探偵七音 ショートストーリー1 七音と響
※以下のショートストーリーは、秋木真が個人で書いた非公式になります。
静乃の家の和室には、あたしと響しかいなかった。
咲希と色葉は用事があるらしく、静乃はスーパーに買い物に出かけて行った。
お客さんがきているのに、静乃も出かけるんだから不用心というか。
……まあ、信用してくれているんだろうけど。
そういえば、響と2人っきりになるのは、最近だとあまりなかった。
咲希が響の助手になったのもあるし、あたしが色葉をパートナーにしたのもある。
でも、いまさら響相手に、気をつかうわけもないんだけどね。
「ねえ、響。ちょっときいていい?」
「なんだ?」
響は、あたし相手だと、丁寧な口調が消えてぶっきらぼうになる。
「あ……あのさ」
「なんだよ。言いにくいことなのか?」
「そういうわけでじゃないんだけど……」
いざ口にしようとして、言葉がすんなりと出てこない。
あたしは、一度大きく息をすって、はく。
「え~と……お父さんから連絡きた?」
あたしは、思い切ってたずねる。
「源馬さんから? いや、きていない」
響が首を横にふった。
あたしのお父さんは、日本で有名な名探偵の小笠原源馬。
響の探偵の師匠でもある。
「よかったぁ……」
響の答えに、あたしはほっと息をつく。
テーブルに、ぐったりと体をあずけた。
「なんで、連絡がきてなくて、ほっとするんだ。逆じゃないか、ふつう」
響があきれた顔をしている。
「だって、あたしのところにはきてないんだもん。響の所にだけきてたら、ショックでしょ。あたしのお父さんなんだから」
「……それもそうか」
響はなんとも言えない顔をしている。
こう見えて、響はあたしからお父さんをとったみたいな形になったことに、引け目を感じている。
ほとんどそういうそぶりは見せないけど、たま~にこんなふうに表情に現れる時がある。
「ほんと、お父さんなにしてるんだか」
「海外で重要な事件を追っているはずだ」
「でしょうね。お父さん、いつも頭の中は事件のことでいっぱいだもの。響みたいに」
探偵になるために生まれたきたって、お父さんとか響のことを言うんだと思う。
なによりも1番目に事件のことを考えられるって、それはもう才能だよね。
そんなことを考えていると、玄関のドアが開く音がする。
「ただいま~」
少しして、和室に静乃が姿を見せた。
「じゃーん。源馬さんからエアメールが届いていたわよ」
そう言って、静乃が封筒を見せる。
あたしと響は同時に立ち上がる。
「さっそく開けましょう」
「ほら早く! みんなで見るよ!」
手紙のあて先があたしでも響でもないのが、お父さんに心を読まれているようでくやしいけど、それもお父さんらしい。
お父さんはなんて書いてきたのかな?
そんなことを考えながら、あたしは手紙を読み始めた。
END
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