転職2年以内の離職率は30%超、転職が当たり前の時代に誰もが求められる「アンラーニング」を解説
こんにちは。株式会社IVRyでHRをしている官田 ( @KandaAkifusa )と申します。今年の7月に入社したのですが、実はその前の会社を3ヶ月ぐらいで退職しました。人事として採用やオンボーディングを担当する一方で、前職の経験もあるので新しい環境に馴染むのは難しいなということも実感しました。
転職が当たり前の時代ですが、転職してから早期に退職してしまう人が多いらしくビズリーチの調査によれば早期離職者(在籍期間3年未満)では「社風、所属先の慣習があわなかった」が最も多いらしいです。
そういう人に「アンラーニングしよう」という声がかけられるのだが、具体的に「合わない」とは何なのか、それをどうすれば解消できるのかのメカニズムが具体的に語られることは少ない!という問題意識があり、コーチング、その裏側にある認知科学をベースにしてて考察してみた記事です。
※本投稿は個人の見解であり、所属組織の公式見解ではありません。
1. 人間は⚪︎⚪︎の塊
かの有名なアインシュタインが残した言葉がこれです。
天才科学者ですがこのテーゼは残念ながら間違っています。現代の科学では18歳までではなく、現時点までに身につけた偏見のコレクションという見方が優勢です。
その科学は認知科学と呼ばれる分野です。この学問の根本な問いは「ヒトは外部から得た情報をどのように処理してアウトプットするか」というものです。
その基本モデルがこちら。
インプットに対して、脳内で情報処理が行われ、行動になる。この情報処理で重要な役割を果たしているのが「自分は何を重要だと思っているか」というものの見方、考えです。それ次第で同じインプットに対して結果は全然変わってきます。
具体例で考えましょう。
状況: ショッピング中に、「この商品は通常の半額で提供しています」と店員から説明を受けたとします。ちょっと立ち止まり自分ならどう反応するか考えてみましょう。。。。。以下のA~Bのどれかかもしれません。
このように、同じ「値段が安い」という外部刺激に対しても、その人のビリーフシステム(お得感への信頼、価格に対する疑念、品質重視の姿勢など)によって反応が大きく異なります。
もう一つ見てみましょう。
状況: 上司が「ちょっと会議室に来てくれるかな?」と頼まれたとします。ちょっと緊張しますね。A~Cに当てはまるものありますか?
このように、同じ「会議室に来てくれるかな?」という呼び出しでも、ビリーフシステムによってその解釈や行動が大きく異なります。ポジティブな期待を持つ人は前向きに、ネガティブな解釈をする人は不安を抱え、冷静な人は状況に応じた準備をするという違いがあります。
このように同じインプットでもそれをどう解釈するかは人によって異なる考え方があるため、結果的にアウトプットは変わってきます。この解釈をするためのフィルターをビリーフと呼びます。
人間は大小様々なビリーフの集合で日々暮らしています。この集合体ビリーフシステムと呼ばれますが、日常的に使われる言葉でコンフォートゾーンと言われるものがこれです。何も判断しなくてもこのビリーフシステムに従って日常的には生きています。
例えば毎朝歯を磨くかをじっくり考えますか?朝ごはんを食べるか食べないかじっくり考えますか?磨くかどうか、食べるかどうかはまさにビリーフ次第ですが、少なくとも1分もこれについて都度考えたりはしないのがポイントです。
もしかしたらダニエル・カーネマンの本を読んだことがある人はシステム1、システム2という話をご存知かもしれませんが、システム1とはつまりビリーフシステムであり、コンフォートゾーンのことです。
参考: https://uxdaystokyo.com/articles/glossary/system1-system2/
これらのビリーフは生まれてからずっと周りの両親、友達、先生、上司、校則などの影響力を受けて形成されるもの。インプットは違うと思うけど、あなたも思い当たるものは必ずあるはず。以下は参考ですがちょっと考えてみてください。
ではこのビリーフやコンフォートゾーンがアンラーニングに何の関係があるのでしょうか。それが次の章です。
2. 「最近の若いものは全く・・」もビリーフ
