ショートショート 5/7 「悲哀」

 「あぁ~今日も負けだったか。一生来るかこんなとこ」
パチンコに負けた男は呟いたのであった。生涯10度目の台詞である。男はパチンコ店を後にするとコンビニに寄りご飯と酒を買って帰路に着いた。男の部屋は1LDKの8畳の部屋。家賃は5万円。テレビもなくとても質素な部屋である。男は仕事以外の時間・お金をギャンブル、主にパチンコや競馬に費やすのであった。あんなことがあったのに。

現在、家を追い出され、妻と最愛の娘とは別居中。原因は男の生活を見れば一目瞭然である。家庭よりもギャンブルを優先するからだ。妻にこう言われた男は数多いるだろう。

「家族とギャンブルどっちが大切なの」

もちろん、家族。と即答できる男もいれば、返答に迷い答えられない男。この男は後者であった。しかし、反省と変わりたいという気持ちを持っていないわけではない。体に染み付いた精神を取り払うのは並大抵のことではないようだ。


時は過ぎ、クリスマスが近くなる。男は娘を喜ばせたいという一心のもと10,11月はギャンブルをせず娘のプレゼントを購入するために貯金した。そして、必死に稼ぎかき集めたお金をプレゼント代に当てることが出来た。クリスマスに男は妻と娘の家に行き、プレゼントを渡すとともに反省の手紙と誠意を見せようと思っていた。

そして、当日を迎えた。夜に緊張、歓喜、反省などの複数の感情を抱え、胸を昂らせ家に向かう。部屋の前に着くと、灯が見えるとともに、格子から部屋の中が伺え、絶句した。なんと、机に向かって妻と娘、そして男が座って話しているではないか。
愛想を尽かされたと思うしかなく、怒りの感情は一切湧かない。涙が今にも零れ落ちそうだったが必死に耐え、プレゼントと手紙を自分の部屋に持ち帰った。足取りは重い。

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部屋に居た男は、ただの営業マンだったことは男は知る由もない。反省の心をずっと持ち続けていればいつかは、一緒に暮らせる時が来るだろう。

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