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「リジェネラティブ農業」を知る

「環境再生型農業」と訳されることの多いリジェネラティブ農業。「再生型」というワードが示すように、単に農作物を生産・消費するのみならず、土壌の健康を保ち、改善することが目的とされている。

このリジェネラティブ農業は近年、環境保護や食糧安全保障の文脈で世界的に注目を集めているが、その普及はまだごく一部にとどまっている。

地球の総人口が80億人を超え増加を続ける昨今、短期的には、従来の大量生産型の農法による供給が必要とされることは自明である。

一方で、近年、一部地域での砂漠化や集中豪雨などの自然災害の増加からも感じられるように、これまでの産業のあり方が自然環境に及ぼしてきた負荷は無視できない。

では、長期的に、リジェネラティブ農業にはどのようなことが求められ、その移行には何が必要だろうか。

本稿では、リジェネラティブ農業が始まった経緯や、どのような事業者が成長しているのか、市場拡大にはどのような課題があるのか、また国際的枠組みや政府による支援の状況について俯瞰した上で、リジェネラティブ農業の今後の展望を考察する。


本稿はあくまで個人的な業界理解を目的としたレポートです。デスクトップリサーチで収集した情報の裏どりや理解、考察が十分でない点について、ご了承ください。


リジェネラティブ農業とは

リジェネラティブ農業は、日本語では「環境再生型農業」と訳されている。「再生型」の言葉が示すように、単に農作物を生産・消費するのみならず、土壌の健康を保ち、改善することを目的としている。

近年、世界的に注目を集めているこの農法は、どのような経緯で広まっていったのだろうか。

リジェネラティブ農業の始まり

「リジェネラティブ農業」という言葉が広まったのは、1970年代から1980年代にかけてである。この時期に環境破壊や気候変動の問題が深刻化し、持続可能な農業手法として注目されるようになった。

特に、アメリカの農家であるゲイブ・ブラウン(Gabe Brown)や生態学者のアラン・サヴォリー(Allan Savory)などが、この分野の先駆者として知られており、彼らの実践と理論が、リジェネラティブ農業の普及に大きく貢献した。

リジェネラティブ農業に注目が集まった理由として、下記の点が挙げられる。

環境問題への対応
伝統的な農業手法は、土壌の劣化や生物多様性の喪失、水質汚染などの環境問題を引き起こすことが多かったことから、これに対する解決策としてリジェネラティブ農業が注目された。土壌の健康の回復と、生態系の再生を目指していることが評価されたポイントである。

気候変動の緩和効果
リジェネラティブ農業は、土壌に炭素を固定する能力があり、これにより大気中の二酸化炭素を減少させることができる。これが気候変動の緩和に寄与するため、持続可能な農業手法として支持されるようになった。

食糧安全保障の向上
健康な土壌は、より栄養価の高い作物を育てることができ、長期的な食糧安全保障に貢献することから、リジェネラティブ農業は、持続可能な食糧生産を実現するための手法として重要視されるようになった。

経済的持続可能性
リジェネラティブ農業は、化学肥料や農薬の使用を減らすことで、農業経営のコストを削減し、経済的にも持続可能な農業を目指している点で注目されている。

手法の特徴

では、リジェネラティブ農業は、一般的な農業手法と何が異なるのだろうか。その手法には下記のような特徴がある。

不耕起栽培
土を耕さずに作物を栽培することで、土壌の炭素を保持し、土壌侵食を防ぐ。

被覆作物の栽培
作物を育てていない期間に土壌を覆う植物を植えることで、土壌の健康を保ち、雑草の抑制や土壌の栄養補給を行う。

輪作
単一作物に特化せず、異なる作物を順番に栽培することで、土壌の栄養バランスを保ち、病害虫の発生を抑える。

有機肥料の使用
化学肥料の使用を最小限に抑え、家畜の排せつ物や堆肥などの有機物を利用して、土壌を肥沃にする。

バイオ炭の利用
バイオ炭を土壌に混ぜることで、土壌の保水力を高め、炭素の固定を促進する。

栽培される作物

リジェネラティブ農業でよく栽培される作物として、以下のものが挙げられる。

カバークロップ(被覆作物)
クローバーやライグラスなど、土壌の健康を保ち、侵食を防ぐために栽培される。

マメ科作物  
大豆やエンドウ豆などのマメ科作物は、土壌に窒素を固定する能力があり、土壌の肥沃度を高める。

多品種作物
トウモロコシ、カボチャ、豆類などを組み合わせて栽培することで、土壌の多様性を保ち、病害虫の発生を抑える効果がある。

果樹やナッツ類
アグロフォレストリーの一環として、果樹やナッツ類(例えば、リンゴやアーモンド)が栽培されることもある。これにより、土壌の健康が維持され、長期的な収益が期待できる。


