マガジン

  • モロッコ旅行記 2018年2月21日~5月23日

    三十歳を迎える直前、わたしは、目的もなく、モロッコに向かった。 ノートとペンで書いた3ヶ月間のモロッコ旅行記。

  • 旅句

    季語を用いないので俳句ではありません。 その代わりに旅情へ触れるだろう言葉を一つ用います。 たとえば他国の文化だとか、他国の言語だとかです。 旅好きの方、現に旅をされている方、いつかは旅をしたい方、皆さんが「これこそ旅情」と思える場面、言葉が思い浮かべば「#旅句」で思いを重ねてくれれば幸いです。 言葉の向こうの情で、淡く繋がりたいと思ってマガジンをつくりました。

  • 昨夜のラブレター

    連載小説です。 突然に鐘がカンカン鳴らされて書きはじめました。鐘の音が教会のカンパネラなのか、踏切の遮断機なのか、或いは単なるアドレナリンなのかはわかりません。それを懸命に探るような作品になる予感です。

最近の記事

モロッコ旅行記 3月22日

3月22日 七時半のアラームで起きる。昔のように何度もスヌーズを鳴らさない。 まだはっきりしない頭でドミトリーを出て、冷たい階段を下りていく。共有スペースも薄暗い。用を足して、キッチンへ向かう。 冷蔵庫からトマトの大きいのを一つ取り、水洗いする。 シンクの上の物置にあるタジン鍋を一つ取り、皮を剥いて小さく賽の目に切ったトマトを敷き並べてオリーブオイルを垂らす。 塩をひとつまみ振りかけて、ガス栓を開け、チャッカマンで点火する。 ふたをして、トマトが熱されるあいだ、包丁とまな板

    • モロッコ旅行記 3月21日

      3月21日 朝の仕事を終えて、M君がトレッキングへ行っている間にフランス語をひさしぶりに勉強する。 ようやく暇な時間の使い方を分かりかけたところで予約のメールと電話が入る。少人数ではあるけれど、これで四日間は常にお客さんがいることになる。 宿の前の植木に水をやる。私の分かる植物は、ひまわりとサボテンだけだ。他は名を知らない。名を知れただけでも、たかが水をや ることにも情が注げるだろう。 日本を離れた先で、緑に水をやる毎朝、それが妙ではある。けれども、その言葉なく行われる水や

      • モロッコ旅行記 3月20日

        3月20日 午前八時に起床。ユセフが帰ってきた様子はなく、固くなったパンにジャムを塗りたくって朝食とする。インスタントコーヒーを淹 れて外へ出ると、昨夜は気付かなかったけれど、玄関前の鉢がひび割れて半壊していた。ハナが相当に荒れていたことが分かる。ある いはユセフがキレて物にあたったのか。 二人が帰って来ないなら、それはそれで気は楽だ。日本人相手なら一人で何とかなるし、外人でも最低限はどうにかなるのではと考えた。 午前九時半にハナから電話。午後一時か二時に帰るという。 洗濯

        • モロッコ旅行記 3月19日

          3月19日 起きて、ユセフのつくった朝食を配膳し、洗濯をする。 三階のテラスで、激しい日差しのもと、白いシーツを干して、それから薄暗い屋内の階段を下りる時、わたしは視力を失う。 先までの真白の光をうけた目では、屋内はほとんど光が無いに等しくて、立ちくらみのように辺りは真っ暗になる。 手すりに沿って、おそるおそる階段を下りていく。 しばらくして目は正常になる。 昼にはすることもなくなって、共有スペースのソファへ寝転がって、いつのまにか寝ている。 暇のために昼寝をして誰に叱られ

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        • モロッコ旅行記 2018年2月21日~5月23日
          27本
        • 18本
        • 旅句
          5本
        • 昨夜のラブレター
          5本

