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「遺言未満」を読んで

 久々に、椎名誠氏の本を読んだ。「遺言未満」(集英社文庫)

 若い頃は、著者の「冒険譚」とでも言うのか、奮闘している姿を描いた本を、何冊も読み漁った。ワクワクしながら。
 でも、本書は、全然違う。というか、著者でも、こんな感じの本を書くのだな。いつまでもエネルギッシュな人だと思ってたけど。
 本書にも書いてあったけど、歳をとるんだな。 遺言なんて、最後の最後だと思っていたけど、「未満」って時は意外に早く来るのかも。

 これは、これで、感慨深い一冊となった。

80億人・・・

 ヒトの埋葬方法は、地域によって、国によって、全然違うんだ、ということを、本書で概観した。
 ふっと頭に思い浮かぶのは、火葬や土葬。だけど、本書によれば、風葬や樹木葬、樹上葬、水葬や舟葬など、いろいろあるらしい。

 埋葬の心配は人間だけのことで、鳥や野生動物、昆虫は、葬儀どころじゃなく、捕食者に食べられてしまう。調べてみると、既に世界では、1,000億もの人を埋葬してきたらしい。どんな推計をしたのかわからんけど。
 つまり、地球の表面積のうち、陸地は1億4724万4000㎢なので、平均すれば1㎢ に670人が埋葬されたことになる。陸地には山も川も湖もあるので、人口密集地では、とてつもない人数が埋葬されてるんだろうな。
 国連人口基金の「世界人口白書2023」によると、2023年の世界人口は80億人を突破したそうだ。前年比で7,000万人も増えているらしい。つまり、これからも、たくさんの人が埋葬されることになる。
 日本だって1億2,500万人もいて、その3割くらいが東京圏にいるので、葬儀場は大変なことになるんだろう。

 本書によると、江戸時代は、土葬が中心だったそうだけど、行き倒れや身寄りのない人たちは野ざらしのままだったとか。本書では、そんな人たちが多く居た場所も示されており、思わず、今、自分が住んでいるところを確かめてしまった。

 北極圏や南極圏に近い地域では、火葬出来るほどの燃料もなし、地面を掘ろうにも、凍っていて掘れない。舟葬しようにも海が凍っているので、葬儀も大変だ。
 チベットでは、「塔葬」、「火葬」、「天葬(鳥葬)」、「土葬」、「水葬」の5つの葬儀方法が今ででもあるそうで、国や地域、あるいは宗教によって弔い方は違う。
 失くしてしまった人は、どうやって弔ったらいいのか、難しい。
 そして、自分は、どうしたいだろう。

サイバー上で会いましょう

 日本では、故人を偲ぶ場所がお墓になるのか。確かに、誰のお墓であれ、墓地の中を歩くと、少し背筋がピンとする。

 お墓とは別に、七回忌や十三回忌等々、皆で故人を偲ぶ機会もある。そこには、位牌と共に故人の遺影写真が置かれている。
 これからは、どうなるんだろう。

 スマホで撮った写真や動画はたくさんある。サイバー上の世界では、昔も今も、そして、これからも、いつまでも変わらずに残っていて、いろんなことを思い出せる。
 お墓や位牌、遺影なんてなくても、いつでも、どこでも、ネットがつながれば、サイバー上で故人と会う事が出来る時代だ。
 これだけあれば十分。なんて、思うのは、たぶん、わたしだけじゃないと思う・・・

 お墓は、家族が、子孫が営々と守っていかなければならない。世界が狭かった時代、育った処で働き、家庭を持つのが当たり前だったので、墓守も比較的平易に出来たけど、今はグローバルな時代。
 生まれ育った処を離れ、都会の大学に通い、大都市で働き・・・なんてことが普通で、日本に限らず、世界中に生活の場や終の棲家を求める時代だ。
 スマホをポチれば、いつでも故人に会えるけど、「お墓」を守っていくのは大変だな。
 せめて自分は、位牌もお墓もいらない、と遺言しておこうと思った。

                             (敬称略)

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