「ほったらかし」のデザインで社会に自由と寛容をつくる

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論の授業の第3回(4月26日)レポートをまとめました。

今回は、「社会に自由と寛容をつくる」をテーマに福井県鯖江市などで様々なプロジェクトを運営されている森 一貴 @moririful さんにご講演いただきました。

活動概要

森さんは「社会に自由と寛容をつくる」をテーマに活動されていらっしゃいます。

以前:「選択肢をふやす」事を中心に活動

現在:「選択肢をふやす事を人ができるように応援する」事をやっていきたいと考え「人々が社会を変えていけるような社会をつくること」に取り組む

お話を伺った中で、活動を設計しすぎない「ほったらかし」のデザインが最も印象的でした。

おもな活動

「つくることの民主化」

RENEW:“見て・知って・体験する” 作り手たちとつながる体感型マーケット
福井県鯖江市・越前市・越前町で開催される、持続可能な地域づくりを目指した工房見学イベントです。

RENEWは伝統産業の売り上げ減少に対する危機感から立ち上げられました。

このプロジェクトデザインにおける興味深いポイントが、「産地のエンパワメント=職人の方の内発的な動機をデザインする」という点です。

職人の方々に伝統産業における課題感を説いて説得していく、というよりはまずプロジェクトに巻き込み、実際にやってみたときのお客さんの反応を直接感じてもらい、職人の方々の「まだやれる」という想いに火を付けて巻き込んでいかれました。

ゆるい移住:最大半年間、家賃無料。何をしてもいい移住プログラム

日本全国5箇所に半年間無料で住めるプロジェクトです。特徴的なのが、起業・農業・林業などの特定の職業に従事するのではなく、【何もしない期間をデザイン】する点です。

多様な生き方を試みづらい社会を変えるべく、【何もしない期間をデザイン】し、プロジェクトを通じて自分自身で生き方を模索する、という「人生を模索できる余白のデザイン」です。

ハルキャンパス:「ほしい未来を自分でつくる人を育てる」をコンセプトにした「対話・探究・実践」を実践する探究・創造型の学習塾
※現在は閉業中

子どもたちのやりたいことを一緒に実現する探究型教育をされていらっしゃいました。

この「実践型教育」に至るまでは、コンサルティング職で培った「ロジカルシンキング」を伝える講座を開講していたそうです。その場を通じて、教えたい事よりも子どもたちがやりたい事を実現できる場にする事の重要さを感じ、やりたい事があるならやってもいいんだ、と思ってもらえる場をつくられました。子どもたちの「YouTuberになりたい!」という声を聞き3つの動画を制作するなど、子どもたちの考えを形にし、実践していく場とされていかれました。

「変化のための小さな階段をつくる」

生き方見本市HOKURIKU(現:生き博FUKUI)

生き方を問い直す場のデザインです。地域固有の生き方や価値観にとらわれずに生き方を見せていくというアプローチによって、個人の視野や選択肢が拡がるきっかけになるのではと感じました。

田舎フリーランス養成口座鯖江(現:ワークキャリア)
フリーランスになることへの断絶に階段をかけようとする取り組みです。フリーランスが一般的な生き方でない環境において、フリーランスという選択肢を伝え、地域における生き方の幅を広げる手段だと捉えました。

「つくることの民主化v2.0」

福井県の政策デザインプロジェクトを実践されています。県庁が政策をつくって市民に押し付けるのではなく、きちんと市民の声を聴いていくようにしていく活動で、行政職員が優秀なサービスデザイナーである事(=現場主義の理想形)を目指しています。

また、県庁ではデザイン思考の研修や20%ルールの導入などの取り組みも行っていらっしゃいます。

プロジェクトデザインにおける思想:
「ほったらかし」のデザイン

プロジェクト参加者を「ほったらかし」にすることで、無自覚な主体性を設計していきます。

ポイント
1)案内しない、準備しない
2)弱い、頼りないままでいる
3)ルールがない→「主客融解のデザイン」

主=提供者、客=受け手の二項対立を崩していくことで無自覚な主体性を設計する(Hidden Communication)

前述のRENEWにおける言葉ではなく体験を通じた巻き込み方や、ゆるい移住の【何もしない期間をデザイン】する点のように、参加者の主体性を自然に設計していく事が「ほったらかし」のデザインであり、主体的に選び・考えていく事を尊重するアプローチで人間らしいと感じました。

感じたこと

新しい取り組みを地域などの自身と異なる生活習慣や価値観を持つコミュニティで展開する時のプロジェクトデザインについての示唆に富んでいました。

中でもあえて「ほったらかし」を設計する事が興味深く、実現したい世界をそのまま伝えるのではなく、「ほったらかし」にして自発的に巻き込んでいく事が、個人の主体性を尊重する人間らしいプロジェクトデザインに繋がると感じました。

またご講演の中で、より多くの人が「社会を変える」を意識を持つために、まず人が一歩を踏み出すために必要だと感じたことは何かという質問に対し、「みんなが『社会を変える』という意識を持つよりも、みんなが色々やっているうちに結果として社会が変わっている状況が理想。それぞれの人の言葉に合わせて、一回何かを一緒にやってみて、見たい景色を一緒に見る体験が第一歩になる。」とおっしゃっていた事が印象的でした。

新しいことを押し付けるのではなく、体験し実感できる「ほったらかし」の場作りが結果として新しいことを受け容れさせ、そこにデザインの力が活かされると感じました。

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