラクション)」のことです。この流れをいかにスムーズに、魅力的な体験として設計するかが焦点となります。それぞれのタッチポイントとタッチポイント間の連続性の両方が大切になります。

3のサービス提供者(SP)の業務に関する考慮・設計という活動は、サービスデザインという分野を特徴付けるものとされています [11, Kimbell, 2009]。スムーズで魅力的なサービスを顧客やユーザ(C/U)に対して提供するためには、それを支えるサービス提供者(SP)としての業務(Operation)が必要です。加えて、サービス提供者(SP)の業務は、あるタッチポイントにおける連続性と複数のタッチポイント間の連続性の両方をサポートします。電車の例で考えてみると、切符を購入するというエンドユーザのタスクは、駅員さんから直接購入する、切符の券売機で購入する、Suicaにチャージする、Mobile Suicaでオートチャージ設定しておくというように複数の方法でサポートされています。さらに、切符を購入して、改札を通過し、電車に乗車するというタッチポイント間の流れは、Mobile Suicaによって極限にまで省力化されたり、レアケースでシステムだけでは対応できない場合に駅員さんに助けてもらうことができるように設計されています。このようにサービスにはエンドユーザからみる表と業務を担当する人からみる裏、フロントステージとバックステージがあり、サービスデザインの実践においてはこれら両方を俯瞰的に観察し、デザインする必要があるのです。

サービスデザインを実践する態度

ここまでサービスデザインの特性に関してみてきた中からも明らかなように、グラフィックデザインやプロダクトデザインといった記号やモノを取り扱う専門分野ではなく、サービスデザインは複数の分野を横断して実践される学際的な取り組みであり、個人ではなく「チーム」で取り組む活動です [5, Segelström, 2013; 7, Dubberly & Evenson, 2010; 10, Stickdorn & Schneider, 2011; 11, Kimbell, 2009; 14, Dubberly, 2008] 。言い換えると、サービスデザインで取り扱われている「デザイン」という言葉が意味するのは、チーム全体としてのデザイン的態度の浸透と実践のことを指すのだと私は考えています。

Christopher Alexanderは「Notes on the Synthesis of Form (1964)」の中で、暗黙と伝統に基づいた形の創造プロセスを持つ無意識の文化と理論と専門分野に依拠した形の創造プロセスを持つ意識的な文化とを区別して、それぞれの文化における「デザイナー」の役割と存在を説明しました。前者においては、その文化に所属する全員が彼らの生活の中で直接「デザイン」を実践する存在であり、集団として長い歳月をかけて彼らの暗黙と伝統における形と文脈の調和を適切に導きます。後者においては、任意の問題を元の文脈から切り離し、分解し、簡略化し、形式化した理論を、専門的に組織や教育機関を通じて継承することでプロの「デザイン」の実践者を限定的に生み出し、個人の表現として短期間で形と文脈の調和に到達しようと試みます [15]。

Alexanderは、「文化」という次元でデザインという営みを捉えていますが、サービスデザインの実施においては、これを「サービス」という単位で捉える必要があります。そうしたときに、デザイン的態度をもってその形と文脈の調和に参加するのは、様々なステークホルダーを含むサービス提供者(SP)であり、顧客/ユーザ(C/U)であるのです。そして、ひとつひとつのサービスというゆるく独立したシステムとそれを取り囲む他のシステムとの関係性も考えながら、無意識的かつ意識的な創造のプロセスの両方を実践する必要があるのです。そして、私はこれを勝手に「チーム全体としてのデザイン的態度の浸透と実践」と呼んでいます。これは、場合によっては、デザイン経営と呼ばれたり、デザイン思考と呼ばれたりしています。いずれにしても目指している方向は同じなので、呼び方にはこだわりません。

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ただ、それらが目指す方向というのは、Sabine Jungingerが提唱する「Four places of design thinking in the organization (2009)」[16]におけるより右側の組織の在り方であり、ここにサービスデザインの実践の真価があると私は信じて取り組んでいます。(実践編へ続く)

※この記事の内容は、いろんな文献と実践を繰り返しながらakira_motomuraが理解している部分をまとめたものとなります。あらかじめご了承ください。解釈の違いやご意見などについて、建設的なディスカッションができれば幸いです。


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参考・引用文献

[1]
Wikipedia. 
サービス.

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%B9

[2]
総務省.
日本標準産業分類 — 目次 (2007).

https://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/sangyo/19-3.htm

[3]
武山政直.
サービスデザインの教科書 (2017). 

https://amzn.to/2WtlPfk

[4]
Stephen L. Vargo. & Robert F. Lusch.
"Service-Dominant Logic Continuing the Evolution (2008)."

https://bit.ly/3909hRU

[5]
Fabian Segelström.
"Stakeholder Engagement for Service Design. How service designers identify and communicate insights (2013)."

http://liu.diva-portal.org/smash/get/diva2:647878/FULLTEXT03.pdf

[6]
Valarie A. Zeithaml., A. Parasuraman., & Leonard L. Berry.
"Problems and Strategies in Services Marketing (1985)."

https://www.researchgate.net/publication/329047152_Problems_and_Strategies_in_Services_Marketing

[7]
Hugh Dubberly. & Shelley Evenson.
"Designing for service: Creating an experience advantage (2010)."

http://www.dubberly.com/wp-content/uploads/2013/08/Dubberly_Design-for-service.pdf

[8]
Lucy Kimbell.
"From user-centered design to designing for service (2010)."

http://www.lucykimbell.com/stuff/DMI2010_kimbell_draft.pdf

[9]
Bill Moggridge.
Designing Interactions (2006).

https://amzn.to/391xI1n

[10]
Marc Stickdorn. & Jakob Schneider.
This is Service Design Thinking: Basics, Tools, Cases (2011).
https://amzn.to/2DPyYZS

[11]
Lucy Kimbell.
"Insights From Service Design Practice (2009)"
http://www.lucykimbell.com/stuff/EAD_kimbell_final.pdf

[12]
黒須正明.
UX原論 ユーザビリティからUXへ (2020).

https://amzn.to/3h6Vvjg

[13]
Herbert A. Simon (著)., 稲葉元吉 (翻訳)., & 吉原英樹 (翻訳).
システムの科学 第三版 (1999).
https://amzn.to/2CDoxIm

[14]
Hugh Dubberly.
"Design in the age of biology (2008)"

http://www.dubberly.com/wp-content/uploads/2008/09/ddo_article_ageofbiology.pdf

[15]
Christopher Alexander.
Notes on the Synthesis of Form (1964).

https://amzn.to/3h4ORKg

[16]
Sabine Junginger. 
"Design in the Organization: Parts and Wholes (2009)"

https://www.academia.edu/213937/Design_in_the_Organization_Parts_and_Wholes



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Service designer and (board) Director at Yumemi, Inc. Previously, Interaction designer at Dubberly Design Office.