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らくがき帳(定期購読マガジン)

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記事一覧

『資本主義の次に来る世界』(読書メモ)

中学生の頃だっただろうか、古代ローマ貴族の食事について学んだとき、なんてもったいない話だろうと思った。豪華な食事を味わい続けるために、貴族たちは食べたものを無理やり吐き出していたという話だった。それならば、お腹を空かせた庶民や奴隷に分けてあげればいいのにと当時は思ったものだった。 王侯貴族が民を支配し富を独占した封建社会のあと、農奴制が解かれ、世界は資本主義へと移行した。これにより、領主や貴族による強制的な取り立てではない新しい政治経済のあり方、つまりは市場を信じるという、

【森の家⑨】〜さよならスマホ。の夢〜

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大学院のこと(10) (進学・留学体験談)

香港の大学院でジャーナリズムを専攻した一個人として、4つの簡単な問いに答えを出してみた。 Q、大学院は必要か不要か?(存在意義) A、私は今でも、大学・大学院は、当たり前だが必要だと思っている。学術研究機関としての大学・大学院は、多くの調査や基礎研究を担っている。データ分析、思想の構築、新しいテクノロジーへの貢献など、私たちの生活のベースとなる多くのものを生み出しているからだ。学者が書く論文は、人類の進歩をいろいろな面から支えているし、研究成果に触れることは、刺激的で面白

【森の家⑧】〜「遅々として進まず」の必然と必要〜

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大学院のこと(9) (進学・留学体験談)

香港大学で大学院生として過ごした日々を振り返るシリーズ『大学院のこと』第9話。今回は大学院生の幼稚化という現象について書いてみたい。 香港大学では大学院生という立場で「一部のクラスメイトの幼稚化」に違和感を覚えたわけだが、加えて、教える側の立場から見た時にも「学生・生徒」の幼稚化という現象が近年では目立ち始めているようである。というのも、仕事(講演など)で学校に行くと、先生たちは次のように口を揃えるからだ。 「今の子は昔に比べると、だいぶ幼い」と。 昔の子に比べると、従

【森の家⑦】〜キャベツは通貨崩壊に効く〜

このところ物価上昇が続いている。食料品も、ガソリン代も、光熱費も、これからもっと上がるらしい。鮮魚売り場に行くと「高くなったなぁ」とため息が出る。マヨネーズも、カップ麺も、バターも牛乳も油類も、じわじわと値上げが止まらない。 私たちは今、30年ぶりのインフレを経験している。物価が上がる原因はいろいろあるが、急激な円安もその一つ。10年前、1ドル=101円だったドル円相場は今、1ドル=160円近くまで(5/1現在157.68円)円安ドル高が進み、まだまだ止まる気配もない。要す

大学院のこと(8) (進学・留学体験談)

大学院でジャーナリズムを専攻したら、どんな日々が待っていたか?その実体験を書き進めていく本シリーズも今回で8回目を迎えた。 2017年に修士課程を修了して以来、できれば忘れてしまいたいと考え、実際にしばらく忘れていた大学院への留学体験。今改めて「何が起きていたのか」を思い出しつつ書いていると、在学中に抱いた違和感やネガティブな感情がよみがえってきて、自分の愚かな判断(安易に進学してしまったこと)への反省と共に軽い自己嫌悪に陥っている。しかし同時に、「書くことで整理し、きちん

『リバタリアンが社会実験してみた町の話』(読書メモ)

ある心理的研究によれば、 と推測されているそうだ。なるほど、そのせいかもしれない。私がリバタリアニズムに興味を持ったのは…。 リバタリアニズムとは、自由至上主義のことである。この数年、「国家権力や既存の社会システムからの離脱」について考える機会が増えたことで、アナーキズム(無政府主義)やリバタリアニズムといった思想にも少しばかり関心を持つようになった。 関連本として目を通した『リバタリアニズム~アメリカを揺るがす自由至上主義~』(渡辺靖著)によると、リバタリアンとは、自

