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事業側出身者が、どのようにして上場を目指す管理部門をつくってきたか

2020年3月に、東証マザーズ上場を経験したことは、我が社会人人生において大きな出来事だった。

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2014年10月にアディッシュを設立。2016年6月から上場準備プロジェクトを開始した。私は、営業として新規事業の立ち上げをしてきた事業側の人間であるので、コーポレート領域の経験も知識も一切なかった。

そんな人間が管理部門の先頭に立たせてもらい、IPO経験者がいないチームで、コンサルも入れず、なんとかスケジュールどおりに上場という節目を迎えられたのは、メンバーを含む関わる皆さまに支えてもらったからにほかならない。

私がIPOを語るには、その道のプロにはとても足元にも及ばないが、IPO経験はおろか管理部門経験もない人間が、どのような役割を担っていたのか。

チーム作りやマインドの観点で書き残してみようと思う。

・上場を目指す管理部門をつくる方
・上場準備の旗振りをする事業側出身の方

こういった方へ、何か参考になったら嬉しい。

上場準備関連領域だけが経験ゼロのチームで

直前期からIPO準備チームを任せた松田が、上場前の様子についてnoteを書いている。

松田のnoteには、直前期から申請期あたりの様子について、こんなまとめがある。

・連結従業員数約770名に対して管理本部約15名、内IPOチーム兼任5名
・上場準備経験者ゼロ
・IPO支援コンサル無し
・IPO関係者が途中で約半分入れ替わる
・有価証券報告書作成経験者ゼロ
・IPOチーム責任者が上場エントリーとほぼ同時に胃痛かつ鬱でダウン
・IPOチームの約半分が審査期間中にインフルエンザに罹患
・外出自粛と機関投資家向けロードショーがもろ被り
・上場日に東証の鐘を鳴らすイベントが3密回避で無くなる

はい。

だいたいこの状況の前線で旗を振り続け、かつ、審査期間中にインフルエンザに罹患したのが私でありました。

ここだけ切り出すといろいろアレなので、この一節も引用しておきたい。

上場準備関連領域の経験だけがゼロで、経理や労務といったコーポレート領域の各プロフェッショナルはちゃんと集まっていました。だからこそ上場の日を迎えられたのだと思います。

自分よりも圧倒的プロフェッショナルを採用し、ひとりひとりオンボーディングしていく

アディッシュは、当時親会社であった株式会社ガイアックスから子会社化する形で設立したため、管理部門業務をガイアックスに委託していた。

そのため、上場を目指そうと意思決定したとき、上場を目指す管理部門を自前で構築していく必要があり、その仲間集めはゼロから始まった。

管理部門兼IPO準備チームメンバーとして迎え入れたメンバーのほとんどはリファラル採用だった。採用にあたっては、代表の江戸と役割分担をしながら臨んだ。

・江戸が、会社のミッションと中期経営計画を語る
・杉之原が、つくりたい管理部門像とお任せしたいミッションをプレゼンする

上場準備フェーズだけではない、会社のミッションやカルチャーに魅力を持ってもらいたいという思いが強かった。そして、私自身は経験がなく、さらには採用候補者よりも常に年下であったこともあり、どういう管理部門をつくっていきたいのか、いまどのような状況なのかを直球で伝えるようにしていた。

幸いにも、人事総務、経理、財務においてその領域のプロフェッショナルに入社いただくことができた。それぞれのメンバーが入社するタイミングで、「ガイアックスから通常の業務を引き継ぐ」「それぞれの領域の部署メンバーと運用を軌道に乗せる」「上場に向かうために改善する」「さらに上場準備のためのタスクを進行する」を行った。

特に、人事総務部長の小澤(現管理本部長)とは、互いの記憶がすっぽりと抜けるほどの業務を同時進行し、この時期を乗り越えた。

メンバーにはフォロワーシップを

さて、プロフェッショナルなメンバーに対して、私がティーチングできることなど、はっきり言って何もない。

私は、求められている目の前のことを必死に推進しながら、常に自分の役割を模索していた。ひとつ心に決めていたのは、どのメンバーにとっても、右腕とまでは言わないが、いざとなったときに頼られるような存在であり続けたいということで、以下を意識していた。

1.  部門のありたい姿を表現すること

特に、管理部門を構築し始めた初期は、どのような管理部門をつくりたいのかを事あるごとに提示し、それを実現するための施策を積極的に打ち出していった。また、ミッションだけでなく、「IPOだから、という社内コミュニケーションはしない」といった、マインドとして譲りたくないことも表現した。

2. 全体で助け合える空気感を保つこと

管理部門は、人事総務、経理、財務、法務といった専門領域で構成されるため、縦割りになりやすい性質がある。限られたリソースで上場するに足る管理部門をつくる必要があるため、部の垣根を低くしておくことには敏感だった。それぞれの領域に集中しながらも、いざとなったときは全軍で進めるようにする空気感の醸成に注力した。

3. 見通しを話し続けること

管理部門の礎を築きながら同時並行で上場を目指す道のりは、それ自体が簡単なことではなく、加えて、人が事業を営む限り、何かしら事は起きる。渦中のメンバーは、足元の状況しか見えなくなるものだが、私は、会社の経営計画や取り巻く全体の状況から対話するようにしていた。困難な中でも、見通しを持ち続けられるよう、上段から議論することを意識した。

4.  キャリアの話をすること

私に経験がないこともあり、私自身も自分の役割を模索し続けたが、メンバーにおいては、上長に頼るに頼れない状況を強いたと思う。私に出来ることは、メンバーが描くキャリアの実現にコミットすることだった。フィードバック面談や1on1のタイミングで、どのようなキャリアを描いているのか、どのような気づきがあったのか、いま何合目なのか、直球で聞くようにしていた。

