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Ice Age Generation(4)〜死ぬまでずっと不運は続く〜

* 本編は、就職氷河期世代を考察するシリーズ『Ice Age Generation』()()()の続きです。

氷河期世代の不運は、史上最低最悪と言われた就職難が長期に亘って続いたことである。1つ上の先輩も、2つ上の先輩も、後輩もそのまた後輩も、誰もが有効求人倍率0.5前後という厳しい就活に巻き込まれた。これから社会に出て働き、人生を組み立てていこうという時につまづいて、そのつまづきを20〜30代の若年期を通じてずっと引きずることになった不運な世代、それが氷河期世代なのである。

1990年代から2000年代前半にかけて「人余り」が続き、若い労働世代が蔑ろにされた一方で、2010年代半ばごろからは「人手不足」が加速し、2023年の現在では売り手市場が続いている。この状況は、ある意味においては、すべての労働世代にとって追い風であり、中年期を迎えた氷河期世代も例外ではない。不安定な低賃金労働を続けてきた人たちにとっても、より条件の良い仕事を選り好みしたり、掛け持ちしたりできるようになってきており、人手が余っていた頃よりも人手が足りない今の方が良いという人は少なくないはずである。

では、氷河期世代の運命はこれから好転していくのだろうか?人材として使い捨てられてきたこれまでの不運から、ついに脱却できたと言えるのだろうか?

残念ながら、氷河期世代の置かれた状況は依然として厳しく、また今後も厳しいままと予測している。もちろん、未来に何が起きるかは誰にも分からないが、現在の社会構造や政治システムをある程度そのまま維持する限り、氷河期世代は、どこまでいっても「不運を背負って生まれた世代」のまま変わることはないだろう。せっかく「売り手市場(人手不足)」の時代が来たというのに、なぜそんなことになるのか・・・。私自身がそう考えるようになったきっかけは、この数年間に「高齢者と一緒に働く」という経験をしたことにある。

急速に進行している高齢化社会は、全世代にあらゆる負荷をかけている。2023年時点においても、高齢者は高齢者で、年金受給額の少なさを嘆いているし、若年層はそれを支える社会保障費の高騰に苦しめられている。そして、年金受給額の減少と社会保障費の増大は、当然ながら中年期を迎えた氷河期世代も直面しており、また将来直面する問題でもある。しかし、それらに加え、氷河期世代は別の角度からも痛手を追うことになるのではないか、と私は個人的な体験を通じて痛感することとなった。

*年金受給額の減少は、受給開始年齢の繰上げ、人口構成比の変化や日本経済の縮小に伴う減額、またインフレを背景とした実質的な価値の低下などを含む、全体的な受領額(価値)の押し下げを意味しています。



競合するのは年金受給世代

少子高齢化がもたらす問題は、生産年齢人口の減少である。それによって人手不足と年金の支え手の減少が起き、年金受給額が減るというサイクルが起きる。それだけでも十分問題だが、その先にも別の問題が続く。人手不足と年金受給額の減少が相まると何が起きるか。高齢者が働き続けるようになる。そして氷河期世代を含む現役世代は、年金を受給しながら働く高齢者たちと、労働市場において競い合っていかなくてはならなくなるのだ。


増え続ける高齢(65歳以上)の就業者たち

私たちは日常的により多くの高齢労働者の姿を目にするようになった。一昔前には見られなかった光景である。高齢就業者が増えていることは、いちいちデータを持ち出すまでもないことだが、その現実と背景をここで整理しておきたい。

高齢就業者数は、18年連続で増加し、909万人と過去最多

 2021年の高齢就業者数は、2004年以降、18年連続で前年に比べ増加し、909万人と過去最多となっています。
 
 高齢就業者数の対前年増減をみると、2012年に「団塊の世代」が65歳となり始めたことなどにより、2013年から2016年を中心に、65~69歳で増加しました。また、2017年以降は「団塊の世代」が70歳となり始めたことなどにより、主に70歳以上で増加しています。

総務省統計局

高齢者の就業率は25.1%で前年と同率、65~69歳は初めて50%超え

 2021年の高齢者(65歳以上)の就業率は25.1%となり、前年と同率になっています。

 年齢階級別にみると、65~69歳は10年連続で上昇し2021年に初めて50%を超えて50.3%となり、70歳以上は5年連続で上昇し2021年に18.1%となっています。

 また、男女別にみると、男性が34.1%と前年に比べ低下、女性が18.2%と10年連続で前年に比べ上昇しています。このうち65~69歳の就業率をみると、男性は2014年に50%を超え、2021年は60.4%となっています。一方、女性は2014年に30%を超え、2021年は40.9%となっています。 
   

総務省統計局

高齢者の雇用は2010年代に入って急速に進んできたが、それを後押しする法改正があり、2006〜2013年と2021年にそれぞれ段階的に施行されてきた。

2006年〜2013年施行の改正は、それまで60歳だった定年を65歳に引き上げるよう事業者に求めるものだが、これは年金の受給開始年齢の引き上げに伴う措置として行われたものである。

少子高齢化の急速な進展に伴い、今後労働力人口の減少が見込まれる中で、高い就労意欲を有する高齢者がその知識・経験を活かして社会で活躍することが重要です。

高齢者が少なくとも年金支給開始年齢までは、意欲と能力のある限り働き続けることができる環境の整備が必要であるため、平成16年6月に高年齢者雇用安定法が改正されました。

改正法では、高年齢者の安定的な雇用確保のため、65歳までの定年の引上げ、継続雇用制度等の高年齢者確保措置を講ずることが事業主に義務付けられたほか、高年齢者の再就職促進を図る措置が定められています。

高年齢者雇用安定法の改正について(平成16年6月内容)


2021年の改正は、65歳以上の年金受給者を70歳まで労働市場に引き止めようとする措置であり、年金受給額の先細り問題に加え、人手不足の緩和(労働者の確保)という意味合いが強まってきているように読める。

少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され、令和3年4月1日から施行されています。

高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~

主な改正の内容として、事業主は、
 (1)70 歳までの 定年の引上げ
 (2)定年制 の廃止
 (3)70 歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
    (特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
 (4)70 歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
 (5)70 歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
    b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

のいずれかの措置を講ずるよう努めることとされています。

高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~



高齢労働者が賃金および労働条件を押し下げる現象

では、より多くの高齢労働者が継続雇用や再雇用によって労働市場に留まると何が起きるのか。特に2021年施行開始の法改正にあるように、年金受給者の労働市場への参入が社会にもたらしている現象について、関連があると思われる分析を見つけたので引用しておく。

我が国において賃金が伸び悩んだ理由

ここ25年で就業者に占める女性や高年齢層の男女の割合が上昇している。 女性や高年齢層では、希望賃金が低い傾向があり、また、相対的に求人賃金の低い事務的職業や運 搬・清掃等の職業を希望する割合が高い。

令和5年版 労働経済の分析


安く買い叩かれる現役世代

景気が良かった時代に正社員として雇用され定年退職した世代が、そのまま継続的に雇用されたり再雇用されていく状況は、若年層から就労機会(とくに良い働き口)を奪うのではないか・・・という問題は、ずいぶん以前から指摘されてきた。ただ、私個人の体験から言えば、雇用を奪われること以上に(人手不足なので、全体としての働き口は増えている)、高齢者、すなわち年金受給者と一緒に働くことの方に、現役世代にとってのリスクが潜んでいるのではないかと感じた。

私が体験したことは、あくまでも考えるきっかけとなった出来事にすぎず、それだけで何かを結論づけることはできないが、小さな実例の一つとして参考にしていただけたらと思う。

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