秋ノ月げんのライトノベル書けるかな（Otaku Side)9.電脳戦士キョワーン

　　９． 電脳戦士キョワーン

　連休明け、沢畠監督のブログで、“サイババン”シリーズ初の劇場版となる新作の概要が公表された。
　タイトルは“電脳戦士キョワーン”。タイトル通り、二番手ヒーローのキョワーンを主役に据えたスピンオフ的な劇場版だ。
　これまでのシリーズを通して主役を務めてきたサイババンは登場しないが、“サイババンＳ”に出演した女性隊員たちは総登場するらしい。
　特に中島はるかちゃん演じるリョウ隊員は、前作ではキョワーンのパートナー的な位置づけだったので、今作でも出番は多いに違いない。
　その翌日、前作に続き今作でもラインプロデューサーを務める事になった友人の瀬川から電話があった。
「六月七日、大阪でキョワーンの撮影があるんだけど、エキストラで出ない？
　というか、出ろ！　お前のために、はるかちゃんに抱き付かれる役を用意しておいた。」
「まじでか、出る！」
　念のためカレンダーを確認してみる。六月七日、土曜日だ。よし！　行ける。
「撮影は午後？」
「心斎橋の“リリカル”ってアニソンバーで、十四時スタートだけど大丈夫？」
　心斎橋の“リリカル”といえば、富山や金沢にも何度も来ている有名なコスプレアニソンＤＪ・メグミルクさんの経営する店だ。
「問題ない。」
「そう、じゃあ宿はこっちで一括手配しておくから、交通費だけ自腹でなんとか頼む。
　脚本メールで送っておくので、シーン七十四だから入れておいてね。」
　“入れておいてね”というのは、脚本に書かれたセリフや動作をあらかじめ頭に“入れておいてね”という、映画業界独特の言い回しだ。
　私はさっそくインターネットの“乗り換え案内”のサイトを開き、六月七日の大阪行きの便を検索し始めた。
　すると再び携帯が鳴った。
　今度は桜ちゃんだった。
「撮影の日程が決まったの。六月七日の土曜日に大阪、一緒に、行ってくれるよね。」
「いや実は私もラインプロデューサーの瀬川から声がかかって、エキストラで出る事になったんだ。
　一緒に行こう！」
「ホントに？　じゃあ切符は一緒に買っとくから。」
　そう言って電話は切れた。

「賢さん大阪は初めて？」
　大阪へ向かうサンダーバードの車内で、桜ちゃんはしきりに私に話しかけてきた。
「初めてでもないけど、ずいぶん久しぶりかな。
　仕事の出張とか、遠征といえば東京ばかりだったから。」
　今日も桜ちゃんはデニムのミニスカートだった。これで向い合せにでも座られたら目のやり場に困るのは必至だったが、幸い隣り合わせの席だったので、普通に応対する事ができた。
「賢さん明石焼きって食べた事ある？」
「あるある！　むしろ大好きだよ。
　昔初めて大阪出張した時に、川西に住んでるオタク友達が梅田まで出てきてくれて、難波とか案内してもらった後、梅田地下の“ぶぶ屋”って店に連れて行ってもらって。」
「賢さん明石焼き好きなんだ。
　じゃあニナコさんや夏希ちゃんへのお土産に、明石焼き買って帰ろうよ。
　ってか、梅田に着いたらぶぶ屋行こ。」
「桜ちゃんはぶぶ屋の場所わかるの？　私が自分で行こうとしても、全然わからなくて。」
「梅田の地下は迷路だもんね。」