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NHK文芸選評への投稿作・1月

1/6 俳句 選者:西村和子先生 兼題:鰤
明日までは厨の主や鰤一尾
まづ鰤の目玉を奪ふ祖父と吾
氷より飛び出す面や寒の鰤
鰤捌く優勝紙面を惜しげなく
中央に鰤の鎮もる祝ひ膳


上げ潮の香や大阪の夏が来る  西村和子

海になじみのない(海から遠いので)私ですが、なんとなく上げ潮(満潮)の香って土地ごとに違う気がします。大阪はどんなだろう?やっぱり大阪らしい元気な香という感じがします。単純でしょうか笑。潮の香で、ああここは大阪、違う土地なんだと再認識する関東生まれの作者。「夏が来る」の締め、キリッとして好きです。

ところでわたし就職で岡山に行った当初、岡山市の中心部でも電車内(JRの山陽本線)のにおいが関西と違う、全然違う!と思いました。うまく言えませんが「濃い」感じがした。これが土地の空気かな~って。住んでるうちに慣れましたが。


1/13 短歌 選者:梅内美華子先生 兼題:祝う
この棒でセーター編んでえ祝箸初めて見たる姪っ子ぞ愛き
赤飯でお祝いは嘘ただただ怖く面倒で気持ち悪かった
新年を祝おういいえ今ここに普通に生きていることに謝す

自注は好きじゃないんですが、三首目だけ。「謝す」は「謝る」ではなく「感謝する」に近い意味で詠みました。でも、とても一言では表せない。

生き物をかなしと言いてこのわれに寄りかかるなよ 君は男だ
梅内美華子

梅内さんの代表歌です。「このわれに~」以下はわかるんですよ。男性から怒られるかもしれませんけど、男って弱いんですよ、やっぱり。最終的には女性に優しく抱きとめてもらいたいっていうのかな。私の周りの男性に限っての話ですが。話は飛びますが、オウム事件逃亡犯をモデルにした桜木紫乃の小説「ヒロイン」を読んでまず深々と思ったのは「やはり女は男より強い。ここ一番の度胸がある」ということでした。

ところが「生き物をかなしと言いて」がよくわからない。生の悲しみを恋人に説く男でしょうか。わからないゆえに魅力的な歌もあります。


1/20 俳句 選者:村上鞆彦先生 兼題:雪達磨
溶け始めああと声上ぐ雪達磨
雪達磨顔あらずんば宇宙の子
もう少し家族でいよか雪達磨

五月闇ピアノの蓋の曠野こうやかな  村上鞆彦

五月闇からピアノの蓋の黒への転換、そこから曠野への転換。蓋には室の天井が映っているがよく目を凝らせばそこには渺渺と風吹きわたる曠野が。えっなぜ?これもよくわからないのがいい。コンサート。ピアニストが一音目を弾こうと手を下ろした瞬間場面がさっと切り替わり、オーケストラの消え去った曠野になっている。そのなかで延々奏でられるラフマニノフ、とかね。想像力かきたてられる句です。


1/27 短歌 選者:奥田亡羊先生 題詠:轟く
失敗がゆえにけん玉16番しゅんさんWebに轟きにけり
あめつちに轟く光その中よりこころは生まれた無用なものを
轟きのはだえに迫る神庭の滝飛沫をくぐりあめんぼう翔ぶ


一首目は昨日放送していただきました。
奥田先生、ありがとうございます!😊
三首のうち、これを採っていただいたのがうれしかった。奥田さんも16番を気にしておられたのかなあ、なんて思って。
Xのらじるさんの画面上では「玉」が抜けて表記されています💦
そこで、Xからメールが送れない仕様になっているので、HPの「らじる★らじるへのご意見」から訂正のお願いをさせていただきました。直ってればいいな。

奥田亡羊さん。2005年の短歌研究新人賞「麦と砲弾」。誌面みて、言葉の組み方、陰影が強くてとにかく迫力があると思ったのを覚えています。魂の叫び、どこを切っても血の出る歌群だった。

青空に満ちくる声を聞きながらバットでつぶす畑のキャベツ  奥田亡羊
逆さまにビルから人が落ちてゆく顔まで見えて人はひとりだ

昨日の文芸選評で「二十年ほど前、仕事をやめて榛名の山の麓の荒れた農家にこもっていた時期があって……」とさらっと仰っていたけど「麦と砲弾」にしても、己をさらけ出すには最初ものすごく覚悟がいったのではないかと想像します。いったん出してしまえば読者の記憶に残るので後戻りできない。弱い自分も本当の自分、これが自分だと覚悟詰まってる作品は強い。

脱ぎ捨てた服のかたちに疲れても俺が求めるお前にはなるな

どんなに疲れても俺をなぐさめてくれんでええ、お前はしゃんと前を向いとけ。矜持とちょびっとの弱さもみえる好きな歌です。


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