「もしも一年後、この世にいないとしたら。」

この手の書籍はここ数年間の間によく見るようになった。人生に期限があり、いつこの世から去るか分からないことを前提にして、自分の人生において大切なことは何かを考え直す。自分が本当にやりたいことは何かを自分の心を見つめて再発見し、その実現のための準備を優先して生きていくことを提案していく。

この本の著者はがん患者の精神的ケアを担う現役の医師である。本の随所には、人生に真正面から向かい合った患者、もしくは向かい合えなかった患者とのやり取りが示されているが、それだけでなく、著者本人の人生に対する葛藤や苦しみがせきららに綴られている。そして、読者に対して、考えを強要するのではなく、一歩下がった姿勢から、そっと自分の考えを示していく。それがかえって、読者を引き込む作用となっている。

いつの間にか、WANT(=こうしたい)といえる自分を押し殺し、MUST(=こうあるべき)自分が主役になっていった著者自身の体験の中に、多くの共感を受ける読者も多いだろう。私もその一人。

私は中学時代に父親を病気で亡くし、その後は、長男としてあるべき自分を追い求めてきた。結婚をして子供を持ち、良き夫、良き父親としてあるべき自分とは何かを常に追い求めてきた。仕事でもあるべき上司とは何かを常に考えてきた。それで、結局、私は何をしたいのだろうか?何のために、生きているのだろうか?その根源的な、鋭い問いに対して、自分自身と向き合うことになる。

著者はそんな私に対して、優しい言葉でいくつかの考え方を示してくれた。その考えが正しいかどうかは今は判然としないが、一つの考え方として、大いに理解できた。そう思える一冊であった。


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