とある研究アシスタントの生物学②

皆さん、どうも。AKIRAです。
本日は、PCRの話とは別の話をしようと思います。

発現ベクターについて

「遺伝子工学」という分野があります。
かつては、それはそれは画期的な技術革新で網羅的遺伝子発現解析なんていう部門が研究業界に現れた原因と言ってもいい学問です(少なくとも私はそう思っています)。

遺伝子工学とは、その名の通り遺伝子を用いた図画工作を技術化したようなものです。有名な例は、おそらくCRIPSR-Cas9でしょう。

CRISPRの技術は、簡単に言うと狙ったゲノムの配列に変異を入れることで遺伝子の機能をなくしたり、働きにくくすることのできる技術です。
興味のある方は、調べてみてください。

さて。
毎回恒例の脱線ですが…(汗)
本題に入りましょう。

遺伝子工学の中でも、特定の遺伝子を発現させたい!というときに利用されるのが、「発現ベクター」と呼ばれる代物です。
様々なものがありますが、すでに分子生物学の基礎の知識のある方ならば、ちょっと調べればわかるかもしれません。

ベクター技術は必ずしもゲノムの変異を起こすものではない

先ほどのCRISPR技術はDNA変異を起こさせて欠失させる、あるいは機能を低下させる代表格ですが、ベクターはそうではありません。

もちろん、ゲノムに特定のDNA配列を挿入することができるものも存在しますが、すべてがそうではありません。

「一過性発現」と言って、一時的に細胞の中で特定の遺伝子を通常以上に機能させて時が過ぎたら勝手に抜けていく(機能しなくなる)ようなベクターもあります。
ちなみに、逆は恒常発現系、といいます。

このように、ベクター一つとっても実は奥が深く、「DNAを細胞の中に入れる!」と言いつつ、実は全然機能しないこともあります。

ベクターはどうやって作るの?使う目的は?

そもそも、DNAベクターを知らない人がほとんどでしょうが、簡単に言うと、ベクターとは細胞の中で機能させたい遺伝子を持って行ってもらうアタッチメントのようなものだと思ってもらうとわかりやすいかもしれません。

多くは(というより、私はこれ以外のベクターを知らない)DNAを輪っかにした環状DNA(DNA鎖の端と端がくっついて輪になったもの、プラスミドと呼ばれることが多い)を様々な手法で細胞の中に導入します。
例えば、Aという遺伝子を持っていきたいとします。
しかし、Aだけでは断片なので、すぐに分解されてしまいます。ですので、A遺伝子の両端をもう少し長いDNA鎖で閉じてしまいます。これにより、ベクターというものができるのですが、こうしてやると分解されずに遺伝子を保存することができます。


図、ベクター形成

こうしてできたベクターは、大腸菌で増やすなりして実験に使用できる量を確保してから細胞に導入することになります。

この時、この「長いベクター」のほうを「バックボーン」と呼称したりするのですが、ここにそのベクターの性格が表れるのです。
つまり、ベクターを利用する目的は、細胞へ導入するときに遺伝子をどうやって入れたいのか、又はどういったことをしたいのかという目的に応じて決まってくるのです。

遺伝子導入法でベクターを決める

細胞に遺伝子を導入する方法はいくつかあります。そのうちの一つとしてウイルスの感染能力を利用して導入する方法があります。

この場合、ウイルスの体を作ったりウイルスが遺伝子を使うための遺伝子配列が必要になってきます。それらの情報をバックボーンに載せたベクターをウイルスベクターといいます。
種類は様々なので、興味があれば調べてみてください。

あとは、一時的に強力な電圧を細胞膜にかけることによって細胞に穴をあけてベクターを滑り込ませるエレクトロポレーション法(電気穿孔法)というものもありますが、こちらには専用のベクターは必要なかったと思います(多分)。
しかし、遺伝子がバラバラになるのを避けるため、ベクターは作っておく必要があります。

あとは、化学的な方法を使用することもあります。細胞膜と同じような成分でベクターを包んで細胞の中に放り込む方法です。
これも、特定のベクターが必要というわけではなく、次にお話しする遺伝子発現の方法に応じてベクターを作製することになります。

遺伝子発現の種類でベクターを決める

先述の「一過性発現」。
遺伝子を機能させる期間を一時的なものにしたいのであれば途中で細胞から導入したベクターが抜けるタイプのベクターを使うとよいでしょう。
一般的には非ウイルス性(ウイルスを使わないベクター)を利用することが多いようです。(一部、例外もあるようですが…)

逆に恒常発現を狙うなら細胞のゲノムに遺伝子が挿入されるベクターを使うことになります。ウイルスベクターはゲノムへの挿入があるものがほとんどのようです。
こういうベクターには、ゲノム挿入の効率が増加するベクターというものもありますので、そういうものを使うこともあるでしょう。

ベクターの技術はあくまでも研究レベル

まあ、ここからは個人的な感想になるのですが、こういった技術は研究機関において利用されるべきもので臨床で応用するにはリスクの大きいものとなるでしょう。

そうなると、あくまでもベクター技術は遺伝子発現解析や細胞誘導実験などの研究テーマに限って利用されるべきものとも言えます。
もちろん賛否両論ありますので否定はしませんが、現代においてそういったリテラシーが働いているか、少し疑問に思うところがあるのは私だけでしょうか。

というわけで、ベクターについて概略してみました。
興味のある方はもっと詳しく調べてみてください。

それでは。

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