秋ノ月げんのライトノベル書けるかな(Otaku Side)13.ララバイ・オブ・ユー(完)
13.ララバイ・オブ・ユー
コスふぇあ二日目は、“仮面ナイトN1”を見てからのんびりと家を出た。最終回を目前にライバルキャラ”893(ハクサン)“との最終決戦となる今回は、スーツアクター上がりの風間監督最後の登板回でもあるので、是非リアルタイムで見ておきたかったのだ。
アパートの前で桜ちゃんを拾い、昨日と同じ駐車場が空いていたのでそこへ車を入れ、市民プラザへ向かった。
「一日目に受付を済まされた方は、そのまま更衣室までお進み下さーい!」
受付スタッフの案内に従い、桜ちゃんは女子更衣室のある三階へ、私は2階の男子更衣室へと向かい、昨日と同じくナイトマンに着替える。
これしか衣装がない訳ではないが、公園とか街中とかいった、一般人の目に触れる会場では、なるべく一般人にも分かるキャラクターをと心がけている。その点“仮面ナイト”シリーズのヒーローコスチュームは、子供にも、その親世代にも大変ウケがいいのだ。
自分の着替えが済み、桜ちゃんを待つ間に一服しようと喫煙室へ行った。
そこにまた、ナミレさんが居た。
今日はピンクのナース服に大きな注射器を抱えている。ミヤビのナース服バージョン(そういうバリエーションもあるのだ)だった。
「失礼……」
あわてて立ち去ろうとした私を、ナミレさんは呼び止めた。
「待って下さい!」
私は、ナミレさんに背を向けたまま立ち止まった。
「何か。」
「アタクシ、今日はぼっち参加なんです。」
“ぼっち参加”とは、一緒に行動する友人などがおらず“一人ぼっち”でイベント会場にいる状態をいう。
「今日一日、ご一緒させていただけませんかしら。」
「はい?」
振り返ると、ナミレさんが私に向けて名刺を差し出している。
「いいんですか?」
思わず間抜けな事を聞き返してしまった。
「はい。」
ナミレさんはあくまで無表情で、いったい何を考えていらっしゃるのか全く読み取れない。
しかしナース服バージョンのミヤビさんに一日同行してほしいと言われて断る理由は……いや、断る理由は、ある!
私は昨日、この人に後頭部を踏み踏みされながら「もう、声かけないでもらえますっ?」と言われたのだ。
ナイトマンの複眼が片方ひび割れているのも、この人のせいなのだ。
この人が今まで私に対してそうだったように、「無理です。」と言って断った所で、誰も私を責めたりはしないだろう。
むしろ、今こそ私怨を晴らすチャンスともいえた。
だが…………
富山城をバックに、ナース姿のミヤビさんと連れ立って歩くナイトマンの雄姿を想像してしまった。
何も私怨を晴らす事だけが勝利条件ではあるまい。
「連れにもう一人、いや二人か、ミヤビがいますけど、それでも良ければ。」
私は、ナイトマンのベルトのサイドポーチ(作品中では武器類を呼び出すためのキーアイテムを収納しているという設定)から、”剣豪コマンド・ブゲイジャー”のブゲイグリーンをやった時のコスプレ写真が印刷された名刺を一枚取出し、ナミレさんの名刺より五センチほど下の位置で差し出した。
「結構ですわ。」
先にナミレさんが私の名刺を受取り、それから私がナミレさんの名刺を両手で受け取った。
ナミレさんの名刺のコスプレ写真は、私がまだオタク初心者だった頃に一世を風靡していた、豹柄ビキニのあのヒロインだった。
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