リジェネラティブ農業の普及状況

リジェネラティブ農業は、どのような地域で普及が進んでいるのだろうか。

先進国

アメリカ
アメリカでは、カリフォルニア州やアイオワ州などの中西部の農家を中心に、リジェネラティブ農業が広まりつつある。これらの地域では、土壌の健康を重視した農法が広まりつつある。全農地の約5-10%がリジェネラティブ農業に転換されているとされている。

ヨーロッパ
ヨーロッパでは、特にフランスやドイツがリジェネラティブ農業の推進に力を入れている。フランスでは、農地の約7%がリジェネラティブ農業に活用されており、政府の支援も積極的である。

オーストラリア
オーストラリアでは、乾燥した気候に適したリジェネラティブ農業が注目されている。特に牧草地での実践が進んでおり、全農地の約3-5%がリジェネラティブ農業に転換されている。特に、牧畜業におけるホリスティック・マネジメントが注目されている。

日本
日本では、リジェネラティブ農業の普及はまだ初期段階であるが、環境保全型農業としての取り組みが増えている。農林水産省のデータによると、全農地の約1-2%がリジェネラティブ農業に従事しているとされている。愛媛県や北海道などでリジェネラティブ農業の取り組みが見られ、特に、土壌の健康を保つための不耕起栽培や被覆作物の活用が進められている。

近年、持続可能な農業手法を取り入れる農家の数は増加傾向にあり、特に、若い世代の農業従事者が新しい農業手法に関心を持ち、導入を進めているケースが見られる。

途上国

途上国においてもリジェネラティブ農業は、環境保全と経済的な利益を両立させる有望な手法として、注目されている。

ケニア
ケニアでは、リジェネラティブ農業が土壌の健康改善と食料安全保障の向上に役立っている。特に、アグロフォレストリー(農業と林業の組み合わせ)やカバークロップの利用が進んでいる。

エチオピア
エチオピアでは、土壌侵食の防止と水資源の管理を目的としたリジェネラティブ農業プロジェクトが実施されている。

ブラジル
ブラジルでは、リジェネラティブ農業がアマゾンの森林保全と結びついている。持続可能な農業手法を取り入れることで、森林伐採を減らし、土壌の健康を保つ取り組みが行われている。

ペルー
ペルーでは、リジェネラティブ農業が小規模農家の収入向上と環境保全に寄与している。特に、コーヒーやカカオの栽培において、土壌の健康を重視した手法が採用されている。

インド
インドでは、リジェネラティブ農業が農村地域の貧困削減と食料安全保障の向上に役立っている。特に、土壌の健康を改善するための技術や知識の普及が進んでいる。

フィリピン
フィリピンでは、リジェネラティブ農業が台風や洪水などの自然災害に対するレジリエンスを高める手段として注目されている。


途上国においては、国際機関やNGOによる普及支援も見られる。例えば、世界銀行や国際農業開発基金(IFAD)などが資金援助や技術支援を行うことで、持続可能な農業手法の導入が進み、地域の環境保全と経済発展に寄与するといった例が見られる。


リジェネラティブ農業の従事者

リジェネラティブ農業には、どのような人々が従事しているのだろうか。

その多くは、持続可能な農業を実践し、土壌の健康を改善し、環境への負荷を減らすことを目指している。以下に、リジェネラティブ農業に取り組む具体的な例とその特徴を述べる。

海外の事例

リジェネラティブ農業で成功している事業者の例として、以下の企業が挙げられる。

Indigo Ag(アメリカ、マサチューセッツ州ボストン)
Indigo Agは、微生物を活用して農業の効率を高める技術を開発している。微生物でコーティングした種子を提供し、これにより作物の成長を促進し、化学肥料や農薬の使用を減らすことを可能にする。また、衛星技術を用いて土壌の炭素吸収量をモニタリングし、そのデータを基にカーボンクレジットを発行して取引することで、農家に追加の収益をもたらしている。

Joyn Bio(アメリカ、マサチューセッツ州ボストン)
Joyn Bioは、バイエルとGinkgo Bioworksの共同出資によるスタートアップで、遺伝子改変によって空気中の窒素を植物に供給できる微生物を開発している。これにより、化学肥料の使用を大幅に削減し、持続可能な農業の実現をサポートしている。

