恐怖症にまつわる雑談

集合体恐怖症についてのインタビュー



I :インタビュアー(飯島暉子:高所恐怖症/acrophobia・巨大物恐怖症/megalophobia)
H:インタビュイー(匿名:集合体恐怖症/trypophobia?)



キャプションが先行したころ


H「ハスコラほんと駄目で」
I「うんうん」
H「全然駄目ですね。」
I「ハスコラ…ハスコラが駄目な場合って他の植物も駄目ですか?」
H「いやあ?なんか、蓮を見るわけではなくない?ハスコラって。画像…なんか、ネットの、膝小僧と蓮を合成したやつとか」
I「膝小僧と蓮を合成したやつ多分私見たことないですね。」
H「結構多分メジャーな。」
I「結構前に流行りましたよね、ハスコラっていうワードが」
H「そう。こう…『エッチなかんじの画像だぞ!』みたいなリンクが貼ってあって、踏むとそういうのがあるっていう…」
I「ハハハ!」
H「そういう、2ちゃんねるで、僕が中学・高校くらいの時にすーごい流行ってた。画像表示が、リンク踏まないと見られなかった時代の。」
I「確かに。別の画像をリンク名に示唆しておいて、それを押すと、ハスコラにつながっているっていう…」
H「そう。」

(バゲットを食べながら)

I「ハスコラ怖いなって気付いたきっかけって2ちゃんねるですか?」
H「うん、2ちゃんねるとか、なんか忘れたけど…あと僕んとき、中学校くらいの時って、win.mxとかウィニーっていって、要は画像を送るソフトみたいなのがあって。違法なんだけど。それで映画とか漫画とかを、朝学校行く前にダウンロードして、学校から帰ってきたらダウンロードされてるくらいのスピード感で、あった。」
I「へー、ウィニー…?」
H「ウィニーとか、win.mxとかあった。」
I「ふーん…?」
H「…蓮の葉っぱをちゃんと見たことがないなあ。」
I「そうなんですね」
H「まあ怖いからなんだけど。」
I「なるほど」
H「ハスコラしかしらないんすけど。」
I「うん。それが先行して蓮自体が怖い?」
H「いや?蓮…怖いっていうかね、あれ、気持ち悪い……見れない。気持ち悪くて。」
I「うん」
H「蓮の花は全然よくて、不忍池とかも全然居られるし、」
I「あ、そうなんですね。」
H「全然問題ない。全く問題ない。視覚的に気持ち悪いから直視できないみたいな。そういうことだね。」
I「ふーん…なるほど。」
H「そうそう、そういう系です。」
I「そのー…動画アップロードみたいなサイトを見ているときにハスコラの画像にぶつかったってかんじですか?」
H「うん。まあそんときはハスコラっていう言葉も知らなくて、ただ気持ち悪い合成写真みたいな。」
I「うん」
H「で、大学に入ってTwitterとかやりだした頃に、ネット用語でハスコラっていう言葉があって、これのことなんだなって。」
I「うーん…発見したとき、そもそもハスコラっていうワードがなかった?」
H「あったかもしれない。あったんじゃない?でも俺が知らなかっただけで、あったとは思う。」

