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「地政学時代のリテラシー」を読んで

船橋洋一著「地政学時代のリテラシー」(発行所:文藝春秋)を読んだ。

 ずっと前に、バブル崩壊後の行方をあれこれ考えてた頃に、著者の本を読んで、そのセンスに感心したことがあった。それ位しか覚えていないけど。

 地球儀で日本を見る時、どこかの国から眺めてみると、全く違った世界が見えてくる。例えば、ロシアを中心に見ると、バレンツ海とオホーツク海が目に付く。両方ともロシア海軍の重要な拠点で、フィンランドと日本が隣接してる。
 中国から世界を見れば、太平洋側には日本の島々があり、南シナ海には、台湾だけでなく、フィリピンとベトナムが囲んでいる様が見える。イタリアのすぐ先にはチュニジアがある。
 地球という星の中で、いろんな文化風習を持つ人々が共存してる。それが地政学の始まりなんだろう。

 本書は、主としてアメリカと中国の対立を軸に、アジア諸国や他の国々の動きを概括した本。国際政治や貿易事業等に関わっている人はもちろんのこと、国内企業で働いている人でも、著者の視点で世の中を見ると、あぁ、なるほど、と思うかも。読んでおいて損はない一冊のひとつ。

 日本の位置

 日本に限らず、イギリスやフィリピン、スリランカ等々、島国の国家はいくつもある。
 けれど、「日本語」という特異な言語のみが発達し、汎用性の高い英語が普及しない国も珍しい。仏教国から学んだことがたくさんあるのに、仏教は数ある宗教の一つだし、古くからある神道に固執することもなく、キリスト教もイスラム教も共存させてしまうお国柄。
ガラパゴスのように進化の流れから取り残された小国だったのか。列強も歯牙にもかけない扱いだったのか。わからないが。 どこかで誰かが分析してるだろうから、日本の成り立ちを調べてみるのも面白そうだ。

 戦後の日本は、東京一極集中型で経済に注力したことは確か。その割には、教育にはあまりお金を掛けないお国柄だ。
 もちろん、日本(政府)の選択には、様々な功罪がある。
だけど、日本は世界でも冠たる経済大国にのし上がったのは事実。その余禄があったればこその、“失われた30年”。大した経済成長がなくても、何とか世界のトップ集団の中で過ごしてこれた。先人たちに感謝だ。
 ただ、良くも悪くもの不変の30年は、何事かへのチャレンジする意欲も失せ、右肩上がりの幻想の中、前例踏襲と天啓の如くの指示待ちを当たり前にし、社会全体が閉そく感に包まれてしまった。 もちろん、どんな時代だって、世界で活躍する個人や企業等々もある。けど、圧倒的に少数。

 そして、日本がお家の事情で内向き、世界に背を向けている間に、中国もインドもインドネシアも成長し続け、逆に欧米が成熟から衰退に向かい始め、世界のパワーバランスが変わりし始めている。

 本書の中で、中国の国際政治学者の言葉として「確かに中国が強大化したことが現状維持を変えた。しかし、米国と日本が弱体化したこともまた現状維持を変えたのだ」と紹介されていた。 たしかに、と実感できる。

 中国だけでなく、インドもインドネシアもブラジル、ナイジェリア等々、世界の経済社会地図は、様変わりしている。そして、日本の影は薄くなった。

日本の未来

 本書では、第二章でウクライナのことが、あれこれと語られている。
 ウクライナは、「チェルノーゼム」と言われる肥沃で広大な土地があり、およそ1億人分もの小麦を育て(年間、2,500万トン)ており、世界の食糧庫と言われるほど。だから、戦争が始まって、世界中で食料不足や価格高騰が始まった。
 日本にだって、膨大な量のコメを造ることが出来る。莫大な金融資産もある。何より、失われた30年の次の世代は、因習に囚われずに世界と対話しながら自由に生き始めている。
 新しい日本。

 本書では、地政学に始まり「地経学」で締めている。

 地経学は、「経済や資源の時間的、空間的そして政治的側面の研究をする学問である」とWikipediaに書いてあった。何処の地域だって、あるがままの地形や自然だけでなく、そこで産出するモノやことを基礎とする経済が社会を形づくる。地形学は地政学の重要な一部だと思う。

 日本では、防衛費を増強し、経済を軸とした安全保障に関する諸事横断的な法律として、令和4年(2022年)5月に「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(略称:経済安全保障推進法)」を制定した。

 これらが奏功したのか、日本という特殊な文化を持つ孤立した島国国家が地政学的な優位を発揮したのか、知らないけれど、半導体やAI産業、世界のデータセンターとしての地歩を築き始めている。
 ゲームやアニメなんかの方が、「世界に打って出た日本」を象徴しているけど、どうやら国土に根差した半導体製造やデータセンターの方が馴染み易く、日本ぽい気もする。

 核戦争は、相手方当事国のみならず、地球を滅ぼす悪魔のツールで、自爆するようなもの。つまり使用不可能。 それに比べれば、経済競争は、まだ優しい。
 戦争ではなく経済競争で、幸せを目指して頑張っていければいいな。

                             (敬称略)

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