夢は平凡、個性クソ食らえ。

幼少期から、「個性的な子」だと言われてきた。それを愚かな私は褒め言葉だと受け取って、「人とは違う自分」にちょっといい気になっていた。
大人になってやっと気がついた。
「個性的だね」って特に褒めるところが見つからない相手に言う苦し紛れの言葉なんだと。

ちゃんと褒められる個性を持った人には
「頭が良い」「容姿が良い」「運動ができる」「芸術の才能がある」など、個性に名前が付いている。
「個性的」という言葉はぼんやりしていて具体的に何が良い点なのか肝心なところが濁っている。つまり「個性的=特筆事項なし」ということなのである。

褒めるような魅力のないただの変な奴には、とりあえず「あなたは個性的だね」って言っておけば良いのだ。しかも、彼らは大抵個性的と言われると喜ぶ。私みたいに。
馬鹿、気付け。お前にはな〜んにもないよ〜!って言われていることに。

「個性的で良いね!」お愛想の褒め言葉なんぞクソ食らえだ。
名前のついた有益な個性が私にあったならば、それを生かした華やかな、例えば一流企業に勤めるとか、芸能人とか、スポーツ選手とか、良い意味での「人とは違った人生」が送れていたかもしれない。
しかし生憎私は馬鹿だしブスだし運動音痴だし絵も描けないし音楽も無知、その上人とのコミュニケーションが苦手で、偶に人と喋れば空気を読まない発言で場を白けさせ、友達も恋人もろくにできないような劣る点ばかりの欠陥品として生まれてきて、人とは違った苦しいばかりの人生になってしまった。

周りから個性的(笑)だの将来大物(笑)だの言われてきたのを本気にして芸術系の大学に進学したが、
大学には本物の、名前のある個性を持つ天才がゴロゴロいて、私が「社会性がないという欠点を非凡な芸術家タイプと勘違いしているつまんない奴」であることが露呈した。

何も生み出せず、成績も悪く、友達はバンバン賞を獲ったりしてる横で先生からは「お前の作品はつまんねぇ」と怒られ、初めての恋愛は所謂「先輩っていうだけでなんかカッコよく見えちゃう現象」と「恋愛経験の少ない芋女は簡単に食える説」が合致した結果ヤリ逃げされて終わり、何をやっても悪い方にしか行かなくて。鬱病になって自傷行為を繰り返すようになり、中退した。

「なんの価値もない自分」に苦しみ、もう生きているのが苦しくて苦しくて。実家に引きこもり風呂に入らず歯磨きもせず、ただ布団で寝ているだけの生活。トイレに行くときだけは布団から出る。食事を摂ろうにも、味のない粘土を食べているような感覚で全く喉を通らない。眠って何も考えないでいる時間だけが救いで、起きている間は涙が止まらなかった。1ヶ月で10キロ体重が落ちた。

こんなに苦しい人生が、下手したらあと50年60年続くのか?
…無理だ。もう限界だ。行こう。

久しぶりに風呂に入って全身を洗い、髪を整え、綺麗に洗濯された服を着て出かけた。銀行に寄ってバイト代の僅かな貯金を全部下ろした。そのままドラッグストアに行く。
車酔い止め薬を棚にある分全部買った。レジのおばちゃんから「こんなに買うの?」みたいなことを訊かれたが、予め考えておいた「地域の子供会の合宿で、30人くらい連れてバスに乗るんです!」という返事をしたら「あら、大変ね、頑張って!」と、特に疑うことなく何十錠もの薬を売ってくれた。一緒にペットボトルの水も2本買った。

車酔い止め薬を選んだのは、大量に飲んだ場合市販薬の中では比較的死ぬ確率が高いとネットで読んでいたからだ。
迷いはなかった。

大学近くの駅のトイレに入り、買ったばかりの薬を全部開ける。先のネット記事には、ちびちび飲んでいると水で腹が膨れてしまう、とも書いてあったので水ひと口に対して4錠ずつくらい、休みなく全部の薬を飲み込んだ。
次第に吐き気が込み上げてくる。ここで吐いたら全部無駄になる。口を両手で押さえて堪えた。視界が滲んだ。猛烈な吐き気の苦しさから来る涙なのか、それとも今までの心の痛さの涙か。意識が遠ざかる。尿やらトイレットペーパーのカスやらで汚れたトイレの個室で眠った。

結局人に見つかったようで、病院のICUに運ばれて点滴を繋がれてしまった。その後精神科に措置入院となり、外界から隔離された生活を何ヶ月か送った。21歳のときだった。

普通に生きたかっただけなのになぁ。
平凡な、可もなく不可もない普通の子として生まれて、普通に話せる友達を作って、普通レベルの学校を出て、普通レベルの会社に就職して、普通な人と恋愛して、普通に結婚して、普通な所帯を持って、普通に歳をとって、普通に老衰で死んでいく、普通で平凡な人生を歩みたかった。
それなのに、どうしてたったそれだけのことがこんなにも難しいのか。叶わないのか。

退院してからしばらくの間はバイトをしたり辞めたりまた入院したり。それから職を転々とし、どこに行っても自分には合わない気がしているが、私に合う仕事が見つからないのではなく、私が社会のどこにも合わないのである。「何もできないうえに社交性もない扱いづらい変な奴」だから。

もし生まれ変わりというのがあるとしたら、美しい顔になりたいとか、頭が良くなりたいとか、お金持ちになりたいとかは望まない。ただただ、普通の子として普通の人生を送りたい。

今は月に1回の通院と薬の服用で、なんとか普通の生活が送れている。友達に会えば楽しくお喋りできるし、ご飯も美味しい。仕事も楽しい。しかしどこに行ってもなんとなく居心地が悪く、毎日の疲労感が尋常ではない。

このままどこにも居場所を見つけられずに社会から置いていかれて、歳だけ取って死んでいくのだろうか。
どろりと重たい沼の底に沈んでいってしまうような、助かる手立てのないような真っ暗な不安をいつも抱いている。

ぼんやりといつも死にたい気がしているのに、まだ未練ったらしく生きてしまっている。

矛盾している。やっぱり変な奴だ。大嫌いだね。

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