「岩は、動く」を読んで
矢内廣著「岩は、動く」」(発行所:ぴあ株式会社)を読んだ。
やっぱり、発行所は、「ぴあ」なんだな、今、気付いた。
これまで、いろんな経営者が書いた(だろう)本を読んできたけど、著者はどの経営者とも違う不思議な雰囲気を纏った人で、「面白かった」。
経営者っぽくない人
他の経営者本と、何が違うんだろう。どこが違うんだろう。
考えてみたら、著者が経営者然とした雰囲気が感じられないのだ。あくまで、本書からの印象なので、ホントのところはわからない。
ぴあ㈱は、東証プライム市場に株式を上場している。時価総額500億円超の堂々たる企業。相応の株式会社っぽいのだろうし、その会社をつくった著者も、呑気に経営してきたわけじゃないだろう。
㈱リクルートも、創業者の江副浩正が東大時代につくった会社だけど、こちらは、エネルギーに溢れる人たちや独創性に富んだ人達の集団という感じ。スピンアウトして成功した人もたくさんいて、ぴあ㈱の印象とは違う。
ぴあ㈱に似た印象を受けた会社に、㈱ほぼ日がある。こちらは著名コピーライターの糸井重里が起業した、ほぼ日手帳やほぼ日刊イトイ新聞を販売・運営している会社。楽しそうなこと、面白そうなことを追求してたら、株式公開会社になってしまった、という感じ。そう見える。
まぁ、どちらの会社も、本やWebで見聞きした程度の、直観に近い印象だけ。でも、本書からは、学生時代にやっていた部活の延長のような楽しそうな気配が伝わってくる。著者も、そんな人生を楽しみながら成功していった人なんだろうか。
素直で正直な人
本書を読む限りでは、著者は学生の頃から興味本位で直ぐ動ける人。
創業時、ぴあを置いてもらおうと書店廻りをして上手くいかないと、いきなり紀伊国屋書店社長だった田辺茂一氏にDMを送って、運を掴む。
今日のようにWebやSNSが溢れるほどある時代ならまだしも、スマホもままならない時代に「イベントチケット販売の汎用化」というのは、スーパーニッチなビジネスだろう。でも、その将来性を、目を輝かせながら語る著者に、先輩諸氏が賛同し、力を貸してくれた。たぶんだけど、先輩諸氏への向き合い方が良かったんだろうな。
功成り名を遂げている人達には、何某かの良さがあって、それがあるので周囲の人達が後押してくれる。それが何だか、人それぞれだけど、それぞれに、何某かを学ぶべき点はある。
もちろん、学んだからと言って、簡単に真似出来るもんじゃないけど。
自分が決めた道があるなら、その道を進み続けるしかない。
そのために全身全霊の力を振り絞る。
そのために、誰からも、何処からも、素直に、真摯に学ぶ。
本書から、そんな著者の生き様が感じられる。
そんな著者だけど、「全役員の総意による社長辞任要求」事件は、何年も封印して公表してこなかった、書いてあった。
重たかったんだろうな。自分だったら、挫ける。立ち直れないな。
それでも著者は、こんな話があったと、京セラ株式会社を創業した稲盛和夫に相談し、劣化の如く怒られる。たぶん、叱られるって予想はついただろうけど、話す。教えを乞う。
応えるように、稲盛氏も、力になってあげる。
「人たらし」っていうのとは違う。
私には、求道者という印象。でもなぜか、手助けしたくなってしまう、そういう人なんだろうな。
それにしても、ぴあって社名・・・
起業する人が、最初に考えることの1つが「社名」。
業界や技術等を想起する社名や、未来や宇宙等々の将来性を表す社名、地域や家紋や名前を付けた社名とか、いろいろな思いが込められている。
本書によると、「ぴあ」は、単なるサウンド(音感・響き?)で決めた、とのことで、ちょっと笑ってしまった。
ユートピアのピアかな、くらいに思ってたけど。
後付けで理屈を付けて、もっともらしく名付けた、と言ったっていいんじゃないかとおも思うけど、そんなところで着飾る人じゃ、ないんだな。
やっぱり、人間的な魅力に溢れる人なんだろう。
(敬称略)