見出し画像

感情のあとに言葉がついてくる

お気に入りだった鳥のブローチが、暑いからと手に持っていたトレンチコートから外れてしまい、ころりと地面に落ちてしまった。
ブローチを拾うと、一部が欠けてしまったように見えた。破片を探そうとアスファルトの上を手で探っていたらカップルが近寄ってきて、男性の方が「何をしてるの?手伝おうか?」と声をかけてくれた。
男性の後ろにいる女性もいい人そうで、胸がきゅっとつまった。まったく見知らぬ人が、英語で助けを申し出てきてくれたなんて!と嬉しく思ったし、いまも書いててなんだか、泣けてくるくらい、小さい箱にしまっておきたい体験のひとつである。

そして別の日、家の近所にはカフェやベーカリーがいくつかあり、今日は朝の9時代にホットコーヒーとマカロンを買いに外へ出かけた。買い物を終えて家に帰る途中、横断歩道の向こう側に男の子の二人組を発見した。1人のズボンのお尻ポケットから黒いお財布が落ちるのを見て、私は走って財布を拾い、また走ってヘイ!と叫ぶと男の子達が振り返った。英語が頭にフン詰まって出てこないまま、顔はヘラっと笑い手で財布を渡した。財布を落とした男の子は、サンキューと言って私に笑って見せてくれた。私は盛大に照れて、ノープロブレムヨと言い、小走りで逃げるようにして街を去った。

私はスマートフォンアプリを作る仕事で、「気軽に質問してくださいね」とか「いつでもお声がけください」とかとか、画面内に表示される言葉を選ぶことがある。四角い枠の中に言葉があって、その下にユーザーが行為を選択するボタンがある。この場合、言葉のあとに、行為が行われるという構成になっている。だけれど現実は、言葉よりも早く、私が何かを見つけようとして背をかがんだり、財布を差し出したことがフックとなって、私にアクションを起こそうとする。

感情のあとに言葉がついてくるということを知っていたはずなんだけれど、知らない人が知らない言葉で私に接してくれたという体験が、小さな気付きをくれたのだった。

なによりも言葉が通じなくても「親切にしたい」という気持ちは通じ合えるのだと改めて感じ、たいへんポカポカした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?