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桜と


春だ。

朝の空気の匂いも、日差しの温かさも、春を感じるようになった。
最近お世話になっているバイト先のお菓子屋も客足が伸びた。
通りを歩く人が増えて、
温かくどことなく陽気で、
お財布も緩むのかもしれない。
少し前までは、ちょっと並んでいるだけでもお客さんが寒そうに足踏みしたり手をこすり合わせたりしていた。
今はのんきにショーケースを見ながらあれこれと楽しそうに会話している。
私が一番落ち着く季節は秋だけれど、
冬の寒さが緩んで、空気も植物も生物も、もちろん人間も柔らかくなるこの時期も好きだ。

そういえば、桜のピークはいつだったのだろうか。

今年はまだ桜を見ていない。
家の近くにも短いながら桜並木があって、桜の時期は散歩していたりしたのだが今年は行っていない。
先日雨が続いたけれどまだ桜の花は残っているのだろうか。
桜には好きな時と苦手な時がある。
白く霞がかって見える東京の桜は、時に私の気持ちを曇らせてざわつかせることもあるし、
幻想的な世界を感じさせることもある。
季節を象徴する花だから、忘れていた思い出もよみがえりやすい。

母の自転車の後ろに乗せられて走った、桜並木の美しさ。
拾った桜の花びらをこっそり仕舞っておいたら、茶色くなっていて悲しかった。
弟と公園の桜の木に登って怒られた。
高校生の時、部活仲間と春休みに学校に行く通学路で、散ってくる桜の花びらを何枚拾えるか競争して、夢中なあまり、生垣に突っ込んだ。
ほんのりと好意を寄せていた人と夜桜を見てぶらぶらしていた時に、派手に転んだ。

……足元不注意の思い出が多めではあるが、どれも青春と言えるような気恥ずかしさがこみあげてくる。
そういえば、昔はよく転んでいたような気がする。

自転車で「あ、曲がらなきゃ」と思いながら、なぜか曲がらず柵に突っ込んで転んだり。
雨上がりに自転車ごと滑って、生垣に濡れた生垣にバサッと倒れて、服が半分だけ濡れたり。
通学路で階段で転んで、急ぐあまり膝が切れていたのを気づかず登校し、教室で靴下が血まみれで級友にドン引きされたこともある。

どれも懐かしい思い出だ。


普段は思い出さないのに、何かをきっかけにするすると思い出す。
もちろん、忘れ去りたい思い出もあるし、そのたび悶絶するようなものもあるが
全て、今の自分を作っているひとかけらだと思えば、大切なものだと思える。

今の状況も、いつか大切なものだったと振り返れるように歩んでいけるように。
次の休みには桜を見に行こう。
私は少し緑の若葉が混じった桜が好きだから、ちょうどいいかもしれない。
桜とともに胸に去来するだろう思い出や感情をのんびりと受け止めて、ほんの少し先の自分について考える。
そんな日を作るのもいいかもしれない。


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