ポスト還暦〜熟年離婚について
私の友人で、熟年離婚したカップルが4組いる。
全て妻から夫への三行半だ。
それも全て還暦過ぎてからの離婚である。
まあ、友人はわりと多い方だと思うけれど、ホテルの結婚式場が埋まるほどの数の友人がいるわけではないので、結構な確率である。
理由は同じようで微妙に違う。
散々夫のワガママに付き合ってきて、沸騰点を超えた。
ずっと空気のような存在でいてもいなくてもいい存在になっていた。
お互い、子育て以外に共通点がなくなっていって、子供が巣立ってそれぞれ家庭を持った今、一緒にいる意味がなくなってしまった
元々好きで結婚というより条件で結婚したから、本当に好きだと思える人と老後を送りたい
でもその最終決断のタイミングは全員ほぼ一緒。旦那さんの定年退職日までの数年間。
その旦那さんは、何十年連れ添って来て、まさか離婚を切り出されるなんて思ってもいないから、帰宅前に一杯ひっかけたり、毎週末ゴルフ三昧だったり、食べたい気分じゃなかった食卓にケチをつけたり、食事中もずっとスマホに目を落としたままだったりと、いつもと変わらぬ日々を淡々と送る。
奥さんの方は、ご主人の定年が現実に迫り、そのご主人と朝から晩まで、四六時中鼻を突き合わせる生活を具体的に想像して、悪寒で身震いしてしまったのだ。その時点で脳裏で判決の金槌がコンコンと響き、離婚の刑は確定、定年までの数年は執行猶予、ひとつでも「またか」と眉間に皺が寄った時点でが実刑が下される。旦那さんから見れば青天の霹靂である。
4組のカップル、旦那さんたちはそれぞれ社会的地位が高めのいわゆるエリートと呼べる男たちだ。容姿も含め、皆いい線いってる方だ。だから油断したのかもしれないし、タカを括っていたのだろう。
メディアがいくら男女平等と騒ごうと、日本では女性が家事をするのが当たり前、だから奥さんたちは別れたって、むしろ家事が減ると思うくらいで、意外に不便は無いのだ。
それだけ長年連れ添えば、それなりに財産分与も貰える。経済的にも、例えば40代でシングルマザーになれば、当然生活は苦しくなるけれど、財産の半分貰っての老後なら、例え離婚前より若干慎ましくなったとしても、自由、好きなことだけをやれるなど、人生の楽しみとして充分お釣りがくる。
夫婦は不思議なものである。
夫婦間の愛情が希薄でも別れない夫婦もいる。
べつの友人で、奥さんが40代から数年間、浮気をしていたという夫婦がいる。
この夫婦も、奥さんは、特別にご主人に恋をしたのではなく、東大大学院卒のご主人の釣書で結婚したという経緯があった。だから、女として枯れる前に、肉体的魅力のある男と、ちゃんと恋をしておきたかったそうだ。相手にも妻子がいるダブル不倫だった。
でも空中旋回アクロバット的なその恋も数年で飽きてしまい、白昼夢の恋も、全てを知った上で受け入れてくれたご主人の胸に、穏やかに着陸して、今は人も羨むくらい仲睦まじい夫婦として幸せなポスト還暦ライフを送っている。
別の友人はご主人とは「業務連絡」のみの日々だという。遅い子持ちのこの友人は、まだ子供が高校生で、その子が大学に入ったら離婚と考えていたそうだが、財産分与で、とことんこだわって建てた都内の家を売ることも残念だし、今だって寝室も食事も旅行も別という生活なので、離婚する必要すらないので、このまま仮面夫婦続行と決めたそうだ。
夫婦それぞれ、十人十色だ。でも、熟年夫婦に関して言えば女性の方が、精神的に遥かに自立していて逞しいのかもしれない。「俺は社会でこんなに頑張って家族を養ってきた」という自負は、会社という居場所を失った時点に、価値ゼロになる。
主婦の代価という言葉があるけれど、実際には社会的に評価されない。けれど、男たちが知らない間にそのスキルはプロの域に達している。そのプロの仕事を「食べさせるのは俺」と、意識せずにスルーし続けると、老後には夫婦でゆっくり二人で旅行でもするからと、妻への感謝を数十年後回しにしていると、突然、金槌の冷たい音とともに、血も涙もない判決が下される。
定年前の執行猶予の時期、手遅れになる前に、奥さんと旅行したり、たまに奮発してデートしたり、少しいつもと違うアクションを取ってみたらいかがでしょう。
数十年の家事も大変だけど、お父さん達だって、ヒラの時代は上司にこき使われ、中間管理職は上下の板挟み、上に立てば派閥の気遣いで消耗する。出世してその社会でプロと言える立場になったところで、定年後はただの人、その上離婚なんて、あんまりじゃないか!
熟年離婚は今のところ少数で、マジョリティの夫婦は長年添い遂げ安泰だ。
でも、家族になっても数十年生活も人生も共にしても、夫婦間に血の繋がりはない。
親子なら切っても切れない縁とDNAがある。
でも夫婦は所詮他人同士。親しき中にも礼儀有り、遠い親戚より近くの他人という言葉通り、尊敬と信頼を保てる一番近くの他人どうしになれるのが理想なのかもしれません。
ポスト還暦〜次回は熟年の恋愛事情について、私自身の体験とともにお届けできればと思っています。
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