Pivot Bio
Pivot Bioは、微生物を利用した窒素供給技術を提供している。これにより、作物の根に直接窒素を供給し、従来の化学肥料に依存せずに作物の成長を促進することが可能となる。この技術は、環境への負荷を軽減し、農家の収益性と持続可能性を向上させることを目指すものである。

ラ・フンケラ(スペイン)
ラ・フンケラは、有機農業からリジェネラティブ農業への転換を図り、穀物やアーモンド、多種多様な果物や野菜を栽培している。土壌の修復や水循環の改善、生物多様性の回復に成功し、持続可能な農業を実現している。

ネスレ
コーヒー生産者と協力して、再生農法を導入する支援を行っており、二酸化炭素排出量の削減や生産者の収益向上を目指している。

海外事業者の成功の秘訣

上記で上げた事業者の成功の秘訣として、下記の点が挙げられる。

技術革新
微生物や遺伝子改変技術、衛星モニタリングなどの先進技術の活用により、農業の効率を高め、環境負荷を減らすことに貢献している。

収益モデルの多様化
カーボンクレジットの取引や高付加価値作物の栽培など、収益源を多様化することで、経済的な安定を図っている。

持続可能な農業実践
化学肥料や農薬の使用を減らし、土壌の健康を保つことで、長期的な農業の持続可能性を確保している。

市場との連携
消費者や企業との連携を強化し、リジェネラティブ農業の価値を広めることで、需要を喚起している。

このように、従来型の農業への従事のみならず、技術革新や市場との連携により、リジェネラティブ農業で成功を収める例が見られる。

日本における事例

では、日本でのリジェネラティブ農業の取り組み事例として、どのようなものが挙げられるだろうか。

住友化学
天然物由来の低環境負荷の農薬や植物成長調整剤を開発し、リジェネラティブ農業の実践を目指している。

キリンホールディングス 
農家が再生型農業を進められるツール「リジェネラティブ・ティー・スコアカード」を開発していまる。

ユートピアアグリカルチャー
持続可能な農業とお菓子作りを目指し、放牧による乳製品や卵を使用して、環境に優しいお菓子を製造・販売している。北海道大学との共同研究を通じて、土壌のCO2吸収・隔離を促進し、持続可能な酪農モデルを構築している。また、山間地や平地での放牧を活用し、動物福祉にも配慮した経営を推進している。

福島県二本松市「あだたら食農School farm」
不耕起草生栽培を実践している。この農場では、草を刈る前にアブラナ科の野菜の種子をばらまき、その後に草を刈るだけで野菜が育つという手法を採用している。この方法により、土壌の健康を保ちながら収穫量を維持している。

北海道のトカプチ株式会社
ワイン用の有機ブドウを栽培している。この農場では、リジェネラティブ・オーガニックの手法を取り入れ、土壌の健康を保ちながら高品質なブドウを生産している。

自然農法の実践
日本各地で自然農法を取り入れたリジェネラティブ農業が広がっている。例えば、福島大学の金子信博教授が推進する不耕起・草生栽培は、土壌の生物多様性を保全し、土壌の機能を高めるための理想的な方法とされている。

他にも多くの農家が持続可能な農業手法を取り入れ、成功を収めている。

事業者の声

リジェネラティブ農業に従事する農家からは、下記のような、ポジティブな声が寄せられている。

「リジェネラティブ農業を始めてから、土壌の健康が目に見えて改善しました。収量も安定してきており、長期的な視点で見れば非常に有益です。」(日本の農家)

「この農法を取り入れることで、環境への負荷を減らしながら高品質な作物を生産できることに誇りを感じています。」(アメリカの農家)

「リジェネラティブ農業は、地域コミュニティ全体で取り組むことで、経済的にも環境的にも持続可能な未来を築く手助けとなります。」(スペインの農家)

これらの声からは、リジェネラティブ農業はその経済的・社会的便益の高さとともに、「個人の生きがい」といった面でも大きな満足度をもたらしていることが感じられる。これがリジェネラティブ農業の推進ドライバーになると考えられる。


市場の状況

リジェネラティブ農業は、どのように市場に受け入れられているのだろうか。

消費者の認知度

アメリカでは、消費者の約30%がリジェネラティブ農業に関する用語や概念を知っていると報告されている。また、持続可能な農業製品に対する消費者の関心が高まっており、リジェネラティブ農業製品の購入意欲も増加している。

日本では、リジェネラティブ農業の認知度はまだ低いものの、環境保護や持続可能な農業に対する関心が高まる中で、徐々に認知度が向上しているとされている。

作物の価格帯

リジェネラティブ農業で生産された作物は、一般的にそうでない作物よりも高額になる傾向がある。その理由として、以下の点が挙げられる。

生産コストの増加
リジェネラティブ農業は、土壌の健康を保つために化学肥料や農薬の使用を減らし、代わりに有機肥料やカバークロップ(被覆作物)を使用することから、手間やコストが増加することがある。