歳を重ねた人が若者を批判するとき、ため息交じりに言う「最近の若者は」という言葉、みなさんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
古代ギリシアの哲学者として有名なプラトンも「最近の若者は年長者を敬うこともせず・・・」と言っていたと残されています。これとアンラーニングになんの関係があるのでしょうか。
戦後生まれとZ世代、北海道と沖縄、日本とアフリカ、などなど人は環境によって異なる「べき論」、ビリーフを学びます。そして環境が変わると異なる「べき論」とのGAPを感じます。
ここからやっと本題。
会社を変わる転職という行為も全く同じ論理で「べき論」、ビリーフのGAPが発生します。スタートアップにはスタートアップの「べき論」、大企業には大企業の「べき論」、公的機関には公的機関の「べき論」があり、組織が変わればさまざまな観点からGAPが生まれるのが当たり前です。
たぶんスタートアップの「べき論」を抱えて大企業に入ったらだいぶ世界は違います。逆もまた然り。転職をした時に生じるGAPは以下のようなものがあり、GAPがあるとどっちを信じるべきなのか葛藤が生じます。(専門用語では認知的不協和)
葛藤の正体は前職で意識的・無意識的に学んだ「前職のべき論」が通じないことにあり、パフォーマンスに実際に現れたりもします。
つまり転職、あるいは組織が変わるということには必ず何かしらの葛藤が生まれ、その葛藤を何かしらの形で処理する必要があります。
そこに向けて昨今ではオンボーディングプロセスを重要視するケースが多いですが、入社した会社が必ずしもそこに力を入れているとは限らないので、個々人がアンラーニングを意識しておくことが転職が当たり前の時代に必要な心構えかと思っています。(これはIVRyでやっている取り組みの紹介です)
では、転職ということに的を絞ると、新しい会社のべき論はその会社の最適解であることが多く、適応しないということは成果につながらなかったり、違和感を感じたままどこか馴染めない感覚を持ち続けることになりがちです。
この古い環境でのビリーフから新しい会社のビリーフに適応していく過程がアンラーニングです。
3. アンラーニング=メタ認知→再評価→学び直し
次にアンラーニングというビッグワードを分解して、具体的にどのようなプロセスを通じて起きうるものなのかをA~Cの3ステップで見てみます。
A.「べき論」をメタ認知
アンラーニングの始まりは、自分が持っている暗黙的なべき論を客観的に認知することがスタートです。自分の考えを疑えない人はその考えに何の疑問も持たず盲目的に信じ頑固に行動し続けます。
例えば「階層絶対主義者」の転職者の例に考えてみると
前職: 伝統的な大企業(厳格な階層構造)
新しい職場: フラットな組織構造のスタートアップ企業
メタ認知できず頑固な態度が出てしまうと:
若手社員の意見を無視し、年功序列を重視する
直属の上司以外からの指示を軽視する
社長が気さくに話しかけてくることに違和感を示す
このようなこだわりは誰もが持っているという前提に立ち、内省してみることが重要です。
B. 客観視したべき論の評価
次のステップは客観視したべき論を評価することです。このような問いかけを通じて古い考え方に再評価を加えます。
「べき論」を評価するための3つの主要な視点
1. 有効性と適応性の検証
目的: 古い考えが現在の環境でどの程度機能するかを評価する
主な評価ポイント:
この「べき論」は新しい会社での成功に役立っているか
現在の環境や状況下で、どの程度適用可能か
長期的なキャリア目標や業界トレンドと整合しているか
問いかけの例:
「この考え方は、今の職場でどのような場面で有効で、どのような場面で障害となっているか?」
「5年後、10年後の自分のキャリアを考えたとき、この考え方はどのような影響を与えるだろうか?」
2. 個人的価値と感情的結びつきの解明
目的: 「べき論」に対する個人的な執着の理由と、それが果たしている役割を理解する
主な評価ポイント:
この考えを持ち続けることで、自分の何を守っているのか
なぜこの「べき論」に強く執着しているのか
それを手放すことに対して、どのような不安や恐れがあるか
問いかけの例:
「この考え方は、自分のアイデンティティやプライドとどのように結びついているか?」
