でき太くん三澤のひとりごと その159
◇ R くん
今回の「ひとりごと」では、私が以前学習サポートをさせていただいた「Rくん」について書いてみたいと思います。
このRくんの成長過程には、子どもが自分に自信を持ち、日々主体的に学習できるようになる大切なポイントがあります。
このポイントを会員の皆さんに知っていただき、日々の子育てに活かしていっていただきたいと思っています。
私の教室にRくんが来たのは、Rくんが小学3年生のころでした。
そのとき、Rくんは算数にかなり苦手意識がありました。
算数以外の教科もとくに得意科目はなく、勉強は大嫌いという状態でした。
学校の先生からは、「Rくんは学習障害の疑いがあります。一度しっかり検査を受けてください」と言われていたようです。
早速私は、Rくんの算数の状態を確認してみました。
Rくんは、小学1年生で学習する「くり上がりのあるたし算」、「くり下がりのあるひき算」から、定着が十分ではありませんでした。
まだ指を使って計算する段階で、「くり上がり、くり下がり」の問題20問を処理するのにも5分以上かかっている状態でした。
九九も、6の段から9の段については、スラスラと言えないところがあり、「6×8=45」というようなミスインプットも残っていました。
この状態で、小学3年生の算数は学習できません。
学習に負荷が生じ、ミスすること、わからないことがどんどん増えてきます。学校の授業も苦痛の連続でしょうし、宿題もしっかりとできません。
Rくんのお母さん曰く、宿題は毎日泣きながら取り組んでいるとのことでした。いつも泣きながら取り組むので、Rくんのドリルは涙で濡れて波打っている状態でした。
この波打っているドリルを見たときに私は、お母さんとRくんは、本当に辛い日々を過ごしてきたことが想像できました。
お母さんがRくんの横について、ひとつ一つ説明しながら宿題のドリルを解いていく。
いくら説明してもわからないときには、お母さんもついつい感情的になってしまい、「なんでわからないの?さっき説明して”わかった!”って言ったじゃない!」と怒鳴ってしまうこともあったでしょう。
大切なわが子の人格すらも否定してしまうような言葉も言ってしまったこともあったでしょう。
「なんであんなひどいことを言ってしまったのだろう」と、お母さんは自分を責めたこともあったと思います。
また、Rくんのように勉強が嫌いなお子さんの多くは、たいてい字が雑です。
4が9のようにも見えたり、9が7のように見たり、、、
こういう雑な字で宿題を仕上げることが、さらにお母さんの感情に火をつけます。
何回説明してもわからないし、おまけに物事を雑に仕上げる。
いい加減にする。
こういう態度にイライラが増していくのです。
イライラが増せば、「なんぜあんなひどいことを言ってしまったのだろう」という反省もどこかへ吹き飛び、さらに酷いことをわが子に言ってしまう、、、
こんな出口の見えない日々を、Rくんとお母さんは過ごしてきたのでしょう。
きっとお母さん自身、私の教室に来たころにはRくんの宿題をサポートすることにほとほと疲れ切っていたと思います。
またRくん自身も、大好きなお母さんがまるで鬼のようにも見える勉強の時間、そして自分の能力、存在すらも否定されるかのような時間を過ごすことに、言いようのない苦痛を感じていたことでしょう。
こういう日々を過ごしていれば、だれでも勉強は大嫌いになります。
まず、Rくんのように勉強が大嫌いなお子さんが勉強ができるようになるには、大切なポイントのひとつ目を実践していく必要があります。
それは「Rくんのスタートライン」から学習を進めていくということです。
Rくんが小学3年生だからといって、3年生の内容にこだわる必要はありません。Rくんができていないところから、学習をはじめていきます。
Rくんは勉強が大嫌いでしたので、私はできるだけ負担感を減らすため、「くり上がり、くり下がり」の2段階くらい前の「9までの数のたし算」から学習材を構成しました。
勉強ができるようになるには、「スタートライン」をできるだけ正確に見極め、そこからひとつ一つ定着した単元を積み上げていくことが、大切なポイントとなります。このことを知っている方は多いと思いますが、以外と実践できていないように思います。
さて、そこからの経緯を細かく書いていくと、また長編の「ひとりごと」となってしまいますので、ここからは大切なポイントの2つめについて書いていきます。
大切なポイントの2つ目は、Rくんとお母さんのマインドを変えることです。
もう少しわかりやすく言いますと、Rくんのセルフイメージと、お母さんのRくんに対するイメージを変えることです。
これが変わらないと、Rくんは変わりません。
Rくんのように勉強が大嫌いなお子さんのセルフイメージは、たいてい「ぼくは勉強ができないダメな子」というイメージとなっています。
このセルフイメージがある状態では、私が構成した「でき太くん」で、多少は算数ができるようになっても、またちょっとしたきっかけで、算数と勉強が大嫌いな「もとのRくん」へと戻っていきます。セルフイメージ通りの姿へと引き戻されていくのです。
私はまず、Rくんが小学4年生の「面積」を学習するころに、成功体験ができるようにカリキュラムを組みました。
たし算、ひき算、かけ算、わり算といった計算領域を中心に学習を進め、文章題の学習はカット。
4年生の10月ころに学習する予定となっていた「面積」の授業が「わかる!」ようになることを優先しました。
なぜ「面積」に目標を設定したのかといいますと、公立小学校4年生の一般的なクラスでは、やや複雑な形をした面積計算を多くの子が「取りこぼす」からです。つまり、できないということです。
もしその問題を、Rくんが解くことができたら。
これはRくんの自信の回復につながります。
Rくんの持っている「ぼくは勉強ができない子だ」というセルフイメージが変わるきっかけになります。
お母さまにも、Rくんに対するイメージを変える取り組みを日々実践していただきました。
これまでのRくんの状態がどうであれ、常に心の中で「Rくんならだいじょうぶ!Rくんなら必ずできるようになるからだいじょうぶ!」ということを思い続けるようにアドバイスさせていただきました。
最初は信じられなくてもいいから、いつもそのことを心の中でイメージするように、自分自身に言いつづけるようにアドバイスしました。
そしてできるだけそこに感情をのせるようにお願いしました。
Rくんが生まれた瞬間、「生まれてきてくれてありがとう」と感じたお母さんの感謝の気持ち。はじめて授乳したときに湧き上がってきたRくんに対する愛おしさ。
そういった感情を呼び起こしながら「Rくんならだいじょうぶ!Rくんなら必ずできるようになるからだいじょうぶ!」という言葉を自分自身に言うようにアドバイスしました。
このような感情を言葉にのせることで、言葉に臨場感が生まれてきます。
とくに、Rくんに対する不安や心配な気持ちが出てきたときには、それをくり返しするようにお伝えしました。
臨場感を伴った言葉は(声にしていないモノローグのようなものでも)、人をやる気にさせ、ときに相手のセルフイメージを変えるほどの力を生むのです。
さて、この大切なポイント2つを実践し、小学4年生の「面積」の授業を迎えたRくんが、どのように変わったか。
このことについては、また次回の「ひとりごと」で書いてみたいと思います。
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