秋ノ月げんのライトノベル書けるかな(Idol Side)9.撮影
9. 撮影
脚本が送られて来てからさらに二日後、石川社長から、撮影スケジュール詳細の書かれたメールが届いた。
六月七日・土曜日、午後二時、心斎橋のアニソンバー”リリカル”現地集合。
日中そこで撮影の後、ロケバスで神戸へ移動して夜間シーン撮影。
あたしが出演するファーストシーンは夜間の方だ。
あたしはさっそく賢さんに電話した。
「撮影の日程が決まったの。六月七日の土曜日に大阪、一緒に、行ってくれるよね。」
「いや実は私もラインプロデューサーの瀬川から声がかかって、エキストラで出る事になったんだ。
一緒に行こう!」
「ホントに? じゃあ切符は一緒に買っとくから。」
電話を切った時のあたしの顔は、気持ち悪いくらいに、ニヤケていた。
賢さんと一緒に大阪へ行くのが、楽しみでしょうがなかったのだ。
「賢さん大阪は初めて?」
大阪へ向かうサンダーバードの車内で、あたしは遠足に行く子供のように、はしゃいでいた。
「初めてでもないけど、ずいぶん久しぶりかな。
仕事の出張とか、遠征といえば東京ばかりだったから。」
「賢さん明石焼きって食べた事ある?」
「あるある! むしろ大好きだよ。
昔初めて大阪出張した時に、川西に住んでるオタク友達が梅田まで出てきてくれて、難波とか案内してもらった後、梅田地下の“ぶぶ屋”って店に連れて行ってもらって。」
「賢さん明石焼き好きなんだ。
じゃあニナコさんや夏希ちゃんへのお土産に、明石焼き買って帰ろうよ。
ってか、梅田に着いたらぶぶ屋行こ。」
「桜ちゃんはぶぶ屋の場所わかるの? 私が自分で行こうとしても、全然わからなくて。」
「梅田の地下は迷路だもんね。」
そんな話をしているうちにサンダーバードは十二時三十七分に大阪駅に着き、改札で石川社長と合流、ぶぶ屋で遅めの昼食をとってから、地下鉄御堂筋線で心斎橋へ移動した。
日中のロケに使わせてもらうアニソンバー”リリカル”。
メグミルクさんという有名な女性アニソンDJが経営されてるというその店は、本来はクラブ形式なのだが、映画の中ではアニメオタク相手のコスプレカフェとして登場する。
今回の映画“電脳戦士キョワーン”は、前作の“サイババンS”で二番手ヒーローとして登場したキョワーンが主人公となる。キョワーンが活動拠点としてカモフラージュしている探偵事務所の赤字補てんのために、中島はるかちゃん演じるリョウ隊員が、コスプレカフェでバイトしているという設定だ。
「賢さんちょっと。」
「何?」
「賢さんの役柄ってまさか……」
「シーン七十四、コスプレカフェでバイト中のリョウ隊員が飲み物運んでてけ躓いてぶつかる客の役。」
「何よそれ! ぶつかった勢いで二人もつれ合って倒れこむ、ってなってるよ。
それで今回撮影決まってからずーっと嬉しそうな顔してたのね。」
「そんな嬉しそうになんて、してないよ。」
「してるよぉ~!」
「してない。」
「してる!」
「ほらほら、着いたよ、“リリカル”。」
あたしが賢さんと言い争っているうちに、石川社長が今日の撮影スタート場所である”リリカル”を探し当てていた。
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