「この考え方を変えることで、失うものと得るものは何だろうか?」
3. 新たな可能性と成長機会の探索
目的: 「べき論」を超えた新しい視点や機会を見出す
主な評価ポイント:
古い考えに固執することで、見逃している可能性はないか
この「べき論」の代わりとなる考え方や行動様式は何か
この「べき論」を見直すことで、どのような新しい学びや成長の機会が得られるか
問いかけの例:
「新しい環境で成功している人々は、どのような考え方や行動をしているだろうか?」
「この考え方を柔軟に解釈し直すとしたら、どのような新しい可能性が見えてくるだろうか?」
C. 学び直し
最後のプロセスは学び直しです。古いビリーフを捨てて、新しいビリーフでの行動を起こすプロセスです。ポイントは以下の3つ。
1. 実験と体験
目的: 新しい考え方や行動を実際に試し、その効果を直接体験する
主な活動:
古い「べき論」に基づく行動とは異なる新しい行動を意識的に実践する
新しい行動の結果を観察し、記録する
周囲からのフィードバックを積極的に求め、収集する
ポイント:
小さな変化から始め、徐々に範囲を広げる
成功だけでなく、失敗も貴重な学びの機会として捉える
2. 内省と統合
目的: 実験の結果を深く分析し、新しい学びを自己の価値観や行動様式に統合する
主な活動:
実験結果とフィードバックを客観的に分析する
新旧の行動様式を比較し、それぞれの長所と短所を評価する
有効だと判断された新しい考え方や行動を意識的に取り入れる
セルフトーク(内部対話)を修正し、新しい自己イメージを形成する
ポイント:
定期的な振り返りの時間を設ける
変化のプロセスを肯定的に捉え、自己成長の機会として認識する
3. 強化と持続
目的: 新しい行動様式を定着させ、長期的な変化を実現する
主な活動:
新しい行動様式による小さな成功体験を積み重ねる
支援ネットワーク(同僚、上司、メンターなど)を構築し、活用する
学んだことを他者と共有し、教えることで理解を深める
長期的な成長と適応のためのプランを立て、定期的に見直す
ポイント:
アンラーニングを一時的なものではなく、継続的なプロセスとして捉える
新しい挑戦や学びの機会を積極的に求める姿勢を維持する
これら3つのフェーズは循環的なプロセスであり、常に新たな「べき論」の発見と評価、そして変化のサイクルを続けていくことが重要です。各フェーズを行き来しながら、柔軟に適応していくことで、より効果的なアンラーニングが可能となります。
4. アンラーニングプロセスを1人でやるのは非常に難しい
アンラーニングは自分のコンフォートゾーンを変える行為です。コンフォートを侵犯されるのですから、本質的にコンフォートではない行為です。我々の脳はなるべくコンフォートゾーンを維持したいようにできているので、以下のような問題が生じます。
コンフォートゾーンの執着: 既存のビリーフ(べき論)は、個人のコンフォートゾーンを形成しています。これらのビリーフは長年にわたって形成され、自己アイデンティティの一部となっているため、それを変えることは心理的な不安や抵抗を引き起こします。
自己認識の困難さ: 自分のビリーフを客観的に認識することは非常に難しいです。多くの場合、自分のビリーフが「正しい」と思い込んでいるため、それを疑問視する機会自体が限られています。
変化への恐れ: 既存のビリーフを手放すことは、未知の領域に踏み出すことを意味します。これは不確実性や失敗への恐れを伴い、変化を躊躇させる要因となります。
よってアンラーニングには他人からの助けが必須になります。コーチングを受けたりすることもありますが、普段の職場環境でも意識的に取り入れることもできます。
5. アンラーニングするためのマインドセット
他者からのフィードバックを通じた助けが必須なアンラーニングですが本質的には気持ちがいい行為ではないので、お互いのスタンスが大事です。以下そのスタンスです。
フィードバックを受け取る側のスタンス
開かれた心を持つ
例: 「新しい視点を聞く良い機会かもしれない」と考える
防衛的にならない
例: 批判を受けても、すぐに反論せず、まず相手の意見を十分に聞く
自己反省の姿勢を持つ
例: 「なぜ私はそう考えているのだろう?」と自問する
成長の機会として捉える
