Jodi Picoult 『small great things』
先週の金曜日は祝日だったため、うっかり更新を忘れてしまいました。できるだけ毎週一回はアップするようにしているのですが、忙しいとつい怠ってしまいます。反省反省。
★★★★☆
2016年に出版されたジョディ・ピコーの小説。未訳なので、ペーパーバックで読みました。今年出た『A Spark of Light』が最新作なので、その一つ前の作品になります。
ちなみに、ジョディ・ピコーの作品はハヤカワ・ノヴェルを中心に何冊か翻訳されています。映画化されているものもあるようです。
タイトルはマーチン・ルーサー・キングの「If I cannot do great things, I can do small things in a great way.(たとえ偉大なことができなかったとしても、ささやかなことを偉大なやり方でなすことはできるのです)」という言葉からきています。
ここからも察せられるとおり、本作ではアメリカにおける人種問題が扱われています。
主要人物は黒人の看護師ルース、白人至上主義者ターク、白人の弁護士ケネディーの三人です。物語は三人の視点で交互に語られていきます。
夫を亡くし、女手ひとつで息子を育てているルースは、黒人でありながらも優秀な学歴があり、二十年間看護師として働いています。白人の同僚や友人がおり、コミュニティにも馴染んでいるように見えますが、内心では人種にまつわる屈託を抱えています。
ある日、タークの奥さんがルースの勤める病院で出産をします。しかし、白人至上主義者の二人は黒人であるルースが担当するのを拒みます。トラブルを避けるため病院はやんわりとルースを担当から外しますが、ルースは納得がいきません。
そんな折、タークの赤ん坊が急逝してしまいます。怒りと悲しみに駆られたタークは警察に訴え、ルースは逮捕されてしまいます。
理不尽な扱いに打ちひしがれるルース。そこに公選弁護士であるケネディーがやって来て、事件は法廷で争われることになります。
病室で実際には何が起きたのか。赤ちゃんの死因はなんだったのか。法廷での争いがスリリングに展開する一方、人種差別の現状や登場人物たちの抱える葛藤や心理が巧みな筆致で描かれていきます。
そして、結末では意外な事実が発覚します。
映像化されている作品も少なくない人気作家らしく、平易な英語でおもしろく読ませる作品に仕上がっています。文体に癖がなく、読みやすかったですね。
人種問題という重いテーマを扱っているにもかかわらず、物語のテンポがいいので、停滞するところがありません。特に終盤は怒濤の展開です。実にページターナー。
小説としてはおもしろく読めましたが、人種問題に関する落としどころはいくぶん無難な気もします。科学的見地からの人種ごとの能力差、アファーマティブ・アクション(被差別者の優遇措置)やそれによる逆差別の問題など、人種に関することは本当に複雑で一筋縄ではいきません。
そういったところまで踏みこむと、やや教科書的というか、図式的に感じてしまう部分もなくはないです。キャラクターがステロタイプな枠に収まっているような気もします。
また、人種が白人と黒人に留まり、ヒスパニックやアジアンがほとんど扱われていないところも物足りない気がします。
とはいえ、小説としておもしろく読めるのは確かですし、人種問題を解決するための本でもないので、上記したことはいくぶん的外れかもしれません。
人種的な問題を扱ったものならば、たとえばジェームズ・ボールドウィンのヒリヒリした感じの方が個人的には好みですけど、小説的な狙いがちがうので比べるのはナンセンスでしょう。
ペーパーバックで500ページとやや長めですが、意外とすらすら読めます。英語の勉強にもよいかもしれません。
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