階段ばなし　〜はや過ぎ編〜

【階段ばなし】

どこにでもある暮らしの瞬きを切り取って
誰でもその追体験ができる、階段ばなし

えっちらおっちら上るのも人生
一段飛ばしで駆け上がるのも、それまた人生
あなたは今日も階段を

上がる
上がったならば

今度は下がる

人生はまるでパワステ

今日も、ほら
上がったり下がったり
騒がしくも厳かに１日が始まりました

2段飛ばしで最後は１段
の
呪い

【はや過ぎ】

Hは、今年で３５歳

長身に加え、フットサルで鍛えた下半身と
誰もが見惚れる醤油顔
非の打ち所がないない、イケメンだ

美人の嫁さんと２人の息子に恵まれ
このたび晴れて管理職
公私ともに至って順調だ

万年平社員の山ちゃんは
Hくんを見かけると

つい願ってしまう
ついつい

願ってしまうのだ

せめて、インポかワキガであってくれ
と

さて

彼はとにかく動きが早いことで有名だ

その動きが早過ぎて
誰もが彼を見失ってしまうので

『どこへ行ったのH君』と呼ばれている

廊下で見かけると
あと一歩のストロークが

幅跳びか！と

怒鳴りつけたくなる

なぜ、あの踊り場を一歩で
扉の向こうに行けるのだ

こ、こ、こ
このインポやろー
男性職員を代表して
声高らかに叫んでやろう

この前なんか階段を２段飛ばしで
駆け上がっていった

２段飛ばしぃぃぃ？

かぁぁぁ

今度は高跳びでッすか！
と皮肉をぶつけてやりたくなる

ある日、窓際族の山ちゃんは
５階から１階にだらだら降りていたのでした

そうしたならば
背後から凄まじい圧を
感じるではありませんか

H！？

と、思った瞬間
案の定のHは
俺の右隣スレスレを横切り
あれよあれよという間に
下層へ消えていったのでした

暇すぎる山ちゃんは呆気にとられ
ワンテンポ遅れて
ハッと我にかえったのです

いつもどこかへ消えて行くH
どこに消えるのか
確かめてございます！

山ちゃんは遅れて
走り出したのでした

どこに行くのだHくん！

職員全員が
君を見失ってるんだ

君はまさか、イリュージョン？

ダンダンダンダンと追いかける山ちゃん
ダンダダンと消えるHの足音

山ちゃんが
口から飛び出す心臓を飲み込んで
２階の踊り場付近で見渡しました

やはり
Hの姿は、いない

また消えた

どんなに注視してみても
どんなに必死に追いかけても
Hがどこに消えたのか分からない

どこへ行ったのH君

君、はや過ぎ