        記事

          モロッコ旅行記 3月18日

          3月18日 キッチンでユセフとハナが朝食の準備をしている。今朝はNさん家族三人だけだから遅くはじめてもいいだろうと思っていた。 テーブルセットや配膳の手伝いをして、皿を洗い、十一時に水を汲みに行きがてら、三人と渓谷まで歩き、写真を撮る。キッチンの棚 にあったインスタントラーメンを食べて、昼には何一つすることなく、眠る。シエスタ。 夕食に親子丼をつくる。はじめて新しい料理を自分だけでつくった。まずくはない。ハナが、 「一緒に夕食をとる?」 と気を遣ってくれて、ユセフとハナと、

          モロッコ旅行記 3月18日

          モロッコ旅行記 3月17日

          3月17日 起きてトマトの皮を剥き、ベルベルオムレツをつくる。皆が荷造りをしに部屋へ戻っているあいだ、ハナにおつかいを頼まれて商店 へ卵を買いに行く。すっかり馴染みの客になったよう。外でユセフが店主とミントティーを飲んでいた。 マラケシュへ行くKさんが午前十一時前にチェックアウト。早稲田の学生で卒業旅行だという。高校の三年間をチリで過ごして、英語とスペイン語を喋る。ゲストハウスを訪れた当初は、身を固く縮こませて、訊ねることに対して恐縮して返答ばかりしていた。けれども二泊連夜

          モロッコ旅行記 3月17日

          モロッコ旅行記 3月16日

          3月16日 ユセフとハナに朝食とベッドメイキングを任せて朝をゆっくりと過ごす。 昼に、Nさん三名をピックアップするため夫妻とティネリールへ下る。野菜を買って、カフェでゆっくりしているとアブドゥルナビと出逢う。 「お前、お祈りはどうした」 と訝しんでいる。 金曜日の午後は大きな礼拝があって、ティネリールはひとけない。 夫妻とホテルトドラのエントランスホールでビールをすこし飲む。するとホテルスタッフから大量のクスクスをふるまわれる。 CTMオフィスで夫妻のチケットを購入し、スー

          モロッコ旅行記 3月16日

          モロッコ旅行記 3月15日

          3月15日 本日の宿泊者数は八人。Aさん夫妻、Tさん、Kさん、Gさん、Tさん、Kさん、ドイツ人。 ハヤシライスをつくるも味が薄くて反省ばかり。夫妻の助力があってのことなのに、自分の力量が情けない。 けれども、夜遅くにGさんと夫妻、Tさん、Kさんとゆるく飲みながら語らう時間が楽しかった。ただ単純に。もっと美味しい料理を提供したい。 五人部屋のドミトリーにはドイツ人男性一人、日本人女性二人が寝息を立てている。穏やかで大きな寝息がスーハーと。ひとりは寝返りをうって、ひとりは毛布を

          モロッコ旅行記 3月15日

          モロッコ旅行記 3月13日

          3月13日 午前八時に起きて、典子さんにベルベルオムレツの作り方を教わる。 トマトの皮を剥き、賽の目に切ってタジンに敷きつめる。塩を振り、オリーブオイルをたらして蓋をして、火を入れる。トマトの水分が抜けてきたら、再度オリーブオイル、パプリカ、クミンを入れて混ぜ、最後に溶き卵を一人分に対して二個まぜ入れる(モロッコの卵は小さい)。弱火で蓋をして固まったら終了。パンを切って、バスケットにナプキンを敷いて載せる。フォークも一緒に。 お茶は、水は一杯に入れたポットが沸騰したら火を止

          モロッコ旅行記 3月13日

          モロッコ旅行記 3月12日

          3月12日 起きると、アーモンドの宿泊客は朝早くから蚤の市へ出かけているらしく、アヤちゃんも学校へ行っているため物音も無く、静かで、つい正午まで惰眠を長引かせる。 宿泊費を払って典子さんのところへいき、昼食をとりにカフェハミドへ。 昨日から典子さんのところへ宿泊している院生のKさんがいて、食後に二人でトレッキングへ出かける。 彼女は国費で一年間メキシコ留学をしていたという。学部生のときには、学部の必修として半年スペインに留学していたらしい。英語もできて、たくましい女性だと思

