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オピオイドによる便秘(OIC)の処方提案についての考察-情報収集とトレーシングレポートの作成まで

先日、退院後初めての来局した、がん疼痛の緩和ケア中の70歳の男性患者さんから便秘に関するご相談を受けた。レスキューのオキノームは1日1回だけの服用で、疼痛のコントロールは上手くいっているが、便秘に悩んでいるようだ。

便秘の状態

排便は不定期で、ブリストル便性状スケール(BSFS)1-2

処方内容

-フェントステープ4mg 14枚
-フェントステープ1mg 14枚 
   1日1回1枚 上腕、胸部、大腿部のいずれかに貼付
-オキノーム散10mg 1回3包 20回分
-【般】エソメプラゾールカプセル20mg 1回1カプセル(1日1カプセル)
   1日1回朝食後 14日分
-グーフィス錠5mg 1回1錠(1日1錠)
   1日1回朝食前 14日分
-酸化マグネシウム錠330mg 1回1錠(1日3錠)
   1日3回毎食後 14日分
-ドンペリドン口腔内崩壊錠10mg 1回1錠(1日3錠)
   1日3回毎食前 14日分

目的

以下の目標を達成するために科学的根拠のある資料から情報を集め、服薬情報提供書(トレーシングレポート)と患者に提供できる生活習慣改善のための資料を作成する。

  • 排便コントロールを改善する|目標値→BSFS:3-5

  • 生活習慣改善のためアドバイスをする。

資料からの抜粋

資料からの抜粋はGoogleドキュメントに集約し情報を整理した。Googleドキュメントの共有機能を活用して、他の薬剤師との症例検討会の資料にもそのまま活用できるだろう。

がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2022年版)

オピオイドが原因で便秘のあるがん患者に対して、オピオイドの投与後に下剤、末梢性μオピオイド受容体拮抗薬を、またオピオイドの投与と同時に下剤を定期投与することを推奨する。

がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2022年版),P144

浸透圧性下剤・大腸刺激性下剤は安全性と効果が高いことから海外のガイドラインでも第1選択となっている。第2選択として、効果不十分な場合は末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(スインプロイク®️)が推奨。第3選択としては、上皮機能変容薬のルビプロストン(アミティーザ®️)が候補になる。医学論文の記載も多く効果も期待できるが、まだ強く推奨するには至っていない。悪心のリスクは少ないようだが留意する。

今日の治療指針2023

がん患者において、便秘は頻度の高い症状である...オピオイドや抗コリン作用をもつ薬剤、がんによって二次的におこる運動量の低下や経口摂取の低下の影響などさまざまな原因...水分摂取や適度な運動を促す…
便秘の治療としては、浸透圧性下剤と大腸刺激性下剤に加えて、適宜坐剤や浣腸、適便といった経直腸的な処置を組み合わせる。

今日の治療方針2023,P1776

今日の治療指針は具体的な処方例が記載されているので、処方提案に参考になる。現実的な処方提案には欠かせない書籍といえる。

オピオイドによる便秘と腸の機能不全の管理: イタリアの学際的なパネルによる専門的な意見

PMID: 34086265
OICの薬理学的治療の第一選択として推奨されるのは、浸透圧性下剤(好ましくはポリエチレングリコール[マクロゴール])、またはアントラキノンなどの刺激性下剤である。効果が不十分な場合は、補完的な作用機序を持つ第二の下剤を追加する必要がある。下剤の併用療法に反応しないOIC患者には、メチルナルトレキソン、ナロキセゴール、ナルデメジンなどの末梢性作用μオピオイド受容体拮抗薬(PAMORA)による二次治療を考慮すべきである。ルビプロストンなどのプロキネティクスや腸管分泌促進薬は第3選択薬として適切かもしれないが、OICに対するこれらの使用はイタリアでは適応外

Management of Opioid-Induced Constipation and Bowel Dysfunction: Expert Opinion of an Italian Multidisciplinary Panel

PubMedで該当する論文を検索。概ねガイドラインとの違いはないようだ。イタリアでも浸透圧性下剤と大腸刺激性下剤は第1選択のようだ。

e-ヘルスネット-便秘と食習慣

便意を我慢せず、便意を感じた時にトイレに行くようにすることも大切です。排便を我慢することが多いと、便秘症が悪化しやすくなります。また、適度な運動を行うことも大切です。運動を行うことで、腸の動きが促されます。食習慣に関しては、まず、1日3食を規則正しく摂取することをおすすめします。特に朝食の摂取は体内リズムを整え、胃や腸を刺激し、排便反射を促しやすくします。朝食後にトイレに座る習慣をつけると排便習慣が整えられやすくなります。また、水分をしっかりとることで、便がやわらかくなり、排便がしやすくなります。

e-ヘルスネット-便秘と食習慣

OICにおけるセルフケアの明確なエビデンスはないが、リスクはないので実施に問題ないと判断した。以下のオリジナル指導せんを渡しておくとする。

考察・トレーシングレポートの作成

OIC対策として以下の点を考える

  1. 浸透圧性下剤の追加投与

  2. 大腸刺激性下剤の追加投与

  3. 末梢性μオピオイド受容体拮抗薬の追加投与

  4. マグミットとエソメプラゾールの相互作用(胃内PH↑によるマグミットの作用減弱)

  5. セルフケアの提案

この考察を基に服薬情報提供書(トレーシングレポート)を作成。

概要・患者情報

患者さんから便秘が改善しないという訴えがありましたのでご報告いたします。可能でしたら下剤の処方追加・変更のご検討をお願いいたします。

提案

BSFS1-2でQOLの低下がみられます。オピオイド誘発性便秘(OIC)の可能性が高いと推察いたしました。またエソメプラゾールと酸化マグネシウムの相互作用による酸化マグネシウムの効果減弱の可能性もあります。
がん疼痛の薬物療法GLにおいて、浸透圧性下剤・大腸刺激性下剤を投与し効果不十分な場合、末梢性μオピオイド受容体拮抗薬を追加すると記載があります。この記載を基に以下のように処方提案致しました。患者さんの背景が該当しない等、不適切なご提案であれば何卒ご容赦の上、ご指導のほどお願い申し上げます。

浸透圧性下剤・大腸刺激性下剤の追加
-モビコール配合内用剤LD 1回1-2包 1日1-3回 
初回1日1回、増量は2日間以上の間隔をあける

-センノシド錠12mg 1回1-2錠(最大4錠) 1日1回 就寝前
or
-ピコスルファート内用液 1回10-15滴 1日1回 就寝前

効果不十分な場合
-スインプロイク錠0.2mg 1回1錠 1日1回 朝

経直腸的処置の検討
-テレミンソフト坐剤(10mg) 1回1個 挿肛 頓用
-グリセリン浣腸 1回40-60mL 頓用




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