【森の家⑥】〜森の脅威とトイレの神様〜

長い助走期間を経て、いよいよ【森の家】が始まった。助走していた間にも地域の人から話を聞いたり、元の持ち主さん(売主)と話し合いを重ねたことで、購入と同時に突然始まったという感じはなく、出入りを繰り返すうちに気づいたら始まっていた、というのが実感だった。 売買契約書を作成する上で、私が唯一こだわった点が「売り主さんの責任で残置物を処理してもらうこと」だった。古家の中に詰まった所持品やゴミなどを撤去した上で物件を明け渡してもらうという意味だ。古い空き家の売買では、「残置物」がよ

【森の家⑤】〜AI時代の不動産売買〜

家にせよ、土地にせよ、不動産を所有することは生涯ないだろう、というのが30代までに考えていたことだった。私は小さなアパートでの賃貸暮らしを気に入っていたし、引越しをするのも好きだった。高校卒業と同時に実家を離れてからの20年間は、海外で暮らした時間も長く、賃貸アパートに加え、間借り(ホームステイ)やシェアハウス、学生寮などを転々として、随分といろんな環境で生活してきた。一年の半分くらいは旅に出て家を空けていたのもあって、「マイホーム」が象徴する定住型の暮らしに自分を重ね合わせ

大学院のこと(7) (進学・留学体験談)

大学院での実体験を紹介するシリーズ「大学院のこと(1)(2)(3)(4)(5)(6)」の続き。 大学院の先生たちは、ある意味で「タイパ教」または「コスパ教」の信者のような人々であり、極力自分の時間や労力を使わずに「授業をやった」ことにしてサラリーを得ることに長けていた。掛け持ちしている仕事先からテレワークでちょろっと教えてみたり、同じ教材を繰り返し使って時間稼ぎをしてみたり。なんやかやと言い訳をして(嘘までついて)授業にさっぱり来ないくらいならカワイイもので、学期早々に国外

【森の家④】〜古家をひとつ買いました〜

3年半続いた物件探しは、気がつくと限界集落を中心に最終段階へと向かっていた。別荘地ではなく、置き去りになったニュータウンでもなく、ゆっくりと衰退に向かう昔ながらの里山の集落。まだ重機も何もなかった時代に、手作業で切り拓かれた段々畑があり、自然本来の地形に抗わない謙虚な佇まいが心地よかった。 過疎地の集落を見ていくと、集落(区)にもそれぞれに色があり、どんな集落のどこに住むかで、その後の暮らしのあり方は随分と違うものになりそうだった。たとえば集落内の民家10軒のうち、人が住ん

【森の家③】〜物件探しの長い道のり〜

和歌山の友人宅で目にした「あの日の風景」を追いかけて、私はこの3年半、物件探しを続けてきた。とは言え、初めから「何をどう探せばいいか」が分かっていたわけでは全然なく、遠回りもたくさんしたし、行き詰まったことも何度かあった。 またそれ以前のこととして、私は自分自身が「何を求めているのか」を実は分かっていなかった。当たり前のことではあるが、どんな選択肢があるのかも分からないうちに何かを正しく選び取ることはできないからだ。 過疎地、空き家、地方、田舎、自然豊か、森の暮らし、中山

大学院のこと(6) (留学・進学体験談)

大学院での実体験を紹介するシリーズ「大学院のこと(1)(2)(3)(4)(5)」の続き。 不正入学したものの、大学院の授業についていけず悩む学生。自分が学部生なのか院生なのかも答えられず、講堂から追い出されてしまったクラスメイト。学位取得を秘書に堂々と代行させている企業経営者。そうした数々の歪みを「金さえ積めばなんでもOK!」というアカデミックな解釈で黙認し続ける先生たち。大学院とは何か、学位とは何かについて考えざるを得なくなる現実を書き記したのが前編(5)である。 本編