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何を撮るのが好き?
先日娘と散歩をした。娘はいつもどおり自分のカメラを持ち歩いていた。
途中で雲を撮り始めた。雲は娘の定番の撮影対象だ。いろいろな形の雲があり、形が変わるから撮り続けるとなかなか終わらない。
「変わるものが好きなんだと思う」
と娘は言った。
公園できれいな小さい鳥を見つけた。ちゅんちゅん跳び歩くのを追って撮影。そして待機。飛び立つ瞬間を押さえる。
「何かが動き出す瞬間も好き」
新しい道を発見した。細い裏道。両側がびっしり住宅で、庭や室内を露骨に覗かないように気をつけながら歩いた。
犬が吼えた。塀の下の隙間から顔を出していた。娘はカメラを向けた。
犬は娘におおいに関心を持ったようで、ぐいぐい塀の隙間から身を乗り出すわ、きゃんきゃん吠えるわ、大騒ぎだ。娘はシャッターを押しまくり、なかなかやめられない。
「この犬、私が好きなのかも。私、自分を好いてくれるものを撮影するのが好きかも」
ようやくその場を離れ、散歩を続けながら僕は聞いた。
「つまり『変わるもの』『何かが動き出す瞬間』『自分を好いてくれるもの』が撮影したいものの三カ条?」
「うん。三カ条!」
細い裏道をひょいと曲がると、古い洋品店があった。紳士もののシャツやズボンが異常な安さだ。
つい「安いなー!」と声を上げたら、店先に立っていたおばあさんが寄ってきた。
「そろそろ店をたたむつもりだから、特別大安売りだよ!」
「そうなんですか!」
「じいさんの体も悪いし、これ以上やっていけないんでね」
と、指差す方向、店の奥を見ると、旦那さんがおとなしく座っていた。
それから○○市に住んでいる娘さんの話や、洋品店の現状の話やら、健康についての話やら、会話が際限なく続いた。
僕はもっぱら聞き手だったが、面白い話なので楽しんで相づちを打っていた。でも娘はそろそろ退屈だろう。こういうときはたいてい露骨に嫌な顔をする。だがちょっと離れて立っている娘を見ると、なんとおばあさんにカメラを向けて、にこにこしていた。
帰り道、娘に聞いた。
「さっきのおばあさんは三カ条に入っていた?」
「ううん。どれにも当てはまらないと思う」
「それにしては楽しそうにカメラを構えていたね」
「私、発見した!」
「何を?」
「カメラを通して見ると何でも好きになるんだ!」
そう言いながら、娘は僕にカメラを向けた。
草加を再発見するフリーペーパー『草生人』2012年10月号から
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