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「成功はゴミ箱の中に」を読んで


  何年か前に、レイ・クロック/ロバート・アンダーソン著「成功はゴミ箱の中に」(発行所:㈱プレジデント社)を読んだ。けど、どんな内容だったか…タイトルを見ても思い出せない。東京からココに移住する際、処分しなかった数少ない本だというのに。

 あのマクドナルドの創業者は、マクドナルド兄弟であるのは間違いない。だけど、今日のような巨大チェーン店を築いたのは、本書著者のレイ・クロックさんだったそうだ。

 本書の原書(英語版)は、1977年にアメリカで出版され、今でも読み継がれている本らしい。英語版のタイトルは「grinding it out」で、「やり抜く」とか、「やり遂げろ」等々と意訳される。エネルギッシュな起業と成功の物語を思い浮かべるタイトルだ。

 1977年と言えば、シルベスター・スタローン主演の「ロッキー」がアカデミー賞を受賞、ニューヨークの大停電が話題になった年。アメリカ経済が続伸し続け、GM、フォード、IBMやGE等の巨大企業が君臨した時代だ。
 その頃、マクドナルドは、ようやく100店舗の壁を超える程度だったけど、サービス産業では大成功だったんだろう(現在は全世界で4万店を超えるので、今まさに巨大企業の仲間入り)。
そんな時代背景の中で「grinding it out」は、や駆動力の象徴のよう。そういう本だったんだ。

 日本語版は、日本のバブル崩壊後の2007年に出版されている。
日本語版のタイトルは「成功はゴミ箱の中に」で、原題の「grinding it out」からは想像もつかない。 けど、先行き不透明な日本経済の中で、「成功は思わぬところに潜んでいる」とか言いたかったのだろうか。 

原書と日本語版

 私が読んだのは、もちろん日本語版。
改めて本書に目を通してみても、マクドナルドという世界最大規模のファストフード店を描くシーンは印象に残らなかった。 
 むしろ、フランチャイズビジネスとか、ベンチャー企業のマネジメントとか、創業者の心の在り様なんかに思いがゆく。

 本書は、「事業を起こすこと」、「会社を経営すること(組織を統率すること)」なんかについて、著者の生き様を綴った起業物語って感じ。

  日本語版には、ユニクロの柳井会長、ソフトバンクの孫社長が、寄せ書きしてる。もちろん、原書には両名の寄せ書きはない。
比較すると、なんだか、日本語版は、原書と違うのかも知れない。 やっぱり、本は、著者が書いた言語で読む方がイイんだろうな。

 本書(原書)が上梓された1970年代のアメリカは、GEやGM等の電機、自動車、石油精製など製造業が主流。
 一方の飲食店や小売店は、今も比較的手軽に出来るビジネスで、創業し易い。けど、FCとか多店舗展開するとか、サプライチェーンを構築する等々は、事業構築力だけでなく、経営管理力も必要な高度なビジネスになる。
そのビジネスで巨万の富を得るのは、もっと難しい。
 70年代のアメリカで成功した著者は、異才溢れる傑物だったのだろう。

 飲食事業で大成功した著者は、若者を始め多くの庶民の夢。値千金の注目の人。 その著者が、後世のために、事業で成功する秘訣のような本を出したのだから、この本もいろんな人達に読み継がれてきたのだろう。「著者ほど多くの億万長者を生み出した人はいない」なんてことを、どこかで読んだけど、たぶん、ホントなんだろうなぁ。 柳井さんや孫さんだって、そのひとりと言えなくない。

  翻訳本に限らず、本を読む時は、その本の書かれた時代背景への考慮も欠かせない。その上で、特に翻訳本は、原書が出版された時期と、翻訳本の出版時期が結構ズレていたりする。誤解しないように読まなければ。

道なき道を行く

 柳井さんと孫さんの対談を読み返してみる。
冒頭で柳井さんは、ジョン・F・ラブ著「マクドナルド: わが豊饒の人材」で著者を知ったという。日本語版は1987年に出版されているので、今から30年以上も前に著者を知って、ひょっとしたら原書版(grinding it out)で理解を深めていったのだろう。孫さんだって、1970年代後半にアメリカに留学してたので、その頃に読んだのかも。

今から40年前に時間軸をズラしてみよう。
 ユニクロは、1984年に柳井正さん(現柳井会長)が二代目社長となり、広島に一号店を出店した。第二創業に躍起となっていた頃ではないか。
ソフトバンクも、1981年に日本ソフトバンク(現ソフトバンク)を創業したばかり。

 製造から販売までを手掛ける衣料品店(SAP:Speciality Store Retailer of Private Label Apparel)なんてなかった。 繊維メーカー、テキスタイルメーカー、繊維商社等々と、服飾をつくる過程ごとに様々な事業者がいて、最後の最後に小売店がある(今なら、リセール店もある)。これらの事業者が、垂直統合したり、水平統合しながら覇権争いしてた頃。

 第二創業間もないユニクロがSAPまで意識してたかどうか知らないけれど、顧客満足を高めつつ、ビジネスとして成功する道を模索した結果、現在のユニクロビジネスに行き着いた。

 苦労も多かったはず。銀行団と融資でぶつかったとか、どこかで読んだけど、社外の人達は既往の常識に囚われ、社内の古株連中だって慣れ親しんだやり方を離れるのは躊躇したはずで、社内外に敵ばかり。 
 そんな頃に柳井さんは本書に出会ったわけ。たぶん。
そして、「あぁ、自分と同じだ。間違ってなかったんだ、この道は」とか、思ったんだろうな。 
著者の主張する「Be daring Be first Be different」に感銘を受けてメモした、という下りも、なるほど、と頷ける。

創業経営者には、道なき道を切り拓いていく、辛さと面白さが同居してる。

 

 本書はビジネス書として古いモノ。だけど、柳井正さんと孫正義さんの対談や寄せ書き付きの日本語版は、レイ・クロックさんの話だけでなく、ユニクロやソフトバンクの黎明期なんかに思いを馳せたり出来て、面白い本になっている。

                            (敬称略)

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