例: フィードバックを個人攻撃ではなく、学びのチャンスと見なす
実験的な態度を取る
例: 「試しに新しいやり方をやってみよう」と考える
フィードバックする側のスタンス
共感的に接する
例: 「その考えに至った理由がよくわかります」と相手の立場を理解しようとする
質問を通じて気づきを促す
例: 「そのアプローチの長所と短所は何だと思いますか?」と問いかける
選択肢を提示する
例: 「別の方法として、こんなアプローチもありますが、どう思われますか?」
自己開示を行う
例: 「私も以前はそう考えていましたが、ある経験でこう変わりました」と自身の経験を共有する
漸進的な変化を支持する
例: 「まずは小さなところから試してみるのはどうでしょうか」と提案する
両者に共通して大切なのは、相互理解と成長を目指す姿勢です。アンラーニングは協力的なプロセスであり、双方が学び合う機会として捉えることが重要です。
6. One on Oneセッションの流れの実例
アンラーニングのプロセスにはいろいろ技があるのですが、One on Oneでやることもできます。
昨今のスタートアップでは1番日常的にやる時間なので、やるとしたらどんな流れになるのか例示して締めたいと思います。ちょっと凝り固まってるなーと思う方は周りの人に頼んでやってみましょう。
セッションの目的
個人の「べき論」や固定観念を探り、それらを再評価する機会を提供する
新しい視点や考え方を探索し、適応力を高める
自己認識を深め、成長の機会を見出す
セッションの構造(30-45分)
導入(5分)
セッションの目的を共有し、心理的安全性を確保する
例: 「今日は、私たちの思考や行動のパターンについて一緒に探ってみましょう。正解はありません。率直に話し合えればと思います。」
現状の探索(10分)
最近の仕事や課題について話し合い、潜在的な「べき論」を探る
質問例:
「最近、仕事で特に難しいと感じていることは何ですか?」
「その状況で、どのように対応すべきだと考えていますか?」
べき論の特定と分析(10分)
特定された「べき論」について深堀りする
質問例:
「その考え方はいつ頃から持っていましたか?」
「その考え方が役立った経験はありますか?逆に制限を感じた経験は?」
新しい視点の探索(10分)
別の視点や方法を一緒に考える
質問例:
「もし全く異なるアプローチを取るとしたら、どんな可能性がありますか?」
「他の人や組織ではどのように対応しているかご存知ですか?」
行動計画と振り返り(5分)
新しい視点や行動を試す具体的な計画を立てる
セッションの学びを振り返る
例: 「次回までに、今日話し合った新しいアプローチを一つ試してみましょう。その結果をぜひ共有してください。」
セッションのポイント
判断を控える: 相手の考えを否定せず、共に探求する姿勢を保つ
好奇心を持つ: 「なぜ」「どのように」といった質問を通じて、深い洞察を促す
共感を示す: 相手の感情や経験に共感し、安全な対話環境を作る
柔軟性を保つ: セッションの流れに応じて、柔軟に時間配分を調整する
フォローアップ: 次回のOne on Oneで、試した新しいアプローチの結果を確認する
このアンラーニングセッションを定期的に行うことで、継続的な成長と適応を促進し、より柔軟な思考と行動を養うことができます。
最後に
転職が当たり前の時代と言われる昨今ですが、「転職すれば全てが解決する」わけではありません。むしろ、新しい環境では必ず何かしらの「べき論」の衝突が起こり、その調整が求められます。
アンラーニングは、単に古い考え方を捨てることではありません。それは自分の「べき論」を意識的に見つめ、新しい環境に合わせて柔軟に適応していくプロセスです。時には不快で、時には面倒で、簡単ではないかもしれません。しかし、この過程を通じて得られる気づきや成長は、必ず次のステップへの糧となるはずです。
本記事が、転職を考えている方、転職して間もない方、あるいはチームに新しいメンバーを迎える立場の方にとって、何かしらの示唆となれば幸いです。
最後に宣伝。IVRyでは一緒に未来を作る仲間を絶賛募集しています。もし興味があれば気軽にカジュアル面談したいのでよろしくお願いします!
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