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でき太くん三澤のひとりごと その131

◇ 最初で最後の退塾


でき太くんの算数クラブでは、学習指導の質を落とさず、その感覚を鈍らせないようにするために実践教室も運営しています。

実際に子どもと向き合える「現場」を用意しております。

直接子どもたちと現場で向き合うと、子どもの息づかいであったり、みんなが一斉に集中したときの張り詰めた雰囲気、緊張感といったものを直接感じることができます。これはzoomやSkypeではなかなか経験できないものです。

このような「現場」でしか味わえない雰囲気や、学習指導をした際の子どもの様子、反応を日々経験することは、通信教育での学習指導の質を維持する上でとても大切なことなのです。


今回の内容は、私がはじめて実践教室の塾生を退塾させたときのお話です。

生徒が生徒の意思で塾を辞めたのではなく、私が塾生を退塾させたお話です。これが私にとっては最初で最後の退塾事例です。

毎週配信しているコラムで、私が塾生を退塾させてしまった話をすることに、どんな意味があるのか。

そこに疑問を感じる方もいるかもしれませんが、今回のコラム(続きものになります)を最後までお読みいただければ、きっと意味をわかっていただけるかと思います。


かれこれ20年くらい前の話になるでしょうか。

私が退塾させた子はYくんといいます。
当時は小学4年生。

お姉ちゃんが入塾したこともあり、「お姉ちゃんがいくなら、ぼくも行こうかな」というような雰囲気で入塾してきたお子さんでした。

Yくんは地元の公立小学校に通い、成績はわるくはなく、算数に取りこぼしはありませんでした。

勉強はそれなりによくできるお子さんです。公立小では問題ないお子さんでした。

家庭学習は宿題が中心で、それ以外はとくに取り組んでおらず、たまに市販の問題集やドリルを取り組むという地方都市ではよくある家庭学習のパターンでした。

Yくんのように取りこぼしはなく、宿題をする習慣があるお子さんであれば、でき太の学習を習慣化させていく上では、通常はそれほど時間はかかりません。

最初のうちは親御さんのお力添えが必要ですが、3ヶ月もすれば次第にでき太の進め方にも慣れ、習慣化していきます。

しかし、このYくんは、3ヶ月たってもなかなかでき太の学習が習慣化していきません。

Yくんは、週に1度だけ実践教室に通ってきていたのですが、家では全くでき太の学習を進めず、教室にきたときだけ2枚から3枚取り組むだけでした。

この3ヶ月間、当時の私はYくんの学習に対するモチベーションをあげるために様々な話をしました。

でき太をコツコツと学習すれば、学校の授業が予習できるようになるだけでなく、Yくんなら「飛び級」もできるようになるとか、テスト前に準備をしなくても、いつでもテストで100点がとれるようになるとか、本当に色々な話をしました。

その都度、Yくんは「がんばってみる!そうなってみたい!」と言うのですが、つぎに教室にくるときにはでき太のプリントを全く学習していないという状況が続いたのでした。

算数に対して強い苦手意識があって、でき太になかなか取り組めないのであればまだ気持ちがわかるのですが、取りこぼしがなく算数はよくできるほうなのに、3ヶ月もの間でき太の学習を全く進めないというのは、もうだれの目から見ても、Yくんはノリで入塾してしまい、やる気がないというのは明らかです。

そこで私はYくんとじっくり話をする時間を設けました。

20分ほどだったと思います。

他の講師の先生に授業のサポートをお願いして、Yくんとは教室の横にある先生の控え室で二人っきりでじっくり話をしました。

「Yくんとはこれから正直に話をしたいと思っています。あまりまわりくどい言い方をしてもしょうがないから、私が思っていることをそのまま言うね」

「Yくんは、正直なところ、でき太くんの学習はやりたくないんじゃない? やりたくないなら、やりたくないでいいんだよ。でき太くんは強制させるものじゃないし、やりたくないなら、無理してやらなくてもいいだよ」

「やりたくないわけじゃないんだよね、、、やろう、やろうと思っているんだけど、ついつい忘れちゃうんだよ、、、」

「じゃあYくんは、この前私が話をしたみたいに、算数ができるようになりたいと思っているんだね。飛び級とかできるような実力をつけたいと思っているんだね」

「うん、思ってる。そうなれたらいいよね。だけどついついでき太をやることを忘れてしまったり、宿題が多かったり、忙しかったりで、でき太ができないんだよ」

自分の感じていることを流暢に、つっかえることもなく話をすることができるYくん。実に頭の回転のよい子です。

「そうなんだね、、、算数が得意になって飛び級できるような実力も身につけられたらよいと思うけど、学習することを忘れてしまったり、忙しくてできないということなんだね。じゃあ、学習ペースを1日1枚くらいにして、プリントに学習する日付を書いておいて、学習ができたらカレンダーにシールを貼るようにしてみたらどう?カレンダーは、冷蔵庫とかいつでも見えるところに貼っておけば、でき太を忘れるということもないでしょ?」

「そうだね!それはとてもいいアイデアだね。それでやってみようと思う!」

このセリフを言ったときのYくんは、心からそう思っているのではなく、ようやく話の終わりが見えてきたことに安堵をしているような雰囲気があったように思います。

そして私とYくんは、7枚のプリントに1週間分の日付を書きました。

カレンダーは自宅にあるものを使用し、シールもYくんが好きなキャラクターのものを貼るということになりました。


さてYくんは、次の教室のときまでに7枚のプリントを学習してくることができるのか。

当時の私は、これだけ対策を講じておけば問題ないだろうと思っていました。

分量も1週間で7枚と決して多くはない。それにプリントに日付も書いたし、カレンダーまで準備した。これでようやくYくんも習慣化の流れをつくることができる。そう思っていました。

しかしそう感じる一方、心のどこかでYくんの言葉の使い方が気になっていました。

Yくんがよく使う「ついつい忘れる」という言葉です。

もう3ヶ月近く、毎週、毎週私と話をしたり、教室で学習をしているでき太を「忘れる」ということがあるのでしょうか。

もちろん、本当に慌ただしくて、宿題も多く、何から取り組んだらよいのかわからないような忙しさであれば「すっかり忘れる」ということがあると思います。

しかし、3ヶ月近くもの間、毎日そんな生活をしている小学生はいないと思います。

ということは、Yくんは心のどこかででき太のことを気にかけながらも、やれたなかったときのことを「ついつい忘れる」という言葉で置き換えているのです。

「ついつい忘れる」をできなかった言い訳にしているのです。

この点が、非常に気になりました。


Yくんが1週間後やってくるのかこないのか。

「ついつい忘れる」という言葉の置き換えを知らず知らずのうちにしてしまっているYくんがやれるのか。

こんなことを考えながら、つぎの教室までの日々を悶々と過ごすのでした。

次週へつづく。

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🔸2月にHPが新しくなりました。
今回のHPでは、でき太くんを導入しているベトナムの園長先生との対談動画もアップされております。お時間のあるときにご視聴いただければと思います。

🔸でき太くんの算数クラブの新サイト
https://www.dekita.co.jp


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