生活´


H「去年大阪のアーティストスタジオでスタジオビジットしてるときに、作品がハスコラっぽい人がいて、見れなくて。「ごめん、これはハスコラだから見れない」って言って見れなかったことがあって…見れないんだなって思った。……あれに近いな、黒板引っ掻く音聞くみたいな。」
I「反射で、」
H「反射で見れないみたいな。」
I「そっか…ハスコラ以外にその…なんか群がってるみたいなものは、」
H「ん、苦手かも。うーん…一時期ほんとに、これは多分また違う話だと思うんだけど、小学校四年生の授業で『はだしのゲン』のアニメを見て…メシ中に話す話題じゃないんだけど、ウジ虫がめっちゃ出てくる話。」
I「ああー…」
H「ピンセットで取るわけよ。白ご飯が食べられなくなって。」
H・I「(笑)」
H「てか、その日の給食はほんと無理で。」
I「ああー…」
H「まあまあ、そのうち自然回復したんだけど。」
I「そっかあ…ウジは確かに。」
H「今でも無理。…アリとかハエとか、全然大丈夫だけど。」
I「アリの巣とかは大丈夫なんですか?」
H「うん、大丈夫。何年か前に、あれなんだったかな…あのー…高田冬彦さんの作品で、森美術館のMAMCっていう映像のコーナーで、肉をなんか、酷使する映像があって。だからそれも、ハエ、ウジ…がたかって、みたいな。でハエが湧いて…みたいな。動画があって。まったく見れなかった。」
I「ああ…」
H「びっくりした。勘弁してくれと思った。」
I「確かに…ありますね。多分同じ作家ではないと思いますけど、犬か、小さな子ヤギか忘れましたけど、その死骸を定点カメラで撮ってて、どんどん膨れ上がって、中からガスが膨張して、」
H「うわあ…」
I「で、ウジが湧いて、最後骨になってみたいなのを撮影している作品があったんですよ。」
H「うんうん、すごいね。」
I「それは結構きつかったですね。」
H「そもそも、怖いのもグロいのも、大嫌いなの。」
I「ふふふ」
H「ホラー映画とかも基本的に観れないの。そもそも。」
I「でも結構その、美術系の活動されてると、さっきみたいに作家さんの作品が見れないとか、」
H「まあ、超特殊な例だけどね、それは。初めてよ。」
I「初めて?」
H「うん。わ~…みたいな。そもそもそういう作品をつくれるということは、そのひとはハスコラに耐性があるってことじゃない?まず。」
I「そうですね、確かに。大丈夫なひとじゃないとつくれないですもんね。」
H「うん。ハスコラ無理なひとがどれくらいいるかわからないけど、まあまあいると思うよ。」
I「うん。…なんか私自身はハスコラが怖いっていう意識無かったんですけど、この間京都のお寺に行って、ふと蓮の庭園を見たら、ハスコラのもととなった状態のものが結構あってギョッとしましたね。不意が怖かった感じです。」
H「へー」
I「それってその…リンクで「蓮だよ」って書かれてなくて、押して、パッと現れたのと感覚が似てると思いました。」
H「なるほど。」
I「蓮を見ようと思って訪れたわけではないのに、ふと視界に入ってギョッとするって、不意打ちをくらった感じがあったので…」
H「なるほど。まあそれもあるかもしれないですね、確かに。」
I「ハスコラって検索してHさんが見つけたんじゃなくて、その…」
H「うん、不意をね。」
I「不意をつかれて、こう、衝撃が残ってるという感じが…しました。」
H「確かに。それはね、ある。」
I「なんかありましたよね、ニコニコ動画でも、なんか…普通のミュージックビデオとか、普通の動画のタイトルとサムネイルで、見ようとするといきなりホラー映像が出てくるとか…」
H「怖い女の人の顔とかね。」
I「そうですそうです!」
H「めっちゃあった。」
I「そういう驚かすやつありましたね。」
H「めっちゃあった。最近全然見なくなったけどね。」
I「なんか二・三年前に、海外の子供向け番組を流してるYOUTUBE上のイタズラで、子供向け番組を見ていたらいきなり、あのー…「フォークをコンセントに刺してみよう」とか、 *¹」
H「こわっ!」
I「いきなりそういう、子供が怪我をするようなイタズラ動画が流れてくるっていうことが海外で流行ったので…」
H「絶対ダメやん。」
I「絶対ヤバいですよね。」
H「絶対ヤバいやつ。」
I「子供は子供向け番組だと思って見てて、」
H「それやってみたくなるでしょ!」
I「やってみたくなりますよね!「フォークでコンセントを刺してみよう」って言ったら、感電しちゃうわけですよね。」
H「中学校のとき流行ったもん。」
I「流行りました!?」
H「シャー芯二本持ってコンセントでビリってなるっていうの流行ったもん。」
I「それは知らなかった(笑)」
H「うん。あのー、肝試し的な。」
I「ああ~…」
H「根性試しみたいな。」
I「すごい…」
H「流行った、流行った。」
I「やりました?」
H「バチッてなる。」
I「ハハハ」
H「それで知るのよ、木炭は電気を通すということを。」
I「ああ、なるほど!教科書ではなく…」
H「身体を使って知るの。なるほど、って。」
I「すごいですね、木炭って通すんですね…」
H「実は。」
I「実は。(笑)」

