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「老人支配国家 日本の危機」を読んで

    エマニュエル・トッド著「老人支配国家 日本の危機」(発行所:文藝春秋)を読んだ。著者は、フランスの歴史人口学者。何かの雑誌に寄せた文章を読んだことがあり、世界中の家族の形態を研究するユニークな学者で少し気になってた人。家族形態の研究を基礎に、ソ連の崩壊やトランプ大統領就任、ブレグジットなんかを予測したらしい。
   近著「第三次世界大戦はもう始まっている」(発行所:文藝春秋)も読んだ。第三次大戦なんて過激なフレーズを使っているけど、中身はそれほどでもない。「老人支配が国家的な危機につながる」なんて話も、刺激的だなぁ。
 日本は、政治、行政、企業、芸能・スポーツ・・・どこをどう見ても、長老が仕切っている。若くして首相や大統領になれるどこかの国とは、明らかに違う。
 日本は、老人大国であることは間違いない。あんまりイイことじゃない気もするけど、「危機」とまでは言いきれない。・・・あれこれ考えながら、本書を読むと面白い。

やっぱり、少子化対策が大事

 エマニュエル・トッド氏によると、家族形態は、「権威主義的家族(直系家族)」、「平等主義核家族」、「絶対核家族」、「外婚制共同体家族」、「内婚性共同体家族」、「非対称共同体家族」、「アノミー的家族」の 7 つに分類されるとか。何がどう違うのか・・・。
 日本は「権威主義的家族(直系家族)」に分類されている。この家族形態の特徴は、家族の中で父親の権威が強く、長男が優遇され、父親の後継者として家を継ぐ・・・らしい。『サザエさん』を思い起こさせる昭和チックな家族形態。最近の日本とは、ちょっと違うようだけど、こうした切り口は、面白い分析が出来るのかも知れない。
 日本は、高度経済成長期にいろんなマネジメント形態が生まれた。その中で、右肩上がりの経済成長を背景に「終身雇用」と「年功序列」が人事制度の根幹になってしまった。その影響で、歳を重ねるほど働き易くなり、働く健康老人が増え続け、今では老人パワーが第一党。65歳以上の老年人口は、全人口の30%弱。著者が「老人支配国家」と呼ぶのも頷ける。
 もちろん、社会の中核を担う15歳から64歳までの生産年齢人口は、60%弱もいるので、今直ぐに、日本に危機が訪れるわけではない。
 けれど、15歳未満の年少人口が10%強と極端に少ないので、しばらくの間、日本の人口は減り続ける。やはり、人口問題(特に若者不足)は、「日本の危機」のひとつであり、国家的な課題だ。
 確かに、もっと若い人が活躍出来る社会の方が健全だ。若い人たちが活躍出来なければ、子どもを産んで育てようと思う若い人たちが減ってしまうのも理解できる。若者を支える仕組みが必要だ。

そうは言っても、第一線の退き方は、難しい

 例えば、アスリートは、体力の衰えと共に現役を引退する。残念だけど、人は老いて力を失うのだから仕方ない。常に世代交代が進む世界だ。
 一般企業で働く人たちや役人だって「定年制度」によって現役引退の時期が決まっている。
 けれど、文化芸術、政治、個人事業主やオーナー経営者、アスリートの指導者等々は、引退の年限がないのが特徴だ。
 特に芸事や職人の世界では、「続けるほどに技能に習熟し、若者の追随を許さない人」もいる。もちろん、企業等でも、長く業界で生き、「時流を読む力や判断力・決断力に長けた経営者」や「その道何十年のベテランが給料半分になっても働く」と言えば、会社側もベテランに頼ってしまう。
 かくして、老人国家になっていくわけだ。

 私は、どんな分野の仕事であれ、一定年限が来たら、サッサと引退すればいい、思っている。
 もちろん、まだまだ頑張れる高齢者はたくさんいる。
 けど、少なくとも一定の年限が来たら、後進に道を譲るのも、先を歩く者の務め。老害にならぬうちに、サッサと世代交代しておこう。
 例えば、国民年金は、20~60歳までの40年間は保険料を納付し、65歳から年金として受け取る側に回る仕組み。国の社会制度としては、40年間くらいが働く年頃ってカウントのようだ。

 だったら、「どこの業界であれ、第一線の現役で働くのは40年間まで」と決めてしまえばいい。
 終りの時期が決まっていれば、後世に支障がないように、後継者の専任や育成等にも努めていくようになるかも知れない。
 若い人たちは頼りない、と思う高齢者もいるけど、自分だって頼りなかったはず。それでも何とかやってこれたんだから、後事は若い人たちに任せればいい。失敗したっていいじゃないか。最後は上手くいく。

  とは言え、高齢者の仲間入りした自分。素直に、サッサと第一線を去る、なんて簡単じゃないよ。世代交代なんて、まだ先のこと、と思いたい。
 本書は、そんな事を、あれこれ考えさせてくれる一冊だ。

(敬称略)

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