5. 進まないタスクを前進させること

IPO準備チームメンバーとは、週1回の定例MTGに加えて、定期的に1on1の時間を設けた。ボトルネックがあれば、それが解消されるように、経営陣と議論する、社内や予算調整をする、タスクを巻き取るといった動きをした。特に、「リソースがありません」という状況に対して、第三案をひねり出したり、どこからともなく社内外からリソースを引っ張ってくるのは、自分の役目だと思っていた。

会社全体にはリーダーシップを

上場に足る管理部をつくることは、管理部門だけで成せることではない。会社全体の認識を醸成しながら、一体となって進んでいく必要がある。主に、代表の江戸と連携しながら、全体感をメンテナンスしながら紡いだ。

6. 会社が向かう方向を示し続けること

四半期に一度、ALL adish Meetingと名付けた、全拠点の社員が参加する会議を実施している。会社を設立してから上場するまでの間、江戸と私で企画運営してきた。IPOについても、中期経営計画における位置づけや、求められることの予告や解説をするように努めたが、上場が具体的に近づくにつれて、情報共有をしづらくなっていった点においては、綱渡りをしているようだった。

7. 経営陣が一体となる場をつくること

取締役会とは別に「どまんなか会議」という会議体を設けている。レオスキャピタル藤野さんの講演に参加した際、「どまんなかを問う」という一節に刺激をいただき、会社のコアを議論する場として始めた。この会議体によって、役員陣で方向性を合意できている安心感を持つことができ、いざというときの意思決定がしやすかった。現在も、形を変えて運営されている。

8. 親会社と連携すること

当時の親会社であったガイアックスとの交渉は、私の役目であった。グループの一体感を高めていきたい親会社と、ヒトモノカネ資本の観点で独立性を確保していこうとする私たち子会社との方向性の違いの中で、どのようなバランスを保ちながら推進していくか、心を何度も鬼にしなければいけない、個人的にはハードなシチュエーションであった。

9. 内部統制・情報管理の姿勢を示し続けること

上場するにあたっては、当たり前のことであるが、皆様に安心して株を買っていただけるに足る内部統制を敷く必要がある。管理本部長という役割上、内部統制や情報管理については毅然とした態度でいるように努めた。やると決めたことをグループ全体でやってもらう必要がある。そのために自分がお手本でいること。自分自身が試されているという気持ちだった。

ステークホルダーには誠実に

上場準備に関わるメンバーは、社内だけではない。主幹事証券、監査法人、株主の皆さまをはじめ、結果として、経営を尊重しながらも激励いただく素晴らしい方々に集まっていただけたのだが、信頼関係を積んでいくプロセスには特に力を注いだ。

10. 約束したことを進捗させること

上場準備は、何百にも及ぶ事項を粛々と整備していく必要がある。その一行一行が約束事だ。やると約束したことは、進捗させる。一方、期限どおりの実現が難しくなった場合は、早めに進捗を共有するようにした。

11. 悪いことほど早く共有すること

そして、悪いことほどすぐに共有することを心掛けた。起きたことは事実として伝える。それも踏まえてどう対応していくのかを、冷静に協議し続けられたのではないかと思う。

12. 明るく前向きでいること

上場後に、あるご担当者様から、杉之原の明るさに救われたとのフィードバックいただいた。大変嬉しいことだった。キャラ的なところもあるが、管理本部においても、ステークホルダーの皆さまとの関係性においても、明るく前向きでいることは心掛けていた。IPO準備チームにおいては、なにかと、キングダムの名言を引用しては笑いを誘うことに成功した。(と思っている。あれ?)

13. 分からないことは分からないと言うこと

分からないことを分からない、と言うことは勇気がいることだが、なにぶん、私たちには取り繕うものが何もない。もちろん、それぞれが相当勉強もしたが、それでも分からないことは教えを請い、必死に喰らいついていった。特に、経理部長の久保(現・財務経理部長)は、上場後に「社会人人生の中で一番成長した」というコメントをくれた。

さいごに

上場準備を始めたときは、IPO経験者がいたほうがいいのではないかという議論ももちろんあった。しかし、ある社外の方に、あくまでも、純粋に物事を推進していく力が大切であるので、経験者はいたらいたで良いけれど、いなくても問題ない、という力強い言葉をいただいてからは、だいぶ開き直ることができた。

14. 1ミリも諦めない人がいること

もしまた上場準備に関わるとしたら、当然、今回の経験を活かした取り組み方ができるのだろうと思う。しかし、そうであったとしても。だれがCOVID-19のような社会変化を想定していただろう。思いもしない論点や事柄が発生した際、上場が迫れば迫るほど、現場は悲観する。疲労もたまっている。そんな中で、江戸は唯一、どんなシチュエーションでも1ミリも諦めていなかった。1ミリも。


先日、コロナ禍で中止になっていた上場記念式典が、1社5名のみが参加する「打鐘会」として再開した。

感染者数の推移等を踏まえると、いつまた中止になってもおかしくない状況であったこともあり、今回は、江戸と、IPO準備チームがそれを見守るという構図にさせてもらった。

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たった10分という限られた時間ではあったが、3月26日に、アディッシュグループのみんなで見るはずだった景色が現れた瞬間、やはりこみ上げてくるものがあった。

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このnoteは、あくまでも、IPO準備チームまわりの観点で振り返った内容であるが、アディッシュグループひとりひとりの力があってこそであることを最後に記しておきたい。


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