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リトリート参加の振り返り②

雑考② Contemplative practice(瞑想的な修養)とシステム思考の話。

今回いちばん「なるほど、そんな風に考えたことはなかった」的な驚きがあったのが、この絵です。つまり、私たちの生活の中でさまざまな感情を揺り動かす出来事が起きるけれど、その感情を積もらせて爆発させたり無力感の犠牲者になってしまったりするのではなく、意図的な修養によってセルフマネジメントできるようになっていこう、と。

ノート

■ システム思考のストック&フローという概念を知る人にはお馴染みですが、この図の上段の真ん中、赤い階段のようなものが描かれた箱が「積み重なった感情の強度」です。これは、以下に紹介するインフロー(流入)とアウトフロー(流出)によって変化する「ストック(蓄積量)」です。左側の矢印が示すのが、感情的緊張を高めるような出来事。インフローと呼ばれます。逆に、感情的緊張を下げるものは、アウトフローと呼ばれます。

言葉はややこしいですが、シンプルな話です。お風呂で言うと、注ぐ水の量がインフロー、バスタブの水量がストック、抜けていく水の量がアウトフローです。バスタブの水量を見るときに、その水量が増えた減っただけでなく、注いでいる量、流れ出る量を見る必要がありますよね?

■ この図に戻って。昨今のパンデミックや気候災害で私たちの多くが経験しているように、感情を動かす出来事が繰り返し起きると、私たちの感情的緊張のレベルが積み重なるように高まっていきます。これは、感情的緊張を高めるインフローが、それを解消するアウトフローを上回っている状態です。

この状態が続き、あるとき心の中のプールがいっぱいになって溢れてしまうと、その反応としていろいろとな不都合が起きます。怒りや悲しみを爆発させる場合もありますし、もっと頻繁に見られるのは、外的環境を自分の手に負えないものだと諦めて、完全に受け身な態度になってしまうことです。

圧倒されて受け身になるときに広がる、「現実に対して私たちができることは何もなく、私たちは自分を救えない無力な存在である」という考え方を、運命主義(fatalism)と呼びます。たくさんの子どもや若い人たちがこの状態にいるように思えて苦しいです。

■ Contemplative practice(瞑想的な修養)とは、右側のアウトフローに働きかけるものです。放っておくと積み重なり高まっていく感情の強度を、自分自身の修養を通じて、引き下げていくことを学んでいきます。私たちの意識のプールが感情でいっぱいになって、ただ受け身になったり爆発したりするのでなく、スペースを創り出して能動的な思考と行動を選んでいくため、内面の修養が必要なのです。

「構造が変わると動きが変わる」というのは、システム思考の中心にある考え方です。アウトフローのキャパが変わると、感情的緊張がどんどん積み重なるのか、それとも一定に維持されるのか、私たちの感情的緊張の挙動(動きのパターン)が変わります。

■ 大切なのは、このときに怒りや悲しみ自体を直接的にコントロールしようとすると「対症療法」になりがちだということです。お酒を飲んだり、身体を動かして気分転換したり。決して悪いものではなく、必要なことも多いのですが、対症療法が根本解決であるかのように扱われると、しばしば不都合が起こります。

もう少し根本的な解決策として、ピーター先生はキャパシティ・ビルディングを挙げました。私たちが経験する感情の揺れ動きに対して為すがままに反応するのではなく、その感情や反応を認識して、自分の意識の向け方や思考、行動を選んでいく。その選択のスペースを創ることを学んでいくことです。

前提として、感情の揺れ動きはなくなりません。それは神経の反応=物理的な現象であり、少なくとも直接的にはコントロールできないものです。ただ、その揺れ動きにハイジャックされてしまうのか、それとも感情に気づいて取り扱う知性(Emotional intelligence)を高めていくかは、選ぶことができます。

■ ぼく自身で言えば、何より大きかった学びは「What matters?(大事なことは何?)」という問いを、以前よりも頻繁に思い出せるようになっていること。怒りに身を任せることは、容易いのです。何より、義憤に駆られている間、「私」は正義の味方でいられます。

「その怒りを解消することより大切なものはありますか?」と自分に問いを投げると、ほとんどの場合、もっと大事なことがあるのです。

誰かの発言にカッとなったとや傷ついたとき、その感情に突き動かされることを習慣的に選び取るのではなく、「本当にその話し合いやワークショップ、ミーティングの場で大切なことは何か」、自分に問いかけて、不快な感情の発散より、良い対話が起きるためのサポートに意識を向けられたなら、結果として、感情的な緊張の相対的な重要度が下がっていく気がしています。


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