          モロッコ旅行記 3月12日

          モロッコ旅行記 3月11

          3月11日 午前九時に起床。顔を洗い、身支度をして、アーモンドからひりだされるようにして渓谷へ向かう。 石になる。 昨日クライミングした場所へ行く。枯れた川辺に畑の名残りがあって、うっすらと草が 生えている。 人のいない、巨岩に腰かけると、密室の中のような耳鳴りが外へと広がっていく。輪郭の緩んでいくのがわかる。人群れの中にあっては固くなり、人里を離れると緩む。単に対人へのストレスでしかないのか。半端にコミュニケーションができるということが、一層に面倒にさせている。 アーモン

          モロッコ旅行記 3月11

          モロッコ旅行記 3月10日

          3月10日 午前十時ごろに起きて、朝食をいただく。共有スペースのソファに寝転がって漫画を読み、荷づくりをする。とりあえず十日間、ゲストハウスを手伝うことにしよう。そう決めて、典子さんに言う。 今日から二日間はアーモンド、十二日の夜から典子さんに仕事を教わりながら、という具合。 十四時ごろに「アーモンド」へ。先客二名が共有スペースで昼食をとっていた。みちよさんに家を案内してもらい、娘のアヤちゃんから攻撃をうける。階段をくだり、畑のぬかるんだ畦道を渡って川を越えると、青年が川辺

          モロッコ旅行記 3月10日

          モロッコ旅行記 3月9日

          3月9日 午前八時にN君に起こしてもらう。共有スペースでベルベルオムレツを食べ、川辺に降りて洗濯をする。その道中、民家の裏の、オアシスのなかの畑を通る。青々した草をたくさん背負って歩く女性や、荷を背負ったロバが歩く。道をあけて通りすぎるのを待つ。 透明なせせらぎは素足に冷たく、洗濯のためにかがめた腰を休憩がてら元へ戻せば、空高くに渓谷の絶壁がそびえたっている。風の渡 る心地良さや、鳥の啼くのや、遠く近くの民家の屋根で叩くトンカチの音が絶壁に反響する。まだ意識の眠たい頭では身

          モロッコ旅行記 3月9日

          モロッコ旅行記 3月8日

          3月8日 午前十時、身支度を終えて部屋で過ごす。ホテルすぐそばのスプラトゥールオフィスでティネリールまでのチケット65Dhを購入し、併設されたカフェで朝食を摂る。 マラケシュを出て以降、といってもまだ四日しか経っていないが、心の塞がりはさほど感じない。移動が多く、環境が変わることに加 えて、昨日、一昨日とビールでごまかされたのだろうと思う。そのために昨晩から下痢ばかり。 昨夜だったか、「オアシス=旅籠」というフレーズをなにかの動画で聞いた。なるほど分かりやすい。キャラバンに

          モロッコ旅行記 3月8日

          モロッコ旅行記 3月7日

          3月7日 ホテルババにもう一泊することになった。昨夜の酔い心地がよくって今夜も酔おうという寸法だ。 けれども、昨夜書いたものを読み返してみると、酔い痴れた恥かしい恋文になっていて 「またやってしまったか」 とあきれる。けれどもイヤホンでなく音楽を聴いて楽しかったことには違いない。 昨日歩いた二時間を思いだす。石ころのあるところには、必ず、願掛けか何かで積まれた石がある。あるいは、単なる退屈しのぎに積 んでみただけか。砂城のカスバにしろ、石積みにしろ、あの辺りには原始的な、あ

          モロッコ旅行記 3月7日

          モロッコ旅行記 3月6日

          3月6日 黄漠も鳥が鳴けば閑か オーベルジュをチェックアウトする前に、宿泊客のスイス人女性と前庭で煙草を吸いながら会話する。モロッコに三週間滞在するらしく、今日はヒッチハイクでワルザザードへ向かうという。たくましい女性。日本にも行ってみたいと言う。 「魚がいつでもどこでも美味しいんでしょう?」 なぜモロッコを選んだのかと問われ、 「マラケシュという響きが格好よくて」 と答えると笑ってくれた。 重い荷を背と腹に抱えてオーベルジュを発つ。 「ここをリコメンドしといてくれよ」

          モロッコ旅行記 3月6日