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影どろぼう

勉強も運動も苦手だった。
運動会の徒競走では一番最後だし、テストでは毎回お母さんに怒られるかひやひやすることばかりだった。


学校の帰り道、目の前にはクラスに人気者の男の子がいた。彼は運動も勉強もできる僕とは正反対の人。夕方の日差しが強い日、彼の後ろには細く、長く、それでいて大きく見える影が伸びていた。
僕はなんともなしに彼の影を踏んだ。


すると、彼はそのまま歩いているのに、影だけは僕に踏まれたままだ。
僕は彼の影を盗んだのだ。その影は僕の後ろに伸びる、もたっとした影にくっついた。今まで感じたことがない罪悪感と高揚感を感じていた。
その日から、たくさんの人の影を盗んだ。隣に席の女の子の影、クラスの学級委員長の影、校長先生の影。
影を盗まれた人は自分の影が盗まれたことに気づかない。みんな自分の足元や後ろを後ろを振り返ることを知らないらしい。でも僕が影を盗んだ人は、どこか元気が無くなっていた。
もっと不思議なことに、影を盗むと、自分の影が大きく、濃くなっていく。それに伴って、自分に大きな光を浴びているような、そんな快感を感じることができた。僕はすっかり影どろぼうになっていた。
影どろぼうは忙しかった。もう学校にいるほとんどの人の影は盗んでしまった。

そんな生活を1年ほど続けていたが、下校中に日課になった影どろぼうをした時、足がとても重くなるのを感じた。後ろを降りた帰り自分の影を見ると、だんだんと自分の目線が低くなっていく。そして地面に写った影が上に伸びていてき、人の形になっていった。自分はどんどん低くなっていく。影からのびた人は、校長先生のように威厳があって、学級委員長のように聡明で、隣の女の子のように可愛らしく、クラスの人気者のように輝いてた。僕は地面と同化して影なった。自分の理想を詰め込んだ人の足もとから離れられることはなかった。

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