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NHK文芸選評への投稿作・5月

5/4 短歌 選者:東直子先生 兼題:お茶
カタカタと小さくゆれる席いつも本と紅茶と小さなノート
ウーロン茶で割ると何でも飲めそうなまるでつまらぬ貴方の愚痴も
微細丁寧よしと限らず目の粗い茶漉しのおかげで茶柱の立つ
手作りの伯母が淹れたるどくだみ茶その下に埋めた記憶の銭亀

「お茶しよう」とお店のなかで向かい合いふたり無言でゆるしあってた
千葉県 田村ひよ路さん

どんなに嫌いな相手でも喧嘩してても、直接会って言葉をかわせば仲良くなれるものだと読んだことがあります。ほんとう~? 仲違いしていた二人。お茶に誘われてついていくってことは、その時点で半分許しているようなもの。お店での会話によって悪化の方向に流れていく場合もありますが笑、テーブル向こうにあなたがいる。何を怒ってたんだっけ。自分の向かいにあなたがいるのがあまりに自然で、忘れてしまった。窓に初夏の緑がゆれる。さしこむ光がグラスに反射する。たくさんの笑顔のなかのたったひとつの、僕のためだけの笑顔。この瞬間を僕はこの先ずっと忘れない。


5/18 俳句 選者:榮猿丸先生 兼題:バナナ
追いかけて棒より落ちるチョコバナナ
ほっぺたにバナナのシール貼りあへる
摩天楼一本売りのバナナかな

朝食がバナナの夫と離婚の日
埼玉県 藤井春さん

朝食を食べない、あるいは簡単に済ませる人が増えています。健康のため、頭がしゃっきりして仕事が捗るため、他のことをするのに時間を回せるのが理由らしいです。作者の旦那様も朝食バナナのみの人。このような方は何となく他のことでもこだわりが強く「自分の思い通りにしなければ気が済まない」。悪口ではありません、自分も同じところがあります。価値観の相違が埋められなくなって、最初は楽しかった結婚生活がだんだんしんどくなってきた。今日、離婚する。この日も夫はバナナを食べている。この人はきっと一生、自分を曲げて人に合わせることはしないだろう。



チョコバナナといったら縁日でおなじみのチョコでコーティングされたやつだと思ってたら、あのタカラトミーからチョコを中に入れ込む道具が発売されてました。口周りが汚れなくていいですね。 タカラトミー、月面ロボットからおもちゃまで。



5/25 短歌 選者:永井祐先生 テーマ:飽きる
この柄は飽きたよなってどの猫も文句を言わずただ生きている
SNS昨日始めて消す今宵すぐ飽きるのは美点であるよ
なぜわれはこの世に生を受けたのか思考に飽きてただ菫見る

駐車場のいやな熱気でお姉ちゃんがほしい気持ちにどっさり飽きる
東京都 橘 苑子さん

どういう意味なのか一瞬わからず、ゆえに惹かれました。唐突だけど全く繋がってないわけではなく、何となく細い糸がみえるようなのがいい。作者は姉の立場の人でずっと「姉なんだから我慢しなきゃ」とか「姉なんだからしっかりしなきゃ」と気を張ってきたのでしょうか。何だか自分の姉を見てるようで申し訳ないです。だから、妹に生まれたかったわと思っていて、人にもずっとそう言ってきた。だけど熱気でだる~くなった頭の中で、なんかわかった。自分無理してたわ。もうそう言ってるの飽きたわ。「どっさり飽きる」がMAXに飽きる感出てて好きです。疲れて頭がぼわっとしてるとき、逆に本音がくっきり浮いてみえることってありませんか?