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『真夜中のルーティーン』第1部(1)

(小説 作・岩崎与夛朗 全1022文字=400字詰原稿用紙約3枚相当)

(1)
 深夜0時半過ぎ。
 マンションの5階の部屋の前に立つわたし。

「はぁ……」

 終電を降りて、今日一日の疲れを肩に乗せて
 駅から一人重い足を引きずって帰ってきて
 そういうの全部吐き出してから
 部屋の重たい扉をわたしは開けたのね。
 ううん。別にドアは重たくないんだけど
 今のわたしはとにかくそう感じたのよ。

「はぁ……よいしょっと……」

 玄関に荷物を置いて、電気を点けて
 ブーツのファスナーを下ろしたの。
 でも……。

「ん、んん……」

 ぬ、脱げない。
 仕方なくかまちに腰を下ろして
 両手で引っこ抜こうと試みる。

「んんっ、脱ーげーろー!……っと!」

 ほんとにブーツって最悪!
 誰が考えたの? こんな脱ぎにくい履物!
 なんて、履く時には考えないんだけど
 疲れてるとまじムカツクのよね。
 別に履きたくて履いてる訳でもない。
 履いた方が少しは足がスラっと見えるし
 冬場はやっぱ足首冷えるしね。
 脱ぐ時のことなんて……
 まさかむくんで脱げなくなるなんて考えてないものね
 履く時にはさ。

 一日の終わりの"オシゴト"を玄関で終えたらシャワーを浴びる。
 それがわたしの毎日の儀式《ルーティーン》なのだ。
 会社であったヤなこととかシャワーで全部流してやる感じ。
 そうでもないと明日また会社に行くとか
 そんな気力起こらないから……。

 ヨロヨロと立ち上がってバスルームに向かう。
 わたしの歩いた後に

 ブーツ、鞄、ジャケット、スカート、ブラウス、靴下

 が落ちている。
 わたしの痕跡が廊下に散らばってるのも毎日のルーティーン。
 テヘ。

 ワンルームなんだけど、一応バスとトイレは別なの。
 そこだけはこだわった!
 不動産屋のおじさんにそこだけは譲れないって。
 しかも家賃は安く。ほんとわがままいったけど仕方ないよね。
 だってゆっくりしたいじゃない? どっちも。
 そう、どっちも。だからセパレーツ。ふふっ

 ああ、お湯あったかぁーい!

 今日寒かったもん。しかも職場はPC効率を下げないために
 エアコンの温度設定10度代っておかしいって。
 人間のいるところじゃないっつの。

 足元から膝、太もも、お腹、胸、背中、首筋、顔、頭の順に
 徐々に下から上へとシャワーをかけ流していく。
 ああ、血が通っていくのがわかる。
 生き返るぅ!
 と思ったその刹那、聞こえるはずのない声が
 わたしのルーティーンをぶち壊した。

(2)へ続く。

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