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NHK俳句への投稿作・3月号

選者:夏井いつきさん 兼題「氷」
厚氷どけよ最初は俺が割る
旧ツイッター旧ジャニーズや川氷る
第七戦氷る刺身を飯に乗せ
の海老ら夢見るやうに死んでゐる

まつしろな秋蝶轢いたかもしれぬ  夏井いつき

秋に真っ白な蝶っている? 調べると、コスモスの蜜を吸うモンシロチョウの画像を見つけました。日付が十月。とはいえ、ほぼ見かけないような。「まつしろな秋蝶」といわれてグニッとした感覚がわき起こるのは「明るい闇」と同じく形容矛盾だから。秋なら暖色系だよね!って固定観念を蹴とばしてくれています。幻の蝶と読むのも美しいし、実際の蝶であっても面白い。レアな真っ白の秋蝶を轢いちゃったかも……。かもしれぬ、にしておこう、そうしよう。ところで虫とか蛙の死骸はなぜかわざわざ車輪に突っ込んできますね。まったくなぜなんでしょう。


選者:山田佳乃さん 兼題「寒造」
この冬は義兄帰らず寒造
シリウスは双子星なり寒造
出稼ぎの皆よき声よ寒造
雪高き故郷と言ふ寒造

雷鳴の失せればふつとつまらなく  山田佳乃

はい、まさに。刺激が去ってしまうとつまらない。雷がちょろっと鳴って、あー雷来るか~と思ってたら消えてしまった「すかしっ屁」みたいなやつは最悪ですね。気合いないわ。雷ってなんか、私、ワクワクします。台風もしかり。刺激を求める心情ですねこれ。しかし落雷や増水の動画をみると、家電も家自体も壊れるしでそう呑気なことは言ってられず、不謹慎ですみません。


選者:村上鞆彦さん 兼題「悴む」
終電車悴む指で打つ一句
海苔弁当悴む指の四畳半
ボロネーゼ言葉悴む最後かな

ビルを出てビルに没る日や春の塵  村上鞆彦

雑踏に巻き上げられる塵にまみれながら日々行き来する。会社通いをしていた頃、毎日この光景でした。駅を出て日の昇る方角へ出社し、没日の方角へ帰る。なので、大変まぶしい。ビルとビルの間から直撃してくる夕日光線を浴びながら、どこか店へ寄ろうかな、まっすぐ帰ろうかな~って。通勤だと電車遅延や何やかやで出費がかさむなどいらんこともありますが(消費活動が刺激されるのは、良いことでもあるのですが)、創作のこやしには確実になっていた……。


選者:高野ムツオさん 兼題「扉」
終夜ひすがらに雪の扉は無音なる
無音なる音あり雪の扉あり
雪女扉を叩く手はありぬ
北風や防火扉に女待つ
千年の埃の詰まる扉かな

東京は寒し青空なればなお  高野ムツオ

東京の空の青は色紙の青のようにパキッとした、混じりっ気のない青のように地方在住の私からはみえます。東京には四度行きました。大阪だと西になる分、ちょっぴり茜が混じる感じ、かな。空色って実際は紺や碧も混じった複雑な青なんですけど、パキッとした青は悪い印象ではなくて、「干渉しすぎない洗練された大人の関係」色。しかし震災を体験された作者からすると、東京の空が複雑な色にうつったとしてもやむをえない。


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