見出し画像

Ice Age Generation(2)〜人余り時代の後遺症〜

「もう、外国の人を入れてくるしかないんかな」

作業の合間に、親方(雇い主の農家さん)はそう呟いた。
不定期の農業バイトを始めて5年目になるが、今年もまた「人手が足りない」との連絡を受けて私は何度か畑に行った。繁忙期の畑には常時4人くらいの、体力のある若い男と、粘り強く黙々と働く若い女が必要だったが、その日は60代半ばの親方と疲れ果てた氷河期おばさん(私)の二人しか、畑には出ていなかった。

求人を出しても、時給を上げても、応募してくる人が全くおらず、この数年の傾向として、バイトが他業種や他県の仕事に流れてしまっていると、親方はため息まじりに言った。

「昔はいっぱいおったんやけどな。何もしとらんような、ぶらぶらしとるのが。その辺にゴロゴロおったんやけど……」

そして冒頭の言葉に繋がる。外国人労働者に頼らなければ、もう畑を回していけない、と。私は、まだ全然作業が終わっていない、終わるはずもない畑を前に、適当に相槌を打った。そして3つのことを思った。

一つ目はバイトたちの行き先について。親方が言うように、他県や他業種の仕事にただ流れていっているだけなのかと。他県も他業種もどこもかしこも、低賃金労働の現場は総じて人手が足りていない。それにバイトの流れ先は、他県に限らず、他国へも拡大しつつある。同じ農作業をして、日本の2倍、3倍も稼げるとなれば、労働者たちは国内に留まる理由がなくなる。

日本の低い賃金は、そのまま2つ目の問題と重なる。外国の労働者にとって、日本の低賃金労働の現場は、経営者が思っているほど魅力的ではなくなりつつある。海外のよく働く人材を、欲しい時に欲しいだけとってきて安く使える時代は終わった。選ぶのは日本ではなく、海外の労働者たちだ。

そしてもう一つ考えたことは、親方が「何もしとらんような、ぶらぶらしとるの」と表現した人材と、そうした人材が「その辺にゴロゴロおった」時代のことである。要するに氷河期世代という「使い捨て可能な人材」を大量に抱えていた一つの時代と、それが社会に何をもたらしたかについて。

日本では、過去20~30年間、「使い捨て可能な人材がゴロゴロいる」とう時代が続いた。その状況は、長い不景気を経験した日本の経営者たちを大いに助けたことだろう。しかし他方でそれは、国内産業の発展を妨げもした。

ここから先は

4,067字

身の回りの出来事や思いついたこと、読み終えた本の感想などを書いていきます。毎月最低1回、できれば数回更新します。購読期間中はマガジン内のす…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?