収量の変動
化学肥料や農薬を使用しないため、収量が安定しない場合があり、これが価格に反映されることがある。

品質の向上
リジェネラティブ農業で生産された作物は、栄養価が高く、味も良いとされることが多いため、プレミアム価格が設定されることがある。

市場の需要
環境に配慮した製品を求める消費者が増えており、リジェネラティブ農業で生産された作物に対する需要が高まりから、価格が押し上げられている。

このようにリジェネラティブ農業で生産され作物は、比較的高額になるケースが多いが、一部の、環境保護や持続可能な農業に関心の高い消費者に受け入れられつつある。


リジェネラティブ農業の課題

ここまで見てきたように、リジェネラティブ農業にはサステナビリティの面で多くのメリットがあるが、その普及にはいくつかの課題がある。

技術と知識の普及

リジェネラティブ農業の手法は従来の農業とは異なるため、農家が新しい技術や知識を習得する必要がある。これには時間とコストがかかる。

また、農家が長年続けてきた慣行農業から新しい手法に移行することには抵抗がある場合がある。

経済的な課題

不耕起栽培やカバークロップの導入には新しい機械や種子が必要となるなど、リジェネラティブ農業を始めるには初期投資が必要となる。

また、化学肥料や農薬の使用を減らすことで、短期的には収量が減少する可能性がある。これが農家の収益に影響を与えることがある。

環境と気候の影響

リジェネラティブ農業の手法は地域の気候や土壌条件に依存するため、すべての地域で同じように効果を発揮するわけではない。

また、気候変動による異常気象が、リジェネラティブ農業の実践を難しくすることがある。

このようにリジェネラティブ農業の普及には多くの課題が存在する。これらの課題を克服するためには、政府やNGO、企業などが協力して支援策を講じることが重要である。


国際機関・政府による支援動向

各国政府の支援状況

各地域で、政府の支援を受けながら、農家が持続可能な農業手法を学び、実践することが奨励されている。いくつかの政府の政府の支援例を紹介する。

アメリカ
農業省(USDA): リジェネラティブ農業を推進するための補助金や技術支援プログラムを提供している。特に、土壌の健康を改善するためのプロジェクトに対する資金援助が行われている。

ヨーロッパ
フランス政府は、リジェネラティブ農業を含む持続可能な農業手法を推進するための補助金プログラムを実施している。また、農家が新しい農法を学ぶためのトレーニングプログラムも提供している。

またドイツでは、リジェネラティブ農業を実践する農家に対する税制優遇措置や技術支援が行われている。

オーストラリア
オーストラリア政府は、 乾燥地帯での土壌保全を目的としたリジェネラティブ農業プロジェクトに対する資金援助や技術支援を提供している。また、地域コミュニティと連携して実証農場を運営し、農家が新しい技術を学ぶ場を提供している。

日本
農林水産省は、リジェネラティブ農業の普及を目指して、実証プロジェクトや技術支援プログラムを実施している。また、地域ごとに市民参加型の実証農場を設置し、専門家が農家をサポートする体制を整えている。令和6年度の農林水産予算概算要求には、持続的生産強化対策事業や環境負荷軽減に向けた支援対策などが含まれている。

国際的な枠組み

リジェネラティブ農業を促進するための国際的な枠組みとして、以下のものがある。

Regen10:
世界銀行や国際自然保護連合(IUCN)など13の国際機関が協力して、2030年までにリジェネラティブ農業を世界規模に拡大するためのイニシアチブを展開している。
その目標は、世界の農家5億人にリジェネラティブ農業を導入し、年間6.6兆円の資金を投入することである。

パタゴニアのリジェネラティブ・オーガニック認証制度:
アウトドアブランドのパタゴニアは、独自の認証制度を展開している。この認証制度では、有機認証、不耕起栽培、被覆作物の利用、輪作などを含む厳格な基準を満たすことが求められている。

国際的な議論の動向

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP):
また、気候変動対策を議論する国際会議で、リジェネラティブ農業も議題の一つとして取り上げられている。議論の焦点は、土壌の炭素隔離、気候変動への適応、持続可能な食料生産システムの構築などが主要な議論のテーマとなっている。

世界経済フォーラム(WEF):
世界のリーダーが集まり、経済、環境、社会問題について議論するWEFにおいて、リジェネラティブ農業の経済的な持続可能性、政策支援、技術革新の促進などが議論されている。

