暗鬱の抒情と物言わぬ獣【祖父・三谷昭と新興俳句を巡る冒険】(一)
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わたしの祖父・三谷昭の俳句は『暗鬱の抒情』と評されているそうだ。
この評では、三谷昭は新興俳句事件を体験したから暗鬱になった、とも読める。もちろん、評者の方の見解に、異を唱えるつもりはない。むしろ、他界してもう43年経つ祖父の俳句が、インターネット上に残っていること、今も論じられていることが、本当に嬉しい。
ただ、わたしは身内として気軽に「いや、お祖父ちゃんの俳句は新興俳句弾圧事件前から暗かった」と思う。
わたしがこの祖父の話を今まで書けなかったことも、そして、今書けることも、わたしが祖父の身内であり血縁者であることが由来しているし、起因している。
その起因や由来の話には、複雑な感情が付き纏う。
祖父の話をすると、こう言われる。
「三谷さん、サラブレッドじゃん!」
「文人の一家なんだね」
「やはり、お祖父様の影響が」
わたしは、こう言われることを嫌だと思ったことはない。
わたしは射手座生まれで、射手座は徹底した個人主義の人間だと星占いの世界ではよく言われている。
星占いが全てではもちろんないと思うが、ただ、わたしは祖父とわたしの繋がりに関して、血縁であることは事実、祖父が名前の知られている人間であることは事実、そしてわたしが自分の名前で文章を書いて暮らしているのは事実、としか思っていない。自身では全く気づいてなかったが、この割り切り方を持てる人間はなかなか少ないのも、事実のようだ。
そして、その事実の上で、わたしは祖父と祖父の仲間たちについてを書こうと思っている。
わたしが祖父のことを詳しく知ったのは今から18年前、24歳の頃だった。
当時のわたしは、鹿児島県・奄美群島の沖永良部島で半年に及ぶリゾートバイトを経て、東京に戻ってきていた。
余談だが、沖永良部島での経験を元にした長編小説はすでに書き上がっている。
2作目の小説の無料公開を終えたら、そちらも公開していこうと思っている。
沖永良部島にリゾートバイトに行ったのは、小説を集中して書くためだった。
わたしが小説を書く決意をするまでは、現在、noteで無料公開中の『腹黒い11人の女』に詳しい。
小説を書こうと決意したわたしは以前、リゾートバイトに行った友人を訪ねてしばらく滞在した沖永良部島を思い出した。
書く、と決意はしたけれど、今までの東京の日常を引きずったままでは、結局、なし崩しにうやむやになってしまう気がした。
沖永良部島のリゾートバイトはスナックに勤めるもので、営業時間は午後6時から12時までと決まっている。
沖永良部島には美しい海があるけれど、遊びに行くところは居酒屋やスナックぐらいしかない。しかも、わたしはそこの従業員だ。当然、なかなか夜は遊べない。
さらに言えば、リゾートバイトに行く季節は1月から7月を選んだ。
奄美群島というと、一年中常夏のイメージを持つ人間が多い。しかし、冬は海が荒れ、海風も強くなり寒いし、梅雨も長い。
つまり、1月から6月はほとんど昼間に遊べる場所がないのだ。
準備万端と言えば準備万端、用意周到と言えば用意周到。否が応でも小説を書くしかなくなる環境をわたしは誂えた。
そんなところにも、わたしの小心な性格が現れていると振り返れば思う。
東京に居れば、その場限りの狂騒と乱痴気はすぐそこにあり、それらの対応をしていれば、何某かの都会の暮らしをしているような気になって、そう、わたしの小説『腹黒い11人の女』にあるように、「若い体と女ってだけで、食事もブランドバッグもなんでも手に入る」。
例え、どんなに小説を書くと固く決意をしても、東京にいて、今までと同じ日常に、流されない自信がなかった。
そして、また恥ずかしいことに沖永良部島でも、夏に行ったら日々の楽しさに流されてしまうような気がしたのだ。
青い海、気のいい島の男性たち、夏休みで帰省した島出身の大学生たち。
彼らと毎日海に行っていたら、あっという間に数ヶ月は過ぎる。
単なるリゾートバイトならもちろんそれでいいし、実際に沖永良部島はスナックのリゾートバイトで来た女性が、島の男性と結婚して子どもを産み、人口増に貢献したとして社交組合の代表のママが町から表彰されている場所だ。
しかし、わたしはその時、どうしても小説を書きたかった。全てを賭けて、集中しなければ駄目だと思っていた。
「君の話は遠回りして、なかなか、本筋に辿り着かないね」
そう、それは思い出したことを思い出したそのままに話してしまうわたしの話を聞く人がよく言う台詞。
けれど、いいんだ。
『自由に書いて』と言ってもらえたから。
さあ、結局、祖父のことを知ろうとするまでの話にたどり着く前にもう2000字を越えた。
冒頭に引用したのは日本現代俳句協会の現代俳句コラムで祖父の俳句が評された回。
嘆き合うために身を寄せた夜もあっただろう。
けれど、身を寄せ合うのは暖め合うため、暖め合うのは、生きていくためだ。
(二に続く)
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