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「なぜ人だけが老いるのか」を読んで

 小林武彦著「なぜ人だけが老いるのか」(発行所:株式会社講談社)を書店で見つけ、中身も見ずに買った。著者の「生物はなせ死ぬのか」を読んで面白かったから。

 本書は、「老い」がテーマ。
 私自身も高齢者の仲間入りだというのに、今まで「なぜ老いるのか」なんて、考えた事もなかった。

老化って、

 「老い」から連想されるのは、少し動きが遅い様子。歩いたり走ったりしてもスピードが出ない。会話をしていても、あれこれ思い出せなくなったり、話し方もゆっくり。頭の回転も遅くなっている。成人として、頼りなくなっていく。そんなイメージ。たしかに、二十代の頃のような柔軟性もエネルギーもない。疲労回復も遅くなった。どんなにトレーニングしても、あの頃に戻ることはないだろう。生物として、キレがなくなったな、と思う。
 でも、悪い事ばかりじゃない。
 歳を重ねれば、皺が増え、肌につややかさはなくなっていくけど、むしろ、悩みも突き抜け、飄々として、明るくも暗くもなく「自然体」でいられることが増えた。

 本書によると、いろんな生物の中で、人間だけに長い「老い」の期間があるらしい。
 確かに、鮭は産卵後に死んでしまうし、セミだって、成虫になって7日間で子孫を残して死んでしまう。
 子供の頃に読んだ絵本に、年老いたゾウが自ら群れを離れて死んでいく場所がある。それが「ゾウの墓場」だって書いてあったような。記憶違いか。 本書によると、ゾウも老化症状はなく、心筋梗塞等の循環器系の病で死んでいくと書いてある。そうだったのか。
 弱った生き物は、食物連鎖の中で、老いる間もなく捕食されてしまうとも書いてある。ちょっと切ないけど、まぁ、事実なんだろう。だから、「老い」の期間がないらしい。なるほどなぁ。
 年老いた飼い犬や猫は、人間がお世話しているから老いている、ということらしい。
 「老い」なんて、考えた事がなかったので、どこを読んでも、なるほどなぁ、と思ってしてしまう。

老化の原因は2つ

 老化原因のひとつは、「加齢と共にDNAが壊れてゲノムがおかしくなり、その結果、細胞機能が低下し、老化してく」。人の細胞は、1つが50回分裂するらしいので、老化スイッチの入った細胞分裂が進むことになる。なるほど。
 DNAが壊れなければ永久に生きられる、あるいはDNAが壊れても修復出来ればもっと長く生きられる、とは、誰もが考えることのようで、アンチエイジングの研究では、DNAが壊れる原因分析や修復分析なんかが進んでいくらしい。
 もう一つの原因は、細胞分裂しない細胞が、老化する時。それが、脳と心臓の細胞。この2つの臓器は、生まれた時は細胞分裂するけど、すぐに止まり、あとは同じまま。だから、この細胞が老化するってことは再生しないので、危ないらしい。確かに、心臓は止まる事なく動き続けているから大変なんだろうな、と思う。
 著者によると、ゴリラやチンパンジーと比べた場合、「生物としての人間の寿命は、50~60歳くらい」だとか。厚労省発表の令和4年簡易生命表によると、昭和22年の男性の平均寿命は50.06歳で、女性は53.96歳だったので、この頃の平均寿命が人本来の寿命ということになる。
 その後、公衆衛生が劇的に改善され、食生活が豊かになり、医療制度が充実した日本は、自然環境に近い社会から、人間がつくり出した社会に移り変わり、に平均寿命が80歳を超えたということになるのだろうか。

歳はとっても、老いたくない

 厚労省調査によると、ここ20年程の日本では、健康年齢と平均寿命の間に10年程の差がある。少なくとも、この10年は、医療や福祉のお世話になる「老い」の時代。
 多くの人の体力のピークは20歳位と書いてあるけど、個人的には40歳位までは、頑張ればなんとかなってたと思う。もちろん、それ以降も頑張れる。けど、どこかに歪が起きているらしく、それが原因で、50代、60代に病気や怪我が増えていく感じ。
 でも、大病したり大けがでもしない限り、若い頃には、「老い」なんて考えないのかも知れない。
 私よりも年上の人達が、良く言うのは「ピンピンコロリ」だ。死ぬ直前まで元気に過ごし、サッと逝ってしまう。それがイイ、と。
 確かに、それがイイな。と思いつつも、健康年齢と平均寿命の差は、そうはさせないと言っているような気がする。

 老いたからと言って、病院のベットで管を付けてスパゲッティ症候群になるのは嫌だな、と思うし、長く痛い思いしながら死ぬのも御免だ。
 老い衰えて自分自身の面倒を見れなくなるのは、始末が悪い。
 だから、歳はとってもいいけど、老いたくない。そう思う。
 誰もが歳を重ねることは受け入れているけど、「老い」は人によって違うので、「自分だけはまだまだ元気」と希望的観測を持ちがち。
 上手に老いていくことは難しいな。しみじみ思う。

 本書を読んで、はじめて「老い」を考えた。
 「老い」の先にあるのは「死」。 避けて通れぬはずなのに、若い頃は生きる事に一生懸命で、「老い」も「死」も考える余裕がなかった。歳を重ねた今は、無意識に先送りしてきたのかも知れない。
 何だか情けないな自分、と気付き、これからは「老い」をテーマにする本も読んで考えていこうと思った。
 本書は、そんな契機を与えてくれた貴重な一冊。

                              (敬称略)

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