輪郭の築き方


I「他になにか不意打ちで怖い思いしたものあります?」
H「いやだから、ホラー映画ダメなの。まず。そもそも。」
I「じゃあホラーの中でどういった要素が怖いって、具体例とかわかります?」
H「暗かったら怖いよ。すでに、そりゃそうでしょ。生命体の本能としてそうでしょ。」
I「暗所が怖い?」
H「暗所が怖いし、ぼや~っと暗い…黒沢清とか、ほんとに、怖いって何かを追究してるから、全部ダメですよ。」
I「なるほど」
H「無理やり観るけどね、黒沢清は。しょうがなく。」
I「なるほど…(笑)でも、映像を投影する暗い部屋なら大丈夫…?目的がハッキリしている暗い部屋なら大丈夫ですか?」
H「ああ、暗室が怖いんじゃないのよ。通路、今から行こうとしている、夜中のトイレとかさ、」
I「ああ~…」
H「怖いよ。…なんで笑うの。(笑)」
I「いやいや!!(笑)私も怖いので、わかるなあと思って…」
H「実家がマンションの四階なんだけど、四階建てのマンションの四階なの。で、エレベーターがない。建築基準法でエレベーターつけなくていい。だから夜中四階まで登らなきゃいけない。階段を。それがスゲー怖かった。」
I「あー、なるほど。」
H「そう、階段で上がらなきゃいけないの。それがほんとに怖かった。」
I「なるほど。(笑)想像して自分も怖くなりました。」
H「やっぱこう…階段折り返すじゃない。」
I「はい」
H「あれが良くないと思う。折り返したその場になにかいるかもしれないわけよ。あれは良くない。」
I「なるほど。それは確かに。なんか日本的なホラーの、振り返ったらなんかいるとか、」
H「画面外でしょ?」
I「うん。画面外ですね。それは怖いですね…」
H「黒沢清ですよ。」
I「(笑)」
H「画面外と言えば黒沢清。」
I「どうしよう、私今日の夜大丈夫かな…(笑)」
H「音楽聴くとかさ、なんかこう…いろいろな技があるわけだけどさ。」
I「聴覚のフレーミングをするわけですよね。」
H「うん。だから、観なきゃいけない怖い映画は音消しで観るわけ。」
I「ん!?」
H「全然怖くなくなるよ。ほんとに全く怖くなくなる。」
I「そうなんですね」
H「うん。だからホラーゲームもできないから、バイオハザードは見なきゃいけないわけですよ、研究として。ここ最近すごいよくなったんで。だから見なきゃいけない。YOUTUBEのゲーム実況見るわけですよ。」
I「はい、はい」
H「音消しで見ればなんも怖くない。」
I「(笑)」
H「なんも怖くない。」
I「なんも…そうなんですね(笑)」
H「だから音なんですよ、結局。あとその、自分がプレイする、そこに没入するかどうかですよ。誰かが勝手にプレイしてる動画を音消しで見るともう全然怖くない。」
I「あーなるほど…」
H「そう。それでなんとかしのいでる。」
I「私もホラーダメなので、自分でホラーゲームをすることはまずないですね。やっぱりゲーム実況ですかね。うん。…いやでも、音消しはやったことないです。」
H「もう、バツグンですよ。」
I「そんなに効くんですか?」
H「いかに音が大事かっていう。」
I「いかに音が大事か…」
H「めっちゃ大事。だから、怖さ八割減ぐらいする。」
I「そんなにですか(笑)」
H「ほぼ音なんすよ、逆に言うと。」

I「うーん。目的がわかっていたら怖くない暗所と音を繋げると、その、動画を見ようと思って見てるわけじゃないですか。」
H「うん。…いや、それは関係ない。怖いもんは怖い。」
I「なるほど。目的がハッキリしているかどうかはあまり関係ない。」
H「うん。」
I「なるほど。」
H「怖いもんは怖い。ホラー好きなひと凄いよね。なんもわからん。」

