昨夜のラブレター

を破って千切って紙吹雪に舞わせたならば、チープな蛍光灯をきらきら反射して、おっとなんだコぉレ。まさしくバロウズのカットアップ、もしくはブルトンのデペイズマン。私の目前に開けるは、不思議な物語のトンネルをくぐった先の雪国でござんした。

あるいは秋の純情詩?

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男はマシューと言う者だが、どうにも見た目から妙ちくりんである。

頭に載せた帽子はプッチンプリンほどの大きさのカワユイ人面蝶で、地肌に羽織ったワインレッドのバスローブが少しばかり短いから陰部を手に持ったマグカップで隠している。小学生の純白ハイソックスを片方の耳から垂らせて、いっちょまえにクリームソーダのストローを唇に挟んでいる。裸足の爪に番号が振られているのは、マシュー自身が自分の足のどちらが右か左かを判別できるようにするためだ。爪のひとつひとつにRLの記号と番号が書かれている。例えば右足の小指であれば「R1」で、左足の小指は「L10」という具合で。つまり右足の小指から親指までがR12345となって、左足の親指から小指までがL678910。しかし番号が右左で通しになっているために、マシューは時折り「L2」が自分の足に無いことへ驚愕して慌てふためく。慌てふためいた後に、両足の隙間に見える地面にボールペンやマジックで左足を書いて、その人差し指へ「L2」と書き足すのである。そうして今もまたマシューはサウスアベニューの一角で、いつものバスローブ姿で、足元のアスファルトへどうにかして左足を書き残そうとしていた。

「困ったぞ。筆記用具がない。こんな大事な時に限って僕には筆記用具がないんだ! 神様、あなたは何故ぼくをこんな不条理な世界へ産み落としてしまったのです! あなたを訴えよう! おい裁判官、彼に死刑を言い渡せ!」

「マシュー殿、彼はすでに死んでおられますことよ。ですから二度も死なせることは私には無理なんでございますことよ」

「なんだって! 神は二度は死なないのか! 不条理だ! ぼくですらもう23回目の生を全うしようとしているというのに! なんと自堕落な神だ! 市中を引き回せ!」

「マシュー、大事なことを忘れていないかい、君は左足を書くことが使命なのだろう?」

「ああ、そうだった。ぼくとしたことがバカしちゃったなあ。そうだそうだ。左足を書かなくっちゃ」

マシューは眉間をこちょこちょと掻いてから隣を歩き過ぎて行こうとしている若い娘に声を掛けた。

「ちょいとそこの不図したエンジェルさん、筆記用具をいま持ってはいないだろうかな。いや、持っていないなら結構さ、そうしてそのネッカチーフからするりと出して見せるなら歓迎さ、ちょいとそこの不図したエンジェルさん」

若い娘はベージュのコートの前をはだけて裸体を露わにした。

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