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【案内したい京都】妙法院門跡 国宝・庫裏の保存修理現場

とても尊いものを見たーー。

京都・妙法院門跡にある庫裏(くり)の保存修理。その工事現場を見学した際に、湧き上がった感情だ。

京阪七条駅から東へ歩いて20分ほど。左手に京都国立博物館、右手に三十三間堂を眺めながら緩い坂を上がっていくと、妙法院門跡はある。

この日、5月14日は妙法院の「五月会(さつきえ)」という行事が行われる日である。
普段は拝観することが叶わない「殿舎」が特別公開される、一年に一度の機会。特別な法要や催しもあるということで、朝から多くの参拝客で賑わっていた。

それと合わせて公開されていたのが、前述した「庫裏」の保存修理作業だ。
「庫裏」というのはいわゆる台所のことなのだが、台所と聞いて頭に浮かんだそのイメージは、すぐに頭から消し去ってほしい。

大きさは学校の体育館…というと広すぎるが、天井は見上げるほどの高さ。面積は体育館の半分ほどだろうか。資料には、間口23.7メートル、奥行き21.8メートル、高さ17.1メートルとある。
工事中のため全体がすっぽりシートに覆われ、入母屋・本瓦葺きの造りを見ることは叶わなかったが、内部の木組みを見るだけでもただの台所ではないことは伝わってきた。

それもそのはず、この「庫裏」は、かの豊臣秀吉が建てたものなのだ。


ここで800人分の料理が用意された


秀吉は1595年(文禄4年)に、祖父母(資料によっては父母とも)の供養のためにあらゆる宗派(天台宗、真言宗、律宗、禅宗、浄土宗、一向宗、時宗、日蓮宗)から800人近くの僧を招き、妙法院で「千僧供養」を行ったという。(800人って書いてあるけど、、というツッコミは飲み込みましょう)
その際に、僧侶をもてなすための料理を、この台所=庫裏で用意したというのである。
800人の料理を、この場所で!!!
考えるだけで血がたぎる。
どんな食材が、どれほどのボリュームで届き、どれだけの人数が、どんな動線で盛大な料理を用意したのだろう。怒声が飛び交い、熱気も充満していたに違いない。

人々が右往左往しながら働く姿を思い描き、目の前の空間に映写する。
いやいや仕事をしていたのか? 太閤さまのお役に立てる喜びで胸がいっぱいだったのか? それとも、知らぬうちに巻き込まれた人もいたのか? 想像は尽きない。

というわけで、歴史的にもとても意義がある建物なのだ。ちなみに、国宝である。

入り口からチラッと伺うことができる梁のボリューム感、その梁が規則的・かつ豪快に組まれている様だけでもワクワクするのだが、この中に入って、作業の現場を見学できるなんて。

老朽化で安全性が懸念されたため、入れ替えられた梁。「国宝」から「産業廃棄物」へ。涙。


古文書と最先端技術ーー過去と未来の叡智が謎を解く?


案内人は、工事に携わっている方。建築の専門家だそうだ。
建築家なのだが、現場で「なぜこんなことをしたのだろう?」という場面に遭遇した時、古文書を読んで研究することもあるという。
古文書は、簡単に読めるものなのでしょうか。

方針に迷った時は、古文書を読んだり、当時の暮らしに想いを馳せたり、地政学的な事情を加味したりして、「今のところの見解」を出す。そうして、大切な遺構に傷をつけることがない修繕方法を見出すという。
そんなエピソードの数々に、見学者はみな引き込まれていた。

もちろん、現在の技術では解明できないこともある。
例えば、設置されていた竈(かまど)の数。現在のところ見つかっている竈の跡の中で、秀吉の時代につくられたと考えられるものは、たったの4つという。
「800人分の食事を、4つのガスコンロで用意できますか?」と聞かれたら「無理でしょう」としか回答のしようがない気がする。現場の方も同様に考えたそうだが、今の技術ではこれ以上の調査は困難なのだという。

「将来、最新技術が解明してくれることを期待している」とのことだった。

古文書と最先端技術、その両極をツールとする現場の作業は、なんてエキサイティングなんだろう。

技術を後世に残すという営みを、尊いと思った

現場では、技術の継承にも重きを置いていた。
例えば、あらゆる工事現場で必ず設置される「足場」。この庫裏の現場では、昔ながらの丸太で足場を組んでいる。
綿々と受け継がれてきている技術を後世に残すため、また、環境面も考慮して、丸太を採用しているとのことだった。

木材で組まれた足組。奥のカバーで覆われている部分が庫裏

梁の入れ替えや屋根の修繕などにおいても、昔からの技術を大切に守ってきていることが存分に伺えた。
自然界で人間と共生しているものーー植物、鉱石などーーだけで、これだけ堅牢で見栄えがするものができるのに、なぜ人間は化学物質に頼るようになってしまったのだろうなあ。

申し込み不要で参加無料。毎年訪ねても面白い現場だと思う

この「庫裏」工事現場は、毎年5月14日と、どうやら秋にも公開されているらしい。(2023年は11月3日、4日)

無料なんです。申し込みも不要なんです。
たくさんのお話が伺えます。多くの資料や現物を見ることができました。

ぜひ。

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