秋ノ月げんのライトノベル書けるかな(Idol Side)13.永遠のうたたね(完)
13.永遠のうたたね
とやまコスプレふぇあ二日目、あたしは例によって賢さんと一緒に、昨日よりはのんびりした気持ちで会場入りした。
ただ昨日は、メイクスペースがめっちゃ混んでいたので、メイクだけは先にできるところだけ済ませて出て来た。
「一日目に受付を済まされた方は、そのまま更衣室までお進み下さーい!」
一階受付前で、スタッフのお姉さんが大声張り上げて案内していた。
あたしは二階アトリウム前で一旦賢さんと別れ、女子更衣室のある3階へ向かった。
女子更衣室前には、もう何人か並んでいた。
と、思ったら、先月の環水公園のイベントで会った、“コスプレ・センチネル”のスタッフさん達だった。
列先頭の確か、代表の白絵さんて人。更衣室スタッフらしい女性と押し問答している。
「昨日はメイクスペースが大変混み合いましたので、本日は先にメイクをしていただいてからお着替えしていただく事に急きょ決まったんです。先にメイクスペースへお願いします。」
「だから、メイクはもう家で済ませて来てるんだってば! それとも何。
これ以上塗りたくれってえの?」
更衣室スタッフは舌打ちして、しぶしぶ白絵さんを更衣室へ通した。
その後に続くように、みんなゾロゾロと更衣室へ入って行った。
「メイクされる方は先にメイクをお願いしまーす!」
そうアナウンスがなされたが、先にメイクスペースへ向かう人は誰もいなかった。
まあ普通そうだろうな。
先にメイクをガッツリしてしまうと、着替えの時に擦れて崩れたり、服に付いたりするから。
昨日と同じゴスロリミヤビに着替え、メイクの簡単な仕上げだけしてメイクスペースを出ると、背後から声がかかった。
「甘いわね、桜ちゃん。
その衣装、昨日と一緒じゃないの。」
はるかちゃんだった。
昨日と同じ茶髪のウィッグを、頭の両側でお団子にまとめ、そして今日の衣装はミニ丈の真っ赤なチャイナドレス。金箔のようなもので鳳凰が描かれている。
「もしかして、それもミヤビのバリエーション?」
「そうよ。
アンタこのバリエーション知らないの?」
ああ、今日もはるかちゃんに、持っていかれてしまう。
一緒に二階への階段を降りて行くと、踊り場でまた声をかけられた。
「桜さん、でしたよね。」
昨日は白いスクール水着のミヤビをやっていた、タマさんだ。
「タマさん、おはようございます。」
タマさんはコスプレではなく私服で、紙袋を一つ持っている。
「私、実は昨日でコスプレ活動を引退したんです。
それで、もしよかったら、これをあなたに。」
差し出された紙袋から覗く光沢のある赤い生地から、それがミヤビのパイロットスーツである事が、すぐに分かった。
「いいんですか?」
「私はもう着ませんし、あなたならとっても似合うと思うの。」
「でも……」
あたしはタマさんの胸元と、自分の胸を見比べた。
「大丈夫! アタシいい物持ってるから、ちょっと更衣室戻るよ。
あっ、これありがたく、この子に着させていただきます。」
はるかちゃんは、あたしの代わりに紙袋を受け取ると、あたしの手を引いて三階へ戻り始めた。
更衣室に戻ると、はるかちゃんはいきなりチャイナドレスの胸元を開き、そこから手を突っ込んで、中から半透明の、楕円形のブヨブヨした物体を取り出した。
「何これ?」
「立体シリコンパットという物よ。」
「立体シリコンパット?」
「この山なりになってる部分にバストが乗っかるように、ブラの内側に仕込んで着けるとね、わかるでしょ?」
「あ!」
使い方と、その効果が理解できた。
「はるかちゃん、こんなの使ってるんだ。」
「いつもじゃないわよ。」
あたしはさっそくパイロットスーツに着替えた。
「でもこのパイロットスーツ、デザイン違くない?」
胴回りが、かなり広い範囲でシースルーになっている。
「最新型ロボの試運転で着てたテスト用スーツじゃないの! いいのもらったじゃん。」
「でもこれちょっと、見えすぎじゃない?」
「ミヤビも映画の中で言ってたね、そんなセリフ。」
二階の屋内撮影スペースに降りて行った時、あたしたちは驚くべき光景を目の当たりにした。
ピンクのナース服に巨大な注射器を抱えたナミレさんが、賢さんに撮影させていたのだ。
「ぅおぅ!」
あたし達二人に気づくと、賢さんは歓喜の声を上げた。
そしてナミレさんを、あたし達に紹介する。
「ナミレさん、今日はお一人なんだってさ。
一日一緒でも、いいかな?」
あたし達の間を微妙な空気が流れた。
賢さん、お人よし過ぎる。
はるかちゃんはというと、ナミレさんを値踏みするかのようにジロジロとしばらく見た後、「フッ」と鼻で笑ったのが、あたしにだけ聞こえた。そして微妙な空気を吹き払うかのように元気よく声を発した。
「じゃあさ、みんなで城、行こうよ。」
はるかちゃんのおかげで、やっと普通に話せる空気になった。
「そんなに慌てなくても今日はのんびり行こうよ。
それよりニナコさんの所へ顔出さない?
昨日の集合写真のデータも、CDに焼いて来たから渡したいし。」
あたしの提案で、まずは一階のカフェでお茶しようという流れになった。
「いらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様。」
“ふぃなぽあ”のいつもの制服を着たメイドさんが出迎えてくれた。
中へ通され、テーブルに座ると、店内を見渡してみた。
ニナコさんの姿は見えない。
「すいません、ニナコさん、どこに居られます?」
おしぼりを持ってきてくれたメイドさんに尋ねてみた。
「店長は、今日は居りません。」
そう答えたメイドさんの表情が一瞬曇ったのを、あたしは見逃さなかった。
「あたしニナコさんとは同じアパートで隣室なんです。
昨日遅い時間にまだ帰ってなかったから、もしかして何かあったんですか?」
メイドさんはしばらく逡巡していたが、やがて話し始めた。
「実は昨日、片づけの時に倒れられまして……今も病院に……」
「どこの病院ですか!?」
賢さんがヘルメットを脱いで立ち上がった。
メイドさんからニナコさんの入院先を聞き出すと、賢さんとあたしは急いで着替え、市民プラザを後にした。
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