よろしくね、相棒
きっと、長い付き合いになるだろうから。
入学祝いに万年筆をもらった。
といっても結構前だ。春のことなので、たぶん4月か3月のこと。
お洒落な深い青の箱を渡されて、ワクワクしながら開けて、中身にとても喜んだ。高価なことも薄々わかったから、何度もお礼を言った。
メタリックな赤の軸。デザインが好みで、大人っぽくて、ああ、大学生なんだなぁと思った。そこでやっと大学入学を実感した節もある。
すぐにでも使いたくて、迷った末にインクを買って、けれど、使う決心がつかなくて箱にしまっていた。
子供の頃から文房具が好きだった。
いつから好きだったのかはちょっとわからないけど、小学生のときにはもうすでに好きだったように思う。鉛筆はたくさんもっていたし、消しゴムも集めた。
中学生になって、鉛筆に代わるようにしてシャーペンが増えた。指定がなくなったから、筆箱もたくさん。ノートはやたらもっているし、今もそう。メモは自分ではあまり買わないけどもらった可愛いものがたくさんある。好きな作品のファイルもたまっていく。
なんでこんなに好きなのかな、と考えたこともある。
そのときにでた答えは「可愛いから」と「使えるから」だった。たしかにね。デザインはさまざまで、可愛い。置物みたいにインテリアってわけじゃなくて実用品だから、たくさん集めてもある程度無駄にならず使える。
まあ、残念ながら私は気に入ったものほどもったいなくてなかなか使えない人なので「実用」という意味では少し疑問ではあるが。
そんな中で、万年筆が欲しくなったのも自然の流れだったのかもしれない。
たしか、小学校高学年だったか。クリスマスにサンタクロースに「万年筆をください」と手紙を書いた。
どこで知ったのかは例によって覚えていないが、その頃ずっと万年筆に憧れていた。本が好きな子供だったから、本に出てきたのかもしれない。小説家が使っているイメージで、カッコよくて、黒の万年筆が欲しかった。ノートにかけることのできるキャップのフックの金具は金。
今思えば、なぜそんな渋いところにいったのか。その時の私にとって、正統な万年筆とは黒のボディだったのだ。
けれど、クリスマスプレゼントの万年筆は白のボディに蓋は空色。パイロットのカクノだった。ご存じの方もいるとは思うが、カクノのキャップにはひっかける金具はついていない。
このような万年筆があることを当時の私は知らなかった。
たしかに、水色は好きだ。けど、それとこれとは違うだろう。思っていたのと違う、と少し残念に思いながら、でも嬉しかったからすぐに使ってみたのを覚えている。
万年筆について初心者の中の初心者だった小学生にカクノをくれたのは正解だったと思うし、今ではお気に入りの文具になった。
当然、お手入れの仕方も知らなかったので、インクが乾いて出なくなったこともあったし、(洗うことを知らなかった)薄い紙に書いて裏写りしまくったこともあった。
大雑把な私には少し難しくて、面倒で、でも憧れの大好きな文房具だった。
初代の相棒である。
さて、入学祝いにもらった万年筆に話を戻そう。
嬉しくて嬉しくて、箱ごと側に置いていた。眺めていた。
でも使う勇気は出なかった。
前みたいに詰まらせてしまうんじゃないかな、書いても裏写りしたら嫌だな、お手入れに失敗したらどうしよう。
ぐるぐるぐるぐる考えて、結局箱に戻してを繰り返してあっという間に半年が過ぎた。万年筆本体も、あげた方もびっくりの放置具合である。いや別に、放置していたわけではないんだけど。
それを、ついこの間からやっと使い始めることにした。えいやっとインクを入れた。「思いきりは大事」ってどこかで読んだな、とおかしくなった。
くるくるとノートに試し書きをする。深い青のインクに、こんな色だったんだ、と思う。一本つけてくれていたカートリッジの色はいとこが選んでくれたのだと聞いていた。なんとかブルー。色の名前は覚えられなかったけど綺麗な色だと思う。すぅっと滑るペン先に、万年筆ってこうだったなぁと思う。
その日、何をしたか。次の日、何をしたいか。
奮発して買ってきたすずめやのノートに万年筆でそんなことを記した。日記みたいだけど、普通の日記ではなくて、「書くこと」に関係することの覚え書きのようなものだ。投げ出しやすい私の、これから日々を積み重ねていけたらいいな、という気持ちだ。
1ページ目には目標を書いた。「会いたい人がいる」と。ずっと好きな作家さんにいつか会いたいのだ。あわよくばサインも欲しい。
そして烏滸がましいけれど、作家として私も同じ場所にいられたらどんなに素敵だろう。
子供の頃、隣の隣の県はもはや遠い遠い場所だったけど、お金と時間さえあれば割と簡単に行けることをもう知っている。
さすがに東京や埼玉は少し厳しいけれど。
その作家さんは来月にサイン会とトークショーをするのだそうだ。行きたい、と思って場所と日付を見て泣く泣く諦めたのだが。
今回は無理だったけれど、いつか会いたいと思う。未来で小説家になるという夢を叶えて、憧れの作家さんと会うことも叶ったらこんなに嬉しいことはないだろう。
書いたら叶う、という。書いていっぱい見るから、無意識のうちに目標に向かって行動しているのだそう。ほんとかな、と思うけれど、決意表明にはちょうどいい。
機会が訪れる日を、ものを書きながら待っていよう。いっぱいいっぱい、お話を書こう。続ける練習をしよう。
ずっしりとしたこの万年筆とともに、歩んでいこう。待たせてしまったけれど、これからたぶんいっぱい使うから。頑張っていくから。
よろしくね、相棒。
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