でき太くん三澤のひとりごと その158
◇ 夏休みの思い出 その4
さて、今回の「ひとりごと」は、前回の続きとなります。
前回は浜辺で、ボードの上に立つ練習をしていたところで終わりました。
午前中とはいえ、どんどん気温が上がっていく浜辺での練習。
30分ほど練習していると、次第に汗をかいてきました。
そろそろ海に入ってほてった身体を冷やしたいと思っていた頃、
「じゃあ、そろそろ海に入って実践してみようか」ということで、私たちは海に入ることになりました。
てっちゃんは自分のボードを持たず、そのまま海に入りました。
私のボードを手でそっと支えながら、私が慣れないパドリングをするのを支えてくれました。
「まずは立つ練習とかしないで、ボードにうつ伏せで乗っている状態で、そのまま波に乗ってみるよ」といって、てっちゃんの胸の位置くらいの深さのところまで私たちは進みました。
いくつか小さな波をやり過ごしたあと、
「あのちょっと大きな波に乗ってみようか。今、ボードの向きを変えるよ」
といって、私のボードの先端を浜辺の方に向けました。
「いいかい、三澤くん。あの波が近くにきたら波の勢いの逆らわずに、力まずに、そのままボードを波に委ねてみて」
それから数秒もしないうちに、大きな波がやってくると、
「いくよ!今だーー!」
といって、ずっとサポートしていた手をてっちゃんがボードから離しました。
すると、私がうつ伏せで乗っていたボードは波の力におされて、一気に浜辺まで進んでいきました。
はたから見ればそれほど速くはないのかもしれませんが、体感速度はとても速く感じました。スーーーっとあっという間に私の乗ったボードは浜辺まで到達しました。
「うわーー!面白い!これは楽しい!」
「波にはこんなに力があるのだ!」
私がこれまで取り組んでいた空手や卓球といったスポーツは、自然の力を使うものではありません。
また、家族旅行などで海水浴に行くということもほとんど経験したことがない私にとっては、自然の力を全身で体感するということが、はじめてに近い経験でした。
「これは楽しい!気持ちいい!」
そう感じた私は、2回目からはてっちゃんのサポートなしに、何度もうつ伏せのままボードに乗り、波をつかみ、浜辺まで進むという行為を続けました。
今、思い起こしてみても、これが本当に楽しかった。
その様子をてっちゃんは、うれしそうにこの光景を見ていました。
日焼けして、ちょっと無精ヒゲを生やした笑顔。
高校生がまるで小学生のようにはしゃいでいる姿を、ずっとやさしく見守ってくれていました。
私が浜辺から、また沖にむかってパドリングを始めようとしたとき、
「三澤くん、そろそろお昼だから飯でも食べるかい?」と、てっちゃんが声をかけてくれました。
私は、うつ伏せのままボードに乗るという行為を、かれこれ2時間近くしていたようです。
高校生にもなって、まさか自分が小学生のように時間も忘れて遊ぶとは思いもしませんでした。
私はご飯を食べるよりも、波と一緒に遊ぶことを優先したくなり、
「飯はいらないですーー!こっちのほうが楽しいのでーー!」と言って、お昼ご飯を断りました。
すると、てっちゃんは嫌な顔ひとつせず、
「それじゃあ、このあとからはボードの上に立つ練習をしてみようか」といって、また自分のボードは持たずに、私と一緒に沖のほうへと向かっていきました。
「だいぶ波に乗る感覚は掴めてきたと思うから、あとは波に乗ったときに、浜辺で練習したことを再現するだけだよ」
「最初からうまくいく人はめったいにいないからさ。あきらめずに何度もチャンレジしてごらん」
そうして私たちは適当な波が来るのを待ちました。
「あの波で、行こうと思います!」
「オーケー!やってごらん」
そうして、てっちゃんが私の乗っているボードを浜辺のほうへと向けてくれました。
そして、私はうつ伏せのまま波を掴むと、浜辺で練習した「1、2、3」を再現してみました。
すると、足を前に出した段階でボードのバランスが崩れ、私はボードから落ちてしまいました。
ボードから落ちても、立てば足がつくようなところでしたので溺れる心配はありません。
「いやー立てませんでした、、、やっぱりむずかしいですね、、、」
と私が言うと、
「だいじょうぶ!だいじょうぶ!必ずできるようになるから。あきらめずに、何度もやってごらん。もう俺がサポートしなくても大丈夫でしょ」
そう言って、てっちゃんは浜辺に戻ると、自分のボードで沖へと向かっていきました。
パドリングをしながら、ずっと沖の方へと向かっていくてっちゃん。
良い波がくるまで、ボードの上で待ち、適当な波がきたところでくるっと方向転換し、一気にテイクオフ。
気持ち良さそうに、ボードを左右に動かしながら浜辺へと向かっていくてっちゃん。
おっさんだけど、かっこよかった。
私が何度もボードから落ちている中、その脇で軽快に波に乗り、サーフィンを楽しんでいるてっちゃん。
最初は、おっさんと海に行くなんて嫌でしたが、このときの私はてっちゃんと海に来て本当によかったと感じていました。
時刻は14時くらになっていたころでしょうか。
私は、ようやくボードの上に立つことができるようになりました。
立つといっても、ほんの数秒。
自分の中ではかなり長い時間立っていたように感じていましたが、きっとほんの一瞬。
「やったー!立てたーー!」
そう叫んで、またバランスを崩して海に落ちました。
「やったー!ついに立てたーー!」
こういう達成感が得られると、不思議とエネルギーが湧いてきます。
きっとこのときの私は体力的には限界にきていたと思います。
しかし、この達成感をまた味わいたくて、また沖にむかってパドリングを始めようとしていました。
すると、てっちゃんが、
「今回のでラストにしておこうか。三澤くんは気づいていないだけで、身体はかなり疲れていると思うよ。疲れていると、足がつくようなところでも溺れたりして危険だからね。今回がラスト。思いっきりやってきな」
そういって、私のラストを見送ってくれました。
ラストでも、ちょっと立つことができました。
少し波に乗ったような感じ。
自然と一体になれたような感覚。
これをほんの一瞬、味わうことができました。
浜辺に戻り、ボードと足を繋いでいたリーシュコードを外すと、どっと疲れが私を襲ってきました。
自分でも気づかないくらい、私は疲れていたようです。
このままてっちゃんのアドバイスを聞かずに練習を続けていたら、私は本当に溺れていたかもしれません。
てっちゃんの適切な判断でした。
帰りの車中も、行きと同様、私はずっと眠っていました。
途中何度かてっちゃんのジッポーの音と、セブンスターの香りで目が覚めましたが、またすぐに眠りについていました。
本当に疲れてしたのだと思います。
私がこの夏の体験から学んだことは、「やってみたい!」と思ったことは、臆せずに行動に移すこと。
ちょっとでもやってみたかったら、失敗を恐れずに取り組んでみること。
そうすると、これまでの日常は変わり、視野も広がっていく。
とても大切なことを学ぶことができました。
今年の夏。
多くの子どもたちが「やってみたい!」と思うことをチャレンジしてくれていたらいいな。
そう願ってします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?