リジェネラティブ農業は、環境保全と持続可能な食料生産の両立を目指す重要な取り組みとして、国際的な関心を集めている。

教育プログラム 

リジェネラティブ農業の導入を促進する教育プログラムとして、下記の例が挙げられる。

リジェネラティブ・アカデミー(スペイン)
・提供者: ラ・フンケラ
・対象者: 農業従事者、農業に興味のある学生や専門家
・プログラムの特徴: 実地トレーニングを通じて、土壌管理、水管理、生物多様性管理などのリジェネラティブ農業の技術を学ぶことが出来る。1週間の集中プログラムで、理論と実践を組み合わせた教育が提供されている。

インディゴ・アグ(アメリカ)
・提供者: Indigo Ag
・対象者: 農業従事者、農業スタートアップ
・プログラムの特徴: 微生物とデジタル技術を活用して、農業の生産性と持続可能性を向上させるための教育プログラムを提供してい。農業従事者が新しい技術を導入しやすいようにサポートしている。

ネスレ・ファーマーズ・プログラム(グローバル)
・提供者: ネスレ
・対象者: コーヒー生産者、農業従事者
・プログラムの特徴: 持続可能な農業技術とリジェネラティブ農業の導入を支援。コーヒー生産者に対して、環境に優しい農業技術のトレーニングを提供し、収益向上と環境保護を両立させる。

リジェネラティブ・ティー・スコアカード(日本)
・提供者: キリンホールディングス
・対象者: 茶農家、農業従事者
・プログラムの特徴: 茶農家がリジェネラティブ農業を実践するためのツールを提供。環境負荷を減らしながら高品質な茶葉を生産するためのガイドラインとトレーニングを提供している。


リジェネラティブ農業のこれから

近年、働き方の多様化が進み、二拠点生活や家庭菜園に取り組む個人が増えつつある。また、都市部での農的なライフスタイルを追求する「アーバンファーミング」が注目されているほか、健康志向や環境保全への意識が高い人も増えている。

こうした市民の意識の変化は、リジェネラティブ農業へのシフトに向けた重要な後押しになるだろう。

一方、本稿で見てきたように、リジェネラティブ農業のスケール化にはさまざまな課題があり、全世界でこの手法を一般化していくには「時間がかかる」と言わざるを得ない。

そのため、正面から取り組むのみならず、他の手法も併用することで、持続可能性を追求していくことが望ましい。

例えば、精密農業(Precision Farming)のような最新テクノロジーの活用による効率化が一つの方向性である。精密農業とは、ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)を活用して、農作物の生産性を最大化し、環境への影響を最小限に抑える農業手法である。具体的には、土壌の状態や作物の成長状況をリアルタイムで把握し、必要な水や肥料の量を正確に管理することで、収穫量を増やしつつ、コストを削減するものである。

それと同時に、消費者や農家に対する教育と啓発も引き続き求められる。

それらを進めるための基盤として、国際機関や政府のリーダーシップによる新たな基準の制定により、サステナビリティや土壌改善へのコンセンサス形成を進めていくことが求められる。


参考図書

Regeneration リジェネレーション 再生 気候危機を今の世代で終わらせる
ポール・ホーケン著、江守正守監訳
気候危機を解決するための具体的な方法と、リジェネラティブ農業の役割について詳しく述べられている。

DRAWDOWN ドローダウン―地球温暖化を逆転させる100の方法
ポール・ホーケン著、江守正守監訳
地球温暖化を逆転させるための100の実践的な方法を紹介しており、その中にはリジェネラティブ農業も含まれている。

土を育てる 自然をよみがえらせる土壌革命』 - NHK出版
ゲイブ・ブラウン著
土壌の健康を回復させるための具体的な方法と、リジェネラティブ農業の実践例が紹介されている。

提唱者

リジェネラティブ農業の主な提唱者として、下記の人物が挙げられる。

ゲイブ・ブラウン(Gabe Brown)
アメリカの農家であり、リジェネラティブ農業の先駆者。彼の農場では、土壌の健康を重視した多様な農法を実践しており、世界中の農家に影響を与えている。


アラン・サヴォリー(Allan Savory)
ジンバブエ出身の生態学者で、ホリスティック・マネジメントの提唱者。彼の理論は、リジェネラティブ農業の基盤となっており、持続可能な牧畜業の実践に大きな影響を与えている。



デイビッド・モントゴメリー(David Montgomery)
ワシントン大学の地質学教授であり、リジェネラティブ農業に関する著書を多数執筆している。彼の研究は、土壌の健康と農業の持続可能性に焦点を当てている。

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