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2017年7月23日、ビットコインに起こったこと

クレジット:画像はMarco Verch氏の作品"Bitcoin-Fork"。ライセンスはCC BY 2.0

今日の日付で思い出したことがあるので、書きとめておく。ちょうど3年前の2017年7月23日、「ビットコインが分岐する可能性」をめぐり、仮想通貨取引所によって対応が分かれるという出来事があった。日本のbitFlyerは通常通りビットコイン入出金を受け付けた。一方、日本の他の取引所はビットコイン入出金を一時停止したのである。

この日に起きたことを専門用語を使うと「BIP-91アクティベートでUASFが回避された」。これをもう少し平たく言うと、この日「ビットコインのブロックチェーンが特殊な形で分岐(フォーク)して使い物にならなくなる可能性があったが、未然に回避された」。

もっとざっくり言うと、「ビットコインがムチャクチャになる危険があったが、なんとかなった」ということになる。

「なんとかなる」と予想していたbitFlyerは入出金を停止せず、「何か起きるかもしれない」と警戒した他社は入出金を停止した。

このあたりの事情はややこしく、説明すると長い記事になる。読めば分かるような形で下記の記事に書いたので、興味がある向きは目を通していただければありがたい。

反対派を動かした、ビットコイン流ストライキ

くすぶる対立の構図、11月の「分裂」回避なるか

ここから先、「ニューヨーク合意(NYA)」と「BIP-91」という用語が出てくる。NYAというのは仮想通貨業界の中の有力な企業グループによる約束事、BIP-91はそこで約束された「ビットコインのブロックチェーンが特殊な形で分岐(フォーク)しないようにする技術仕様」である。よくわからないなあ、という方は、やはり上記記事に目を通していただきたい。

NewsPicksには、当時bitFlyerのCEOであった加納裕三氏、当時Zaifを運営するテックビューロのCEOであった朝山貴生氏のコメントが残されている。

https://newspicks.com/news/2383414/

当時bitFlyerのCEOであった加納氏は「一部の仮想通貨取引所より、2017年7月23日にビットコインの入出金、決済機能を停止するというリリースが出ております。7月21日にBIP91がロックインされたことによる対応と考えられますがBIP91のロックインはそのような性格を持つものではなく、むしろ分岐の可能性ががほとんどなくなったと考えるべきです」と述べ、「当社では(略)全てのサービスを停止せず、通常通り運営致します」と記している。

一方、当時Zaifを運営していたテックビューロのCEOであった朝山氏は「JCBA加盟企業では、顧客の資産保全を第一に考えて今回の処置(ビットコイン入出金の一時停止)をとることにいたしました」と述べている。

2人の発言は食い違っているように見える。どちらが正しいのか。

私の個人的な意見は、ここは「2人の立場の違いによる」というものだ。bitFlyerはニューヨーク合意(NYA)のインサイダーであり、他の企業はそうではなかった。この立場、前提の違いが判断を分けた。

bitFlyerが加入する仮想通貨とブロックチェーンの業界団体JBAは「7/23に恒久的なフォークは起こらない」「マイナーが嘘をつくリスクは今回に限らない」と説明した。JBAに所属するbifFlyerは入出金は通常通りとし、ただし「6承認以上を待つ」ことを推奨した。bitFlyerは自らが署名したニューヨーク合意(NYA)により「マイナーはBIP-91をアクティベートする(=非常事態回避の行動を取る)」と信用する立場を取っていた。下記の発表文では「BIP66のときの例とは異なり、今回はすでにほぼすべてのマイナーがBIP91について理解しており、23日のアクティべート後に不用意にBit1を立てない採掘をするリスクは低いと考えます」と記している。

ビットコインの動向に関する当協会の見解 (JBA)

一方、JBAとは別の業界団体JCBAに加入していた仮想通貨取引所のcoincheck、bitbank、Zaifらはビットコイン入出金を一時停止した。NYAでマイナーらはBIP-91のアクティベートをする約束をしたのだが、約束通りの行動をしないマイナーが出てきて不測の事態が発生することに備えた。

8月1日に予期されるビットコイン分岐危機に向けた対応について(その2) (JCBA)

リリース内容についてのご質問とご回答について(7月21日更新)

個人的な意見としては、これは前提が違う(あるいは情報の非対称性があった)という話であって、どちらが正しく、どちらが間違っている、という種類の話ではなかったと考えている。

仮想通貨取引所は企業であって、企業は約束で動く存在だ。当時のJBAのように、会社どうしの約束を信用する立場を取る立場はあり得るだろう。(追記:ここには加納氏からの異論があるので、記事末尾を見て下さい)

一方で、当時も今もビットコインの世界では「人間の約束は信用せず、アルゴリズムや経済原理を信じましょう」という価値観が主流であると言われ続けてきた。その価値観に従うなら、「マイナーが必ず約束通りに行動するかどうか分からない」としてJCBAが取った入出金停止は納得できる。

仮定の話だが、今の時点で同じことが起きるとすれば、業界団体(自主規制団体)は統一見解を出す必要が出てくるだろう。はたしてどちらの側の意見が採用されるだろうか。個人的な意見では、会社ごとに対応が異なり、利用者側の判断で選べるようになっている状況には合理性があると考えている。ただし、規制省庁である金融庁はそうは考えないだろうとの予感もある。

追記:
さっそく加納氏からレスポンスを頂いた。当方の「個人的意見」とは異なり、ブロックチェーン上の挙動を考えた判断であり、当時の判断が正解である、というご意見であることが分かった。
https://twitter.com/YuzoKano/status/1286204213186293760

「bitFlyerを含む複数の取引所のニ...」、@YuzoKano さんからのスレッド

付記:
加納氏による異論を受けて改めて考えると、当時のJBAとJCBAの意見の違いは、ある意味で当方が思っていたより深刻だったと受けとめました。ブロックチェーンへの信念が違うということなので。

それを受けた当方の側の次の問題意識は、「複数の専門家、当事者の間で信念の違いがあるとき、どう合意形成をすればいいのか。また一般の人々はどう判断すればいいのか」です。これはとても現代的な課題だと思います。



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