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【「トンネル」探索ガイド】トンネル世界と12の人類


トンネル世界と12の人類

トンネルに雨は降らない 「トンネル」掘削秘話 秋帽子
語り部ブログ

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語り部:田宮 伴(Bann Tamiya)

万和8年11月8日公開(前回の記事へのリンク

もし地球の表面が透明なら、何日も腹這いになって、何層にもなる不思議な地形をのぞき込めただろう。しかし、太陽が照らす地上の住人にとって、地下は常に見えない世界だった。

— ウィル・ハント『地下世界をめぐる冒険 闇に隠された人類史』(棚橋志行 訳)

この地下深い片麻岩の空洞は「観測所」と呼ばれている。というのは、深い地下にあるけれども、実際には星を観測する場所だからだ。

— ロバート・マクファーレン『アンダーランド 記憶、隠喩、禁忌の地下空間』(岩崎晋也訳)

トンネル世界

 ブンブンたちの暮らしているトンネル世界は、我々の暮らす地上世界と同じ環境に存在している。
 つまり、大気と大陸と海があって、生き物がいる世界だ。人類も、その一員として生存している。
 太陽は一つだけで、春夏秋冬は毎年同じように順番に巡ってくる(太陽が三つある世界では、必ずしもそうとは限らないものだ)。
 しかし、違うところもある。
 トンネル世界の住人たちは、日々の生活にかかわる一切を、地表に姿を現すことなく行う。これは一切の例外を認めぬ厳格なしきたりであって、人々は禁を犯さぬよう、細心の注意を払うことを求められる。

 もちろん、人々は好き好んで地下生活を始めたわけではなく、やむを得ぬ事情により、そうせざるを得なかったのである。
 しかし、長く地下で暮らすうちに、住人たちはすっかりその環境に適応し、別段の不自由を感ずることはなくなった。彼らにとり、「地下」という語は、安全、安眠、快適、豊かさ、恒久性といった、安定的かつ肯定的なイメージを喚起するものとなっている。
 地下は寒暖の差が少ないし、地震や山火事の影響も受けにくい。安全で快適だ。また、場所によっては、水源や熱源、鉱脈もある。ハデスは裕福な神なのだ。

 いざ始めてみれば、地下生活も悪くない。
 たとえば、嵐が吹き荒れ、雷光がはためいているときに、むき出しの地表を歩きたいという者はいないだろう。安全な屋根の下に避難して、一息つきたいのが人情である。トンネル世界では、あなたの上には地塊の大屋根がかかっている。
 ある程度の深度に達すれば、季節による温度変化もなくなる。深さ10メートルくらいの地温は、一年中いつでも、地表の平均気温と大体同じだ。もっと深くなると、おおむね一定の割合で温度が上がってくる(ただし、マグマや熱水は避ける必要がある)。つまり、適切な深さを見つければ、常夏どころか、春夏秋を自由に選べるということになる。もう、ダルマストーブに石炭をくべなくてもいい。冬が好き?ならば、氷河の下が気に入るかもしれないな。
 そもそも、わざわざ開けた場所を選び、柱を立てて壁を張り、天井を乗せるなんて、ムダなことではないか。地下に穴を掘れば、一度に全部まかなえる。遠い人類の祖先は、(危険な先住者と折り合いをつけられた場合には)洞窟を賢く活用していたものだ。
 ただし一般には、既存のトンネルがない場所では、新しく街を広げるのは手間がかかる。ブンブンたちの世界では、よんどころのない事情により、多くの人が地下に移住を強いられることで、初めて地下世界の夜明けが訪れたのだ。

 その事情についてはさておくとして、本稿では、物語中に登場するいくつかの場所についてご紹介しよう。もちろん、すべての地点が、トンネルのどこかにつながっている。

まあ、ちょっとした危険も、ないことはない

地点1.ガラスの国(キャラス郷)

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