H「最近なんかで読んだのはさ、「スリル」って日本語が流行ったのは戦時中らしいんだよ。」
I「あ、そうなんですか?」
H「これは興味深い話だなと思って。なんかで読んだ…ああ、これだ。『日本のカーニバル戦争』*²。」
I「『日本のカーニバル戦争』?」
H「うん、これに。…日中戦争のとき。」
I「日中戦争で…生まれた?流行った?」
H「まあだから、日本語として使われるようになった。だからもう三十年代だよね。後半くらい。興味深い。ようはそこに、快楽があるわけでしょ?単なる恐怖じゃなくて。」
I「そうですね。」
H「「スリルハンター」っていう言葉もあるらしい。」
I「スリルハンター?それは…な、なんて言うんでしょう。活動家として存在するということですか?」
H「従軍記者のことを言う、戦争特派員。…だからまあジャーナリストだよね。オフィシャルの。」
I「ふーん…」

I「ジェットコースターだったらスリルを求めて行くじゃないですか。」
H「うん。」
I「街中でスリルを求めることってあんまりないですよね。」
H「街中でスリルを?…でも変質者はやるんじゃないの?」
I「ああー!なるほど。」
H「全裸で、コート一枚で街を歩く。ドキドキ、みたいな。」
I「なるほど。それも公共ですもんね。」
H「ある種の万引き犯とか。パチンコやるひととか?」
I「ああ、」
H「スリル的要素あるんじゃない?」
I「確かに。」
H「基本的にそういうのは僕は、個人的には厳しい。」
I「なにが厳しいんですか?」
H「いや、怖いの。賭け事。」
I「あ、スリルが?…なるほど。じゃあパチンコとかやらな…」
H「やらないやらない。」
I「自分からスリルを求めて、なにか検索したりとかしないんですか?」
H「しない。…アートやってる時点で、長期的なスリルを求めてる可能性あるけどね。」
I「(笑)」
H「安定を求めてないというか。…退屈が嫌いだというのはよくわかる。日々の反復とか、変わらない日常が嫌だみたいなのに強く共感するわけですよ。それの…代替案がスリルかねぇ?」
I「うーん(笑)」
H「非日常の導入の仕方が極端。」
I「ふふ、極端。」
H「思うでしょ。」
I「思いますね。…私もスリルとかリスクとかあんまり…苦手ですね。」
H「極力平穏に生きていきたい。」
I「そう。そういうタイプです。ふふふ」
H「いやあそうでしょう。」
I「ハハハ」

H「…ダメってわかった時点で見なくなるじゃない?」
I「そうですね。」
H「うーん、避けるように気を付けるじゃない?なんかアレルギーのある食べ物みたいな。」
I「ああ、はい。」
H「だからあんまりその、話せる経験談自体がそんなあるわけではないんですけど…」
I「最後にハスコラを見て怖かったのって、中学生くらいですか?」
H「いやいや、もっと大人になってから見てるけど、一番最近ハスコラに近いのはさっきの絵のひと。それが一番最近かな、わかんないけど。」
I「そのとき反射的に怖いって思ったんですか?」
H「うん。「ごめん見れない」って伝えた。「これは僕にとってはハスコラだから見れない」って。」
I「なるほど。どんなリアクションでした?」
H「「ああそうなんですね、すみません」みたいな。隠してくれた。」
I「隠してくれた!なるほど。理解のあるひとですね。」
H「いやまあわかるでしょ、そりゃそうでしょ(笑)」
I「ハッハッハッ」





2022年10月31日 東銀座周辺にて

*¹「Momoチャレンジ」と呼ばれる、若年層をターゲットにした暴力的な現象の1パターン。突然現れたキャラクターが、映像を見ている子供に怪我の恐れのある危険行為を促す。
https://ja.wikipedia.org/wiki/Momo%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B8

*²『日本のカーニバル戦争 総力戦下の大衆文化1937-1945』 みすず書房
ベンジャミン・ウチヤマ著/布施由紀子訳
https://www.msz.co.